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その写真にはきっと  作者: 楓馬知
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ほとりの写真 -2-

 お兄ちゃんがいなくなって、二年と少しがたった。


 昔はカメラを抱えて毎日のように外の世界に飛び出していたのに、お兄ちゃんがいなくなってからは、私の世界のほとんどはこの家の中だ。

 なにをするでもなく、ただ自室で無為な時間を消費する毎日。外に出るのは中学に登校することを除けば、あとは友だちの桃ちゃんやお父さんやお母さんが私を外に連れ出すときくらい。以前はあれだけ輝いて見えた世界も、どうしてかくすんでつまらないものに見えてしまう。


 もうじき高校生。

 それでも私の中の時間は、お兄ちゃんがいなくなってから、ずっと止まっていた。


 そんなとき、私はお母さんから聞いたのだ。

 お兄ちゃんは昔、瀬戸高の写真部に所属していたんだよって。


 お兄ちゃんがいた頃は、飽きることもなく毎日毎日写真を撮っていた。それでもお兄ちゃんがいなくなってからは、カメラを見るだけでも涙が溢れてきて、カメラは押し入れの中の、さらに奥の箱にしまい込んでしまっていた。


 私がもう一度カメラを始めようと思ったきっかけは、写真部のこと以外にもう一つある。

 私と同じように、お兄ちゃんにカメラを教えてもらった男の子。その男の子の名前を、たまたま手に取った雑誌で見つけたからだ。

 お兄ちゃんも得意だった風景写真、霧の中に佇む雄大なシダレザクラが優秀賞に選ばれていた。


 その写真の撮影者が、日宮真也君。

 最初は同姓同名の別人かと思った。でも歳も同じで東京在住。偶然とは思えなかった。なにより、写真に微かだがお兄ちゃんの面影を感じ、わかってしまった。


 ああ、これは、真也君の写真だって。

 私は、なにをしているんだろうと思った。真也君はこうして、お兄ちゃんがいなくなっても写真を続けているのに、私は、いったいなにをしているんだろうって。


 カメラが、写真が人生の全てだなんて、大それたことをいうつもりなんてない。

 それでも私には、やっぱりカメラが必要だと思った。


 お兄ちゃんから教えてもらった写真を、このまま止めていいわけがないと。

 押し入れの奥に体を突っ込み、箱の中から取り出した私のカメラ、D80。

 かつてはカメラを見るだけで止まらなくなってしまった涙も、もう出なかった。


 でも、現実は残酷だった。


 三年近くも使ってこなかったかつての友だちは、それでも充電せずとも起動してくれた。レンズキャップを取り外し、おそるおそる、本当に久しぶりにファインダーをのぞいた。


 黒。


 一瞬、カメラが壊れてしまったかと思った。


 いつもきらきらと世界の光を撃ちしてくれたレンズの向こう側は、真っ黒だったのだ。

 だが、すぐに違うと気がついた。

 おかしいのはファインダーではない。カメラではない。レンズではない。


 おかしいのは、壊れているのは、私だ。

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