月光
「祈り」のため憔悴しきったルシアナに肩を貸し彼女の部屋まで一緒について行ったが流石に夜遅くになるので中には入れてもらえなかった。
すでに連絡が入っていたようで何人かの女中がルシアナの部屋に待機していた。
俺は部屋の前でお役御免となる。
ファイネンがきちんと頭を下げて
「今日は何から何までお世話になりました。この恩はいずれ」
そう挨拶をして部屋の中へ消えていった。
俺は手持ち無沙汰になりどうしようかと思案してると部屋のドアがもう一度開きファイネンがまた出てきた。
彼女は手に毛布を持っており俺に手渡してくれる。
ああ、そういえば俺は切り刻まれた酷い格好をしていたのだった。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って毛布を受け取る。
ファイネンは少し口元を緩めてもう一度お辞儀をして戻っていった。
俺も踵を返し毛布を羽織ってこの場を去る。
一度、舞踏会の会場前まで戻ってきたもののなにやら警備兵が行ったり来たりしてたり貴族たちが次々と馬車に乗り去って行ってたりと会場はゴタゴタしているようだった。後始末に付き合わされるのも億劫だと思い直し、早々に部屋に戻ることにする。
舞踏会周辺は松明もたくさん出ており煌々と灯りが焚かれていたが離れてしまうといつもの静かで真っ暗な夜が戻ってくる。
それに今日は空気が澄んでいるのか月明かりが綺麗で明かりがなくとも相当に夜目がきく。青白く暗い世界はなんとなく幻想的で俺はこのまま部屋に戻るのを躊躇われて少し遠回りをして聖堂の中庭を歩くことにする。
夜の中庭は静かで誰もおらず、小さく虫の鳴く声がするくらいだった。
俺は月明かりを頼りに周りの空気感を楽しみながらゆっくりと歩く。
暫く歩くと、一瞬揺らめく人影に気づく。
俺は少し背筋に冷たいものが滑る気がして肝を冷やした。
「モリアツではありませんか?」
少し低い、だが女性らしい響きのある聞きなれた声で名を呼ばれる。
その声で影の主が分かったとたん恐怖は温かみに変わる。
「シュレンか?何をしてるんだ?こんな場所で??」
俺は影に近づいていく。朧気だった人影が次第に見知った姿へと変わっていく。いや、見知った姿ではなかった。
そこに立っていたのはいつもの男装の麗人ではなく、見目麗しき乙女のような女性だった。
タイトな赤いドレスを着こなし肩や肩甲骨を露出した大人びた格好が実にセクシーだった。
綺麗な深い青の髪は月明かりの下でもしっかりと輝いていた。
「どうしたのです?あなたこそこんなところで??」
少し驚いた顔をしていたシュレンが俺が近づくにつれ少し顔をそむけた。照れてるのか?
「今から部屋に帰ろうと思ったんだけど月が綺麗だったからさ、少し遠回りをして戻ろうかと・・・」
そう言いながら月明かりの下で見るセクシーな恰好をしたシュレンは本当に美しく、つい言葉を失った。
それに気づいたシュレンは少しムッとして
「どうかしましたか?なにかおかしいですか??」
自分の恰好をクルリと振り返りながら質問してくる。
俺はそんな彼女の質問の意味が分からず
「おかしい?どこが??こんなに言葉にならないくらい美しいのに・・・・?」
少し怒気を孕んだ回答にシュレンはびっくりする。
そして褒められたことを理解して頬を染めて
「え・・?あ、ありがとうございます。初めて、こんなドレスを着たもので・・・なんだか、しっくりこなくて・・・」
彼女はいつもの凄然とした姿でなく少し自信のなさげな少女のように小さな声で答えた。
この間の裸を褒めた時より自信なさげなのは初めてのドレスだったからか。
「ああいう社交の場はあまり出ないのかい?」
そう質問するとシュレンははにかむように笑い
「いえ、いつもは男装で出ていたのです。その方が落ち着くし立ち回りも楽なもので」
そう答えながらスカートの裾を握りひらひらさせている。
「今回は・・・ちょっと・・・試しに着てみようかな・・・・と・・・」
恥ずかしそうにそうつぶやく彼女はとても剣聖と呼ばれる人物には見えず、恥ずかしがりのただの女の子にしかみえなかった。
俺はそんな彼女が可愛らしくてしょうがなく思えた。なんとか自信を持ってもらいたくて
「すごく似合ってる。誰もがそう思ってるさ。この月明かりの下なら月の女神のようだ」
どうも熱くなると臭いセリフをすぐに吐きたがる男だと最近自分を理解してきた。でもなんとかこの感情を伝えたかったのだ。
すると彼女は少し安心したように
「そうですか・・・そう言ってもらえると、なんだかとても嬉しいですね」
そう言って優しく微笑んだ。
俺はふと気になってシュレンに訊ねる。
「そういえば、剣を振ったあと見かけなかったけどどこにいたの??」
そう問うと彼女は少し落ち込むように
「・・・どうも恥ずかしくて早々に会場を後にしました。みんなと一緒にいたかったのですが・・・」
少し寂しそうに答えた。俺はそんな彼女が愛おしく思えて羽織っていた毛布をストンと落とし上半身
が剣撃の後でボロボロなのを構いもせず彼女に近づき片膝をつき
「綺麗なお嬢さん、こんな格好で申し訳ないですが一曲踊っていただけませんか?」
俺はボロボロの服装で彼女を真顔で見据える。
シュレンは一瞬俺の恰好をみてびっくりしたがすぐににこやかにほほ笑み、
「喜んで」
と手を差し出す。
俺はその手に口づけをすると立ち上がり彼女を優しく抱き寄せる。普段、彼女との身長差はないが今日のシュレンは少し高いヒールを履いているためおれよりちょっと身長が高い。
そんなこと気にすることなくゆっくりとワルツのステップを踏み始める。
音楽も観客も照明すらない夜の公園で月明かりだけを頼りに俺たちはワルツを踊る。
肌寒い夜に彼女の温もりだけを感じる。優しい吐息、少し顔を上げると彼女の潤んだ瞳が上気した頬が印象的だった。
俺たちは軽やかに舞った。そしてクルリとターンをして彼女は後ろの大きな木にドンッとぶつかる。俺は彼女から手を離し、木と自らの身体で彼女が動けないように固定する。
そしてゆっくりと彼女の唇を奪いとる。
頭の芯がしびれるような優しい接吻を月明かりの下で貪るように奪いつくす。
そしてシュレンを強く抱きしめてゆっくりと彼女の初めてのドレスに手をかける。
とある実験のためもう一本書き始めました。そちらは片手間にできるのですが時間だけは相当必要です・・・。自分が書きたいのはこちらなのでできる限りはこちらを進めたいと思ってます。
さて、クズやろう化はどんどん進んでおりますw
ほんとは濡れ場やりたいんですがそれやると今後主人公にヘイトしかたまらなくなりそうなので
濁しておきたいと思います。
俺の中のヒロイン愛が深すぎて困る・・・。
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