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凶刃

静かな楽曲を楽団が奏でる中、俺は彼女の前に立つ。ルシアナは凛として立ち俺を見て優しく微笑む。俺はゆっくりと腰をかがめ


「我が聖女、どうか私と踊って頂けませんか?」


彼女を見上げ手を差し出す。

彼女は少し頬を染めてゆっくり手を出し


「喜んで。モリアツ様」


そう目を細めて笑う。

俺はその手を取ると、彼女を奪うように引き寄せてゆっくりと踊りだす。

彼女は俺に身を委ね2人でゆっくり回る。彼女のスカートはふわりと円を描く。

間近でみるルシアナは今日も美しく可愛かった。


「今日は誘ってくれてありがとう。新しい経験だったよ」


そう言うと彼女は少し申し訳なさそうに顔を伏せて


「いいえ、モリアツ様には嫌な思いをさせたことになります。無理にお誘いするのではなかった」


彼女はギュッと俺と繋いだ手に力を込める。

そんな健気さが俺の心を揺さぶる。

彼女の腰に回した手で彼女を引き寄せその甘い吐息が匂うほどに顔を近づけて


「ルシアナは悪くないさ。俺が自分で招いたことなんだから」


吸い込まれるような彼女の瞳から目を逸らせない。、

彼女もまた熱病のように頬をバラ色に染めて俺を見る。

ゆっくりと身体を身体を波に任せるような感じでステップを踏みながら俺には彼女しか、彼女には俺しか見えていない時間が過ぎていく。


「キャアアアアアアアアアアアア!!」


突然、絹を裂くような悲鳴が起こる。

最高にムーディーな雰囲気をぶち壊され俺たちはハッとなりそちらを向くと見すぼらしい恰好の汚れた男が剣を持って荒い息を吐き出し出しながら笑っていた。その前には女性が一人、背中に重度の刀傷を受けて倒れている。血が大量に溢れ出ていて致命傷かもしれない。


「うわああああああぁぁぁぁ」


「な、なんだ、こいつどこからっ!!!」


「きゃあああああああ」


会場は騒然となる。しかし誰よりも早く動いたのはルシアナだった。

彼女は急いで倒れた女性に駆け寄ると服が汚れるのもかまわず血だまりに倒れる女性を抱え上げて祈りの態勢に入る。

それを見て剣を持った男が焦点の合わぬ目で怒りを表す。


「な、な、なんで聖女さまがその売女を助けようとするんだっ!!!そいつは死んで当然の女なんだっ!!邪魔をするなあぁぁ!!」


そう叫びルシアナに向けて剣を振り下ろす。

その斬撃はいかれた素人のものとは思えないくらい鋭かった。


ゴスっ!!!


間一髪、俺はその攻撃とルシアナの間に割って入る。頭に直撃したので一時的に視界がぐらぐらしたが痛くはなかった。


「モリアツっ!!!」


セナが助太刀に入ろうとしたが


「セナっ!!来るな!!それなりに手練れだ!!」


そういうとセナも一旦止まる。いくら彼女でもドレス姿で剣もなくそれなりの腕前の敵に対して無傷では済まないだろう。

俺は視界が安定すると男の手を掴みにかかる。

だが、男の手を掴もうとするとそこにはなにもないようにスルリと俺の手は透き通るように空を掴み男を掴むことができず仰天する。

なんだ、こいつ、透明人間か???

空を掴んで驚いてる俺を男は優越感で口元を大きくゆがめる。


「けけけけ、お前に俺がとめれるかよっ!!」


男は俺の顔面を剣の柄で殴りつける。一瞬身体がのけ反るがなんとか踏みとどまり、今度は男を組み伏せようと飛びかかるがやはりすり抜け床に這いつくばる形となる。

その姿が面白かったのか男はゲラゲラ笑いだし


「けっけっけっけ、なんだそのまぬけな姿は。おい、かっこつけてんじゃねーよ!!おい!!」


そう笑いながら俺を何度も剣で斬りつける。

痛くはない。それにルシアナたちから気を逸らせれた。俺は剣で殴られながら反撃のチャンスを探す。

セナは相手の能力を見極めようとしていた。

こいつのは「スキル」か?

俺は何度か斬りつけられすでに衣類はボロボロだった。


「ちっ!!こいつ死にやがらねぇ!!もういいてめーに用はねーんだよっ」


そういいながら剣を横凪にないで俺を吹っ飛ばそうとする。

俺はその剣の方を掴む。

持ち手はスルリとスルーしたが剣自体は握ることができた。がしりと剣を握ると男はギョッとして焦る。


「な、なんだてめぇ!!は、離せ!!!」


俺は絶対に離すまいと両手でがっしりと掴む。

そこに燭台を剣代わりにして雷撃の魔法を纏わせたセナが素早く男に近寄り燭台を突き刺す。

が、男をすり抜けて床に刺さっただけだった。雷撃はその場で軽い爆発を起こして消滅する。

俺はそのあおりを受けて少し痺れるが剣を離さず男と揉み合いを続ける。


「だめ。やっぱり攻撃が当たらないっ!!」


セナは飛び退き燭台を構える。

打つ手なしと思われたその時、ふわふわと煙のようなものが男を包み込み始める。

すると剣を奪おうとしていた男の力が急に抜け、俺は剣を奪って尻もちを着く。

男は弛緩しきった顔であたりを見回すと斬りつけた女を見て一瞬怒りの表情になったがそのまま崩れる。

バタン

そう大きな音を立てて男が床の上に倒れた。

俺たちは何が起こったか分からず呆然とする。


「さっさと捕縛したまえ。起き上がったら面倒だぞ」


そう声をかけてきたのは赤紫のエロスなドレスに身をつつんだ銀髪の女性、マーファだった。


「帰ろうとしていたら妙に騒がしいから戻ってみれば・・・。セナ、君は攻撃魔法以外の精神系の魔法の苦手をそろそろ克服したほうがいいな」


セナは苦虫をつぶしたような顔でマーファを睨む。

遅れてこの会場の入り口が力強く開き何人もの警備兵がリンバリー卿に連れられて入ってくる。

兵士たちは状況を確認してマーファの指示で眠っている男を拘束する。


「すまない。対応が遅れてしまった。全員怪我はないかね?」


俺たちに駆け寄りリンバリー卿が状況を確認する。


「あちらの女性が・・・」


俺はルシアナが祈っている女性を見る。背中の出血は止まっているように見える。マーファが斬りつけられた女性とに近づき女性の容態を確認する。


「怪我はふさがっているようだ。呼吸も安定している。るー・・・ルシアナの処置が早かったのが功をそうしたようだ」

そうマーファは女性を診断してルシアナの肩に手を置く。するとルシアナは憑き物が落ちたように我に返り肩の力を抜く。彼女を覆っていた薄い光がゆっくり落ち着いていく。


そこに何人かの神官が到着してルシアナに代わり祈りを始める。まだ予断は許さないのだろう。

ルシアナは疲労が濃く顔が真っ白になっていた。

たぶんルシアナがいなければ即死に近かったのかもしれない。


「ルシアナ、大丈夫かい?立てるか?」


俺は座り込んだままの彼女に近寄り声をかける。

ルシアナはゆっくりこちらに視線を動かし


「モリアツ様、お怪我はありませんか?」


視線が定まらず覇気のない声で立ち上がろうとするが力が入らないようだ。

そんなルシアナに俺は両手を差し伸べる。

彼女は手を取ろうとして自分の両手、ドレスが血まみれなのを躊躇する。

俺は苦笑して彼女に近づき手を取って腰に手を回し彼女を起たせる。


「あ・・・モリアツ様、汚れます・・・」


ルシアナは申し訳なさそうにそういうので俺は笑って


「俺の服はすでにボロボロさ。気にする必要はないさ」


何度も剣で斬りつけられたのだ。服はボロ雑巾のようになっていた。

彼女は立ち上がりはしたがふらついて倒れそうになるのを支える。

俺は事態の収拾のため忙しく指示を出しているリンバリー卿に声をかけ


「彼女の疲労が激しいのでここはもう任せてもいいですか?」


そう聞くとリンバリー卿もルシアナの様子を見てコクリと頷き


「ああ、聖女さまはおさがりください。まだ何があるかわかりません」


俺は一応セナとマーファにも目配せをする。

セナは心配そうにルシアナに走りより


「ルシアナ、大丈夫?モリアツ、弱ってる彼女に悪さしたらしょーちしないわよっ!!」


そうガミガミ言われる。ルシアナは力なく笑い


「セナ、マーファ、後をお願いね。ごめんなさい」


そう頭を下げる。マーファはそんなルシアナの頭をポンポンとなで


「ああ、後は見届けておく。とりあえず戻って休め」


マーファにそう言われるとルシアナは安心した顔になり俺の顔をみて頷く。

2人で最初に入った扉に向かって階段を上がり扉を出たところでファイネンと合流する。

彼女は血相を変えて毛布を持って会場に入ろうとしていたところだったようだ。

俺たちはとりあえずそのまま会場を後にしてルシアナの部屋を目指した。

今回の展開をどうしようと悩みに悩んで方向転換。

なぞの乱入者によって話にしまりがでました。ダラダラした展開になりそうだったので上手くいったかな、と。ただ予定よりさらに押す羽目になりました。

最後のシナリオが収まらずまて次号となります。

ついでに追加でもう一話余談が加えねばならぬようです。


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