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バドガーラ・リュセウス

「え?今何と言いました?」


昼食後のひとやすみ中に訪れたファイネンが大きな箱を差し出しながらお辞儀をしている。


「本日の夜、大聖堂の迎賓の間にて行われる舞踏会に参加していただけますようお願いに参りました。これが礼服になります。袖を通してみてください」


どうも聞き間違いではなかったらしい。俺は少し悩んで


「どうしても出なきゃダメですかね?俺、社交のマナーとかよくわかんないんですが」


なんとか逃れれぬものかと出れない理由を探る。


「大丈夫です。今より必要最低限の作法だけをお教えいたします。ドゥーラント様にご許可は頂いてますので」


彼女はそう言うと部屋にあるテーブルへ移動する。

そしてもう一度深々とお辞儀をして


「ルシアナ様のためにございます。どうかご協力を」


そう付け加えた。

そうだよな。ファイネンが来るということはそういうことなのだ。

俺も腹をくくり彼女に礼をしてテーブルに座った。

厳しいマナーレッスンのスタートだった。


夜が訪れ俺は舞踏会会場へと足を運んだ。小さな待合室に通されファイネンが来てくれて最終的な身だしなみと行事の流れなどを確認してルシアナとの合流場所へ移動する。


廊下の天井ですら何メートル上なのかと思うくらい高く、きらびやかなシャンデリアが煌々と光を射していた。

あれ、電気じゃないよなぁ。

そんなことを考えながら周りを見渡す。豪華、豪華、豪華。豪華のオンパレードのような場所だった。恐ろしいのはここがまだ会場の外だってことだ。待合室、というか扉前の廊下?

俺は息苦しくて首元のネクタイを緩めようとして思いとどまる。ファイネンがきっちりと着付けてくれたものを崩すのは忍びなかった。

俺は堅苦しいスーツとは若干作りが違うが教団の正装でバリっと着飾られていた。髪も香油で固められなんだか七五三のような気分だった。

大きな扉の前で待つこと数分。


「モリアツ様、すいません。お待たせしました」


声のした方向に顔を向けるとそこには

質素だが綺麗なドレスに身を包んだルシアナが立っていた。薄紅色の髪をアップにして髪の後ろにヴェールのついた髪飾りを付けている。

控えめながらお化粧もして聖女としての凛とした表情をしていると俺の知らない女性みたいだった。


「今日はありがとうございます。すこし窮屈でしょうがよろしくお願いしますね」


そう言ってお辞儀をした。

女性にここまでお願いされたら付け焼刃とはいえエスコートせざるえない。俺は彼女の前に跪き


「慣れない身ですが今日はお伴させていただきます」


そう言って彼女の手を取り甲に口づけをした。

うん、キザだったが恰好がかっこうのなのであまり気にならない。

ルシアナはいつもの少女の笑みで


「はい、お願いします」


と答え、俺は立ち上がり彼女の手を取り扉の前に立った。

さぁ、慣れないことをすることになるがこれもまた戦場なのだろう。いつもルシアナが立っている戦場へ俺も一緒に赴くとしよう。


ルシアナと扉の前に立つと扉に控えた給士の恰好をした男性が軽くノックをする。

すると、扉の向こうで


「聖女ルシアナ・ミュラル・アファーナ様、女神の使い、カザマ・モリアツ様ご来場」


そう声がかかると扉が開く。

廊下よりさらに明るい光で目が眩みそうになる。

驚くほどの明るさだった。本来この世界に来て夜にこんな明るさを目にするのは初めてだった。

俺は少し目を細め明るさになれるのを待ってからルシアナを見る。

彼女は眼を閉じ俺が歩き出すのを待っているようだ。

意を決して足を前に出す。

部屋に入るとざわめきが起こる。


「あれが『女神の使い』殿か」


「聞いていたよりずいぶん若く見えるが・・・」


「あの細さで魔獣討伐数がすでにシュレン様と同等だそうよ」


ひそひそ声が聞こえるが気にせず背筋を伸ばし優雅にゆっくりとフロアへの階段を下りる。

フロアまで降りるとルシアナがお辞儀をしたので俺も会釈をする。

会場に拍手が起こり音楽が鳴り始める。

周りの人たちはとりあえず俺たちへの興味はあるようだがそれぞれの談笑を始める。


「ようこそ。ルシアナさま。本日はわたくしの主催する晩餐会にようこそお越しくださいました。感謝の言葉もございません」


年の頃は40中頃だろうか少し白髪のある髪をオールバックにしてにこやかに笑っている顔は・・・どこかで見たことがある。


「リンバリー卿、本日はお誘いいただきありがとうございます。公務の合間を縫ってのご準備さぞ大変だったでしょう。今日は楽しませていただきますね」


ルシアナは優しく微笑んだ。

リンバリー卿はルシアナに会釈をしたあと、今度は俺を見て


「君がカザミ殿か。お初にお目にかかる。弟がいつもお世話になっているね。」


そう言われて???となる。その顔を見てリンバリー卿は少し笑って


「結構似ていると言われるのだがね。ドゥーラントは私の弟なんだ」


そう言われて討伐隊隊長のひょろりとした姿が頭に浮かび目の前の男性と一致する。


「ああ!!ど、どーも。俺の方こそいつも助けてもらってます」


会社の上司の親族に会った感じだった。日本人特有のペコペコをついやっちゃう。


「はっはっは。弟には聞いてはいたがカザミ殿は面白いですな。今日は初めての社交の場、大いに楽しんで帰ってください。可愛い女性もたくさんいますのでね。

おっと聖女様の魅力に拮抗する女性は数すくないでしょうがね。では私は次の人に挨拶をしてきますのでゆっくりしていってください。」


そういって楽しそうに笑いながらお辞儀をした。

俺とルシアナもお辞儀をする。

それを見届けるとリンバリー卿はこの場を離れる。

それを機に次から次へとどこぞの伯爵だのなになに男爵だのが挨拶をしてくる。

俺とルシアナはニコニコと応対に追われる。

もう10人以上挨拶をしてちょっと一息つきたいなと思っていた。


「これはこれはご機嫌麗しく。聖女殿。そしてはじめまして。『女神の使い』くん。」


やたら声のでかいが態度もでかいそして腹のでっぱりもでかい男が俺たちの前に現れた。

悪いけど見るからに友好的とは言えない面をした男だった。俺の経験からしてこの手の男はだいたいいいことはない。少し身構える。

ルシアナは表情も態度も変えることなく


「お久しぶりです。バドガーラ様。ガルゴール伯のお屋敷でお会いしていらいですね」


そう言いながら微笑む。張り付いたような笑み。ルシアナはあまりこいつを好きではないようだ。


「たしかにあれ以来ですな。

無礼にも我がリュセウス家縁の者の大事な式の途中で突然、馬に乗って去るような不謹慎な女性を聖女と呼ばねばならんのはあまり愉快ではないですなぁ」


見下すように身体を逸らし鼻で笑う。

あ、こいつ嫌い。俺は心底嫌悪モードになる。

今の話、たぶんシュレンが大けがしたときの話だ。俺はすぐ分かった。


「その節はご迷惑をおかけしました」


彼女は深々と頭を下げる。

それを見て調子づいたのかバドガーラなる男はフンっと鼻息を鳴らし


「まぁ生まれに品がないとああいう場での礼儀というものが行き届いてないのでしょうな。

これからしっかりと学んで立派な聖女になってもらわねば。叔父上の足を引っ張られても困りますからな」


さすがに穏便な俺も怒りで殴りかかろうかと思い前にでる。だがルシアナが素早く手で制し


「ご忠告感謝いたします」


そう言ってもう一度頭を下げる。

取り付く島もない低頭戦法の前にバドガーラは攻め手を失う、だがイラついてる俺の顔もみてニヤリと笑い


「そちらは初めましてかな?私は法王ランドバルド様の甥であるバドガーラ・リュセウスというのもだ。君はどこの馬の骨だったかね?」


不遜極まりない発言に周りもさすがにどよめく。

俺はこの不遜な男に一泡吹かせてやりたくなった。

そして会場に同じ気持ちの人たちがいることに気づく。

俺はバドガーラを見てニコリを笑い、ずいっと前に出て会場全てに鳴り響くように大きな声で


「お初にお目にかかる。私はカザミ・モリアツ。ここでない世界から来た『女神の使い』です。

この世界にきて聖女ルシアナの力を借りて魔王を、魔獣を駆逐しようと志しています。皆様に今日はこの私の力をお見せしましょう!!」


俺は両手を天高く広げ、周りにアピールする。

突然、俺の頭上のシャンデリア以外が薄暗くなり俺に光と視線が集まる。

ヒュンという音と共にどこからともなく2本の剣が宙高くに舞う。


「モリアツ様っ!!」


ルシアナが心配して飛び出そうとしたのをいつのまに背後にきたのか赤紫のドレスを着た銀髪の美女が静止する。ルシアナが驚き美女を見る。

空中でクルクルと舞いながら落ちてくる剣を俺に近づく二人の女性がキャッチする。1人は背の高い赤いずらりとしたドレスの似合う青い髪の女性。もう1人は小柄ながら綺麗な金髪にサファイアの髪飾り。白とピンクのフワッとしたドレスの少女。2人は剣を手にすると素早く駆け出し勢いよく俺に斬りつける。周りから女性たちの悲鳴が響く。近くにいたバドガーラもびっくりして飛びのき尻もちを着く。


「まずはいかなる攻撃も物ともしない『完璧防御』っ!!」


それなりに高価であろう礼服が前と後ろから勢いよく斬りつけられ袈裟斬りに破れて肌がを露出する。血はでない。当然痛くない。

斬りつけた女性たちはそのまま俺と交差するように離れる。

その際にお互い満足の笑みを浮かべた。


「続けて」


俺が片手を上げると赤いドレスの女性が去り際に持っていた剣を俺に放り投げ、俺はそれをキャッチする。

そしてバドガーラに向き直ると鬼の形相で近づいていく。照明は俺とバドガーラを追うスポットライトのようになる。

先ほどのデモンストレーションで完全に飲まれたバドガーラは尻もちをついた姿勢でアタフタと後退するが手足がうまく動いてない。全然進まず俺に追いつかれ服の裾を踏まれる。

俺はバドガーラを氷のような眼で見下ろす。

殺気を込めて。

周りがしんと静まり返り息を飲む。俺は持っていた剣をくるりとひと回しして天高く持ち上げバドガーラを突き刺そうと振り下ろす。


「ひいいいいぃぃぃぃ」


バドガーラは品のない悲鳴をあげて目を瞑る。


「キャアアアアアア」


またしても上がる女性たちの悲鳴

誰もが彼に剣が突き刺さった、と思ったが剣はバドガーラの股の間に突き立てられていた。


「もう一つは『必中必殺』殺すと決めた相手を確実に殺すスキルだ」


バドガーラをゴミを見るような目で見ながら俺はそう説明する。ガタガタと震える彼の股間は熱いアンモニア臭漂う水で濡れていた。

俺は少し集中する。そしてその場からふっといなくなる。バドガーラは恐怖で恐慌状態なり


「ヒィッ!ヒィッ!! 」


そう叫びながら周りを見渡す。会場にいる紳士淑女も周りをキョロキョロと見渡す。


「そしていかなる場所にも移動できる『時空自在』これらを持って魔獣の脅威を排除して見せましょう!」


瞬間でルシアナの横に立ち、俺がそう声をかけると会場の全員が驚きこちらを見る。照明がすべて点き俺はわざとらしく礼をする。

会場がどよめき、そしてゆっくりと拍手があがりうねりとなって喝采へと変わる。

俺は会場の四方に手を振りアピールしてルシアナに向き直りにっこりと笑うと彼女は悪戯っ子を怒るに怒れないといった困った顔ではにかんでいた。

喝采が落ち着くと止まっていた音楽が鳴り始め、多くの人が今のデモンストレーションの話でもちきりなる。

皆が俺にチラチラと遠巻きに視線を送ってくるため居づらくなったのでいったん服を着替えに戻ることにする。


「ルシアナ、少し席を外すね」


彼女に小声で声をかける。ルシアナは少し心配そうにこちらをみてコクリと頷いた。

踵を返し最初に降りてきた階段へ向かうと階段の上り口の前に2人の女性が立っていた。

剣を取って俺に切り掛かった2人である。俺は無言で彼女たちの間を通り抜ける。

パチィン、

通り抜ける時両手を上げると2人は俺の手とハイタッチをする。

俺は階段を上り部屋から出た。

少しルシアナの立ち位置を盤石にしとこうと思い作った話なんですが思った以上に面白い出来になって満足。いつかはやっときたかった雑魚ざまぁをここでやることができました。

そして初の4000字越え。分割するのは忍びなかったのでそのまま掲載。

何気に主要メンバーが全員そろったのは初というww


三下やられキャラが大好きな人はブックマーク、恋評価、もっと盛大にやられろ、と感想をお願いします。

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