『必中必殺』
俺は魔物の口の中にいる。
全身にものすごい圧力がかかる。
牙を突き立てて噛みちぎろうと魔獣の強固な顎が襲い掛かるが俺は痛くはなかった。
ただ、もみくちゃにされ、ぶんぶん振り回されるうえ、何より臭いがキツかった。獣独特の吐き気を催す強い臭いのする唾液に全身べちょべちょのもみくちゃにされ、俺は胃の中のものをぶちまける。
魔獣はそれでも俺を噛みちぎろうと必死に振り回し何度も噛み砕く。俺は痛くはないが完全に天地をひっくり返えされるような行為のせいで酔ってまた吐いた。
魔獣は噛みちぎるのを諦めたのか丸呑みしようと俺を喉の奥へと落とし込もうとする。
よりきつい悪臭に俺はイライラしてきた。
くそっ!!こいつ、しつこいんだよっ!!
今、俺はどちらが上でどちらが下なのかわからない状況で頭の中がぐらぐらして怒りで真っ赤になって魔獣に対する殺意でいっぱいになる。
くそっ、くそっなんだこいつ。しつこく揉みくちゃにしやがって!!しかも俺のシュレンを食おうとまでしたくせに!!許さないぞ!!
俺は苛立ちと怒りで拳に力を籠める。
踏ん張りは効かないが怒りにまかせて握った拳をどこを狙うでもなく突き上げる。
生温かい喉の肉に拳が突き刺さる。
グチャッ
という嫌な音がして拳から向こうが吹っ飛んで赤黒い血煙を撒き散らす。
真っ暗だった口内はまるでオープンしたドームのように開け、明け方の空が鮮やか見える。
俺はなにが起こったのか分からず呆然と空を見上げる。
さっきまで獣の咥内にいたはずなのに。空が見える・・・。
俺はそのまま足元を見ると確かにそこはさっきまで畝っていた魔獣の舌がある。きつい唾液臭も変わらない。さらに生臭い血の匂いにむせて俺はまた吐いた。
「シュレン!!逃げなさい」
セナの声で我に返る。いつの間に追いついたのかセナの声の方向を見ると、もう一匹の魔獣が今にもシュレンに襲い掛かろうとしている最中だった。だが魔獣の身体全体を木から飛び出したツタが絡まり、枝と根が槍のように伸びて魔獣を串刺しにして足止めしている。
しかしそれもすぐ限界がきそうなのがわかる。拘束を物ともせず前に進む魔獣の勢いを止めきれず今にも木の拘束は引きちぎられようとしている。
魔獣の目の前には剣を杖代わりにして立ち上がろうとしているシュレンの姿があった。
全速の馬から突き落としたのだから当然と言えば当然で彼女は動けるような状態ではなかった。
立ち上がっただけでも奇跡なのだろう。そして足止めしているセナも必死に集中しているため動けないでいる。
俺は彼女たちまでの距離が少し遠く、倒れることなく直立不動で頭のなくなった魔獣の喉のところにいる。飛び降りて彼女の元に向かう頃にはシュレンは引き裂かれて血溜まりに沈んでいるだろう。
なんとかしなければ。
俺はあたりを見渡す。なにか、何かないか?
俺は魔獣の血溜まりの中に拳大の堅い塊を発見する。元は牙なのか骨なのかはわからないが、これならいけるはず。
俺は集中する。コツはわかった。
大事なのは殺意だ。今の俺ならあの魔獣を確実に仕留めることができるはず。
俺は魔獣に狙いを定め、殺意を高める。
俺が助けたいシュレンを食い殺そうとするあの魔獣は今すぐ消えてなくなるべきだ。奴を止めるには頭を吹き飛ばすしかない。
彼女を救うのは・・・おれだっ!!!いけっ!!!
そう願い、持っていた拳大の塊をぶん投げた。
投げた塊はおおよそ物理法則を無視した軌道を走り、一気に加速して魔獣の頭めがけて飛ぶ。
ボンッ
という音をたてて魔獣の頭にヒットする。すると首から上が弾け飛び、肉片と赤黒い血を撒き散らす。そして今俺がいる場所のように首から上が消滅してしまっていた。
セナの魔法による拘束を引きちぎられたのとほぼ同時だったが魔獣はそのまま崩れるように倒れた。
セナとシュレンが驚愕の顔で魔獣を見て、ゆっくりと俺へ視線を移す。
俺は満足げ笑ったったつもりだったが急に目の前が真っ暗になり・・・意識を失った。
やっとこ俺tueeeeができます。
バッタバッタと魔獣をなぎ倒し女の子にちやほやされる物語の幕開けです。
・・・・ここにきてやっとタイトル回収に向けたスタート台に立った気がしてならないw
強い主人公が大好きな人ははブックマーク、高評価、感想をお待ちしております。