鍛錬
早めに床に入ったせいかいつもより早く目が覚める。
外はまだやや暗い。
とりあえずゴロゴロしてる気にはならなかった。
昨夜ルシアナが頑張ってるのを見てそう思った。
素早くベッドから飛び降り身体を動かす。昨日に比べれば筋肉痛はまだマシだった。
しっかりストレッチを行い顔を洗って部屋を出る。
そのまま廊下を進み,いつもの庭に出る。
流石にこの辺までの道のりは覚えてきた。
庭の中を移動して一昨日シュレンたちにボコボコにされた森の中に移動する。
ほどほどに広く開けており森の中のわりに草木があまり生い茂ってない。隠れた鍛錬場といったイメージだ。
少し明るくなってきてはいるもののまだ薄暗い。
俺は息切れしながらたどり着くと
「こんな時間にどうしたのですか?」
突然女性に声をかけられる。
びっくりして飛び上がりながら180度回れ右をする。そしてきょろきょろするとすぐ声の主が見つかる。
飛び上がり驚いたのが面白かったのか綺麗な麗人が少し前屈みに笑っていた。
薄暗いが綺麗なサファイアのような髪が少ない光でもキラキラと輝いている。
長身の美しい女性が一人。
シュレン・ミトであった。
「クスクス、まさか飛び上がって驚くとは思わなかった。すまない、びっくりさせて。こんなところで何をしているのですか?」
シュレンは笑いながら話しかけてくる。そんなに飛び上がったのか?俺は。
少しムッとしながら
「いえ、早く目が覚めたもので不甲斐ない自分を少しでも鍛えた方がいいなと思って・・」
俺は付け焼き刃みたいでカッコ悪いかなと思いながらここにきた目的を話す。
シュレンは馬鹿にするでもなく少し感心したように
「良い心がけですね。何事も始めるというのは肝心です。特に貴方は今までどう生きてこられたのか知らないが全く身体ができていない。基礎体力を作るところからおすすめします」
シュレンはそう言いながらストレッチを始める。
よく見ると彼女はうっすら汗をかいておりすでに身体を動かしてだいぶん経つと思われた。
この間より軽装で薄着であった。すらっとした均衛の取れたシルエットは美しくある。
全体的に筋肉質だがごつごつはしていない。残念なのは胸元くらいだろうか・・・。
「シュレンさんはこんなに早くから鍛錬をしてるのですか?」
俺も体をほぐしながら彼女に聞いてみた。
「ん?そうですね。早めに身体を動かしておかねば皆との鍛錬時はあまり行えませんから」
シュレンは木に立掛けてあった通常の木刀より長く太い木刀というより船を漕ぐ櫂を思わすものを持ち素振りを始める。
数回振ったところで何かに気が付いたように
「あ、そうでした。あなたに一つお願い、というより報告ですね。たぶん本日にでもあなたに魔獣討
伐隊への入隊が打診されると思います。これは強制だと思ってください。『魔王打倒』をするなら当然ですね」
シュレンは明らかに小馬鹿にした感じでにっこり笑った。
笑うと可愛いのだよなー。などと関係ないことを考えながら
「昨日マーファさんがそういうことを教えてくれました。俺にできることならなんでもしたいと思います。そうすることでルシアナの助けになりますよね?」
そう真面目な顔でシュレンを見る。
シュレンは少し驚いた顔になったが俺が本気だと悟ったようだ。真面目な顔で
「そうです。どんな形にせよあなたは『魔王討伐』に向けて行動すべきだと思います。それにあなたの『スキル』は戦闘向きです。それを活かすことはあなたのためにそして多くの人のためになるでしょう」
シュレンはそう言った後、やさしく笑って
「でもまずは身体を鍛えるところからはじめねばなりませんね。今のあなたはたぶん魔獣に食べられて胃の中で暴れるのがやっとですよ」
そう言って自分の持っていた木刀を俺に投げてよこした。俺は慌てて手を出してそれを受け取る。
が、重すぎてうまく受け取れずへっぴり腰になった。
持ち上げようとしたがかろうじて剣を構えれる。といったところだった。これを軽々と振ってたのかー。
さすがに振るのは諦めて彼女に返す。
「・・・まずは体力をつけることにします・・・」
おれがそういうとシュレンは木刀を受け取りつつポンポンと肩を叩き
「自分の鍛え方が分かってるというのはいいことです。ゆっくりでいいので強くなりましょう」
初日の冷たさはどこへやら、とても温かい対応に嬉しくなり頑張ろうって気になった。
「いつもここで鍛錬を?」
俺はしっかりアキレス腱を伸ばしながらシュレンに聞く。
彼女はしっかりと正面を見据え慣れた感じで素振りをしている。手を休めることなく
「そうですね。この時間はだいたいここで素振りとあとは木を登ったりこの向こうにある崖を登ったりですね。」
なるほど。そういうのがいい筋トレなのか。
「またここで鍛錬方法の相談などしてもいいですか?」
俺は屈伸をしながら彼女に問う。
「かまいませんよ。長続きするのなら、ですけどね」
彼女は興味なさそうに流し目で答えた。いまのでなんとなく察したが・・・たぶん同じように彼女とトレーニングを目論見、心折れた男たちがいたのだろうと。
おれはピョンピョンと最後に軽くジャンプして
「では俺はまずは走ってきます。何事も走ることからと漫画では描いてましたので」
そう挨拶をして走り出す。
「まんが??」
シュレンはマンガというのがなにか分からなかったようで小首を傾げたが
「ここから庭に出てぐるりと壁伝いに走るとよいと思います。最初はむりせず走ってください」
そうアドバイスをしてくれた。
俺は気持ちよく走り始めた。
庭は相当広く走ったり歩いたりしながらなんとかシュレンと逢った森の中に戻ったが彼女はすでにいなかった。ただそこには革袋と片手で持てるくらいの軽さの木刀が置いてあった。
俺は疲労で座り込みたいのを我慢してクールダウンを行い革袋の水を一気に飲み干した。そして木刀を手に取り軽く素振りをしてみる。
剣道すらやったことない俺はてきとーに木刀を振ってみた。うーん、なんか俺かっこいい。
封印していた残念な俺の魂が揺り動かされる。
漫画や映画でみたようなカッコイイ剣の振り方をいろいろ試したてみて、疲れたので部屋へ戻った。
肉体鍛錬とはいいですよねw
主人公はひょろい現代人という設定のため強スキル持ってても普通の男性です。
努力、根性、知力で強くなる主人公が私は好きですw
泥臭い主人公が大好きな方は高評価、ブックマーク、筋トレサイコーと感想をオネガイシマスw