黄昏の女神
ザザァァァ・・・・・ザザザァァ・・・
波の音が聞こえる・・・・・
静かな、静かな海の音
潮の香りがする。
海か・・・・・
海なんて何年くらい見てないだろう・・・・・
暖かい日差しと暖かくほどよい弾力の枕
潮の匂いとなにかの花のような甘い香りの混ざる心地よい風
ああ、癒される。
そう思いながらゆっくり目を開ける。
「あ、気づかれましたか?」
鈴のような可憐な声が響く。
目の前には立派な山が2つ見えその間から女性がこちらを覗き込んでいる。微かに茜色に染まった空に綺麗な薄紅色の髪がサラサラと風で揺れ、夕焼けの光でキラキラと赤みを帯びて輝いている。
女性の顔は少し幼くみえるが整った美人だった。少し垂れ目がちの優しい眼差し。ふくよかな唇には微笑が称えられ、まるで女神のようだ。
なんでこんな美人が山の間から覗き込んでるんだ?
全く理解できない状況だった。
2つの山が女性の乳房だと思い至った時、自分は女性に膝枕をされているのだと合点がいく。
「あの・・・膝をお借りしてます。すんません」
俺が変な謝り方をすると女性は少し驚いた顔をして
クスクスと笑い出す。
「いいえ、私が勝手にやったのです。お気遣いなくゆっくりしていってくださいね」
そう言いながら微笑みそっと髪を撫でてくれた。
暖かくそして優しい撫で方はとても心地よかった。
まるで女神様のようだ。
しばらくそんな静かで穏やかな時間が流れて
「あ、あの・・・今更なんですけど俺はなんでこんなとこにいるんですかね?」
俺はこの幸せ空間のせいで全て忘れてもいいかなぁという思いを振り切って質問をした。
「ああ・・・大変申し上げにくいのですが・・・」
彼女は言いづらそうにそう切り出し悲しそうに続けた。
「あなたは死んでしまわれたのです」
あ、やっぱり。
俺はそーじゃないかなーと一瞬思ったのだ。
夢にしては後頭部の温かみと弾力がリアルすぎるし潮の香りに混ざる彼女のなにかの花のような香りは脳を刺激するほどいい匂いだ。
もういっそのことこのままひっくり返って太腿に顔を埋めて思いっきり深呼吸してやりたい。
そんなことを考えると俺のブラザーに血液という力が結集していこうとする。
いかんいかん。仰向けの状態でブラザーが臨戦態勢になってしまうと言い訳が効かなくなるぜ。
落ち着け俺。こういう時は歴代総理大臣の顔を思い浮かべるんだ。えーと伊藤博文・・・いや、しらんがなっ!!
そんなくだらないことを考えていた俺を優しく眺めながら頭を撫でる彼女。
「理解できないのも無理はありません。突然のことでしたし悔やむ気持ちもあるでしょう・・・」
彼女は悲しげにそう話しかけてくる。
「あ、いや、そんなことはないんですが・・・ちなみに俺はなんで死んだんですか?まったく記憶がないのですが・・・」
「それは・・・しらない方が良いと思います。私の口からはとても言えません。覚えてないのは良いことですよ」
彼女は哀れみと慈悲に溢れたアンニュイな表情で微かに微笑んだ。
・・・どんな死に方をしたんだ?俺。まったく記憶がない。最後は部屋だったのか外だったのか。
そういえばあの部屋はあのままなのか?俺の死後、俺のお宝たちを見て両親や姉はなんて思うだろう・・・ちゃんと処分してから死んだのだろうか・・・・おっとそんな場合ではなかった。俺は至高を打ち切った。
「それでここは?天国というやつなんですか?」
主に後頭部と視界が。至福の時。死後でないと女の子に触れることが叶わなかったのは残念でならない。
「いいえ、ここは私の世界。あなたには私の世界を助けて頂きたく死後の魂をここへ導いたのです」
彼女はそう言って俺の顔をその手でそっと包み込む。暖かく柔らかい手だなぁ。
「なんで俺なんです?」
「・・・たまたま?」
少しの沈黙の後、彼女は目を逸らしボソリと呟いた。
「なんですか?それは・・・」
流石の俺も呆れる。
「その・・・あの瞬間に亡くなった方の中から16.546名の中から引き当てたがあなただったのです」
「抽選かよ!!」
思わず突っ込む。
「で、でも、ほらこういうのは運命というかきっとすごい力があるから引き当てたというか適材適所というか・・・」
彼女はあたふたと答える。ちょっとかわいい。
「・・・まぁいいです。で?俺は何をすればいいのですか?」
俺が問うと彼女はちょっと困った顔をして優しく微笑んで
「あなたの思うがままに。道はあちらの私が導くでしょう」
そう言った。そして俺の目をそっと柔らかい手で塞ぎ、優しく語りかける。
「あなたに良き力が授からんことを」
彼女のその声と共に俺の意識は遠のき、深くどこかへ落ちていく感覚に支配される・・・・。
一応あとがきを各話に付けて行くスタイルに切り替えます。
前回が興味を誘えばいい。の感じでスタートしたので実質のスタートです。
場面の雰囲気は夕方の亀ハウスを想像してくださいw
よろしければ感想など頂けると嬉しいです。
短文でいいんだぜっ!!