1話
夕暮れ時に男が二人、居酒屋の曲がり角へやってきた。
「よし、ちょうどいい。ここにしよう。」
「こんなところに居酒屋なんてあったっけ?ここは通ったことあるけど全然気が付かなかったな。」
「なあに、人間ってのは自分の興味があることしか見ようとしないのさ。俺と違ってお前みたいにぼんやり下らん考え事ばかりして歩いてるやつには田舎の田んぼ道と銀座の大通りの違いも分からねえに決まってる。」
「そんなことはないよ。僕は夏の夜の田んぼ道が好きなんだ。春とも秋とも冬とも違うところが好きなんだ。でも、銀座はいつ歩いても何も変わらないよ。せいぜい肌色が多くなったり少なくなったりするだけだよ。」
そんなことを話しながら、くたびれた暖簾をかき分け二人は店の中へと入っていく。まだ時間も早いというのに思いの外、賑わっているようだ。
案内されたのは店の奥にある畳の座敷。障子の仕切りがあるものの、近くに他の客はいないのか静かなものだ。先ほどの賑わいが僅かに聞こえ、時折、大きな笑い声が届いてくる。
席につきながら
「とりあえず生だな。いいだろう?」
と〈俺〉が言うと
「うん。まあ、いいよ。」
と歯切れ悪く〈僕〉が答えた。
それを無視して煙草を出しながら〈俺〉は嬉しそうに言った。
「ちゃんと灰皿が置いてあるじゃねえか。近頃は分煙だの禁煙だのと知らねえが、いちいち灰皿を頼まなきゃいけねえ店ばかりで面倒くせえったらありゃしない。ほれ。」
〈俺〉から灰皿を受け取りながら〈僕〉も懐から煙草を運び出す。
この作品が小説処女作となりますが、勢いだけで書いているので何話ぐらいになるか未定です。
更新も不定期になると思いますがマイペースにやっていきたいと思います。書いて欲しい作品などあればコメント頂けると幸いです。