お母さん
「ゆ・・・ちゃ・・・・・・」
優しい声がした。
わしゃわしゃと髪を撫でられる。
「起きて。ゆうちゃん・・・・・・」
「んぅ?ここ、は?」
寝起きで頭が回らない。
「おはよう。悠ちゃん」
「っ!!おっ、おはっ、むぐっ。んん!?」
口を手で塞がれる。
しばしば、女性と見つめあう。
て、ていうかこの人、最初から綺麗だとは思っていたけど、若干艶っぽさがあるというかなんというか・・・・・・。
なんだかドキドキしてきた。
心臓が・・・・・・。
このドキドキはときめいているのか?
いや、なんか違う。
ドキドキじゃなくて、バクバクするんですけど!?
また呼吸がしにくくなってきた。
「悠ちゃん、深呼吸だよ?」
「ご、ごめ・・・・・・」
「大丈夫、吸って、ゆーっくり吐いて」
「すー、はーぁ」
何度かの深呼吸で少し楽になってきた。
「あ、ありがとうございます。」
そうお礼を言うと、女性は私をギューッと抱きしめてきた。
「悠ちゃんは無理して喋らないで大丈夫だからね?一つ聞いてほしいんだけど」
抱きしめられたまま私は首肯した。
「もうすぐでお姉ちゃん達と、妹ちゃん達が帰ってくるから部屋に戻った方がいいと思うんだけど・・・。どうかな?悠ちゃん?」
私は全力で首を横に振った。
くさい、きたない、虫がいるかもしれないあの部屋には、戻りたくない。
戻るとしても、掃除はさせていただいてからではないと、私が精神的に死ぬ。
「へ、部屋には、も、戻りたくないのですが・・・・・・。べ、別の空き部屋はありませんか?あ、あと、い、今はなんっ時ですか?」
女性は抱擁を緩め、驚いたような顔で私の顔を見た。
目を合わせて話したいが、話すことができない。
それを知ってか知らずか、女性は目線を外してくれて答えた。
「17時半になるわ。お部屋は、私の部屋に行きましょうか?」
朝の9時に目覚めて、そのあとにお風呂に入ったから、10時くらいに寝たとして・・・・・・7時間半もここでずっと寝てたのか!?
しかもこの女性は本当にずっとそばにいてくれたみたい。
てかなんて?この女性の部屋に行くの!?
「あ、あなたのお部屋ですか?」
私は申し訳なく思い、身を縮ませて申し訳なさそうに聞こえるように声を出した。
すっごい掠れて聞きにくいけど、・・・・・・。
「な、なんだかすみません・・・・・・。ずっと、ここにいてくれたんですよね?や、やっぱり自分のへ、部屋にかえろっかなぁ、なんて・・・・・・。」
頭に手が載せられて、また髪の毛をわしゃわしゃされた。
「気にしなくていいのよ。私の部屋じゃ嫌かな?」
女性は私に優しく問いかける。
「い、いいえ!じゃあ、そ、そうします・・・・・・」
立ち上がろうとする私の動作を止めて、女性は私を抱きかかえた。
「はっ、はへっ!?じ、自分でっ」
「だ~め。運ばせてちょうだい?」
「はぃ・・・・・・」
「悠ちゃん?私、紬っていうのよ。」
女性の名前は紬というらしい。
「紬さん・・・・・・」
紬さんは階段の手前で立ち止まる。目を合わせないようにして話しかけてくる。
「悠ちゃんとお話しできるなんて!今日は腕によりをかけてご飯を作らなきゃね!」
放っておいたら私を抱えたままスキップでもしそうなくらい紬さんは喜んでいる。
ぐう~
ご飯という単語に私のおなかが反応をしてしまった。
「うっ、これは・・・・・・」
俯いて何も言えなくなる。
だんだんと顔が熱くなってきた。
「ふふふっ、すぐに作るから少しだけ待っててね」
階段を上り終えて、やっとのことでお姫様抱っこタイムが終わる。
「あの、紬さんの中では、わ、私は歩けないっていう設定でもついてるんですか?」
「そんなことないわよ。ただ、ぎゅってしてあげたいの・・・・・・」
そういいながらまた頭に手をやって少しだけ優しくなでてくれた。
紬さんは、悲しそうに笑ったような気がした。
「あら、前髪切るの上手なのね!」
今は、何事もなかったかのように微笑んでいる。
「あそこが私の寝室よ」
二階にもリビングがあって、キッチン、トイレ、そのほかにお部屋も3つある。
紬さんの部屋は少し小さめだ。
ガチャッ
「さ、悠様を私の部屋に、ご案内いたしますわ」
ドヤァ、という効果音が聞こえてくる気がした。
「よ、よきにはからえ・・・・・・?」
・・・・・・。
返事が返ってこない。
やっちゃったかな・・・。
紬さんに目を向けると、プルプル震えていた。
「か・・・ぎる・・・」
「え?な、なんて?」
「悠ちゃん!!可愛すぎるわ!!」
ガバッと抱き着かれた。
私も自然と紬さんの背に腕を回した。
こんな風に何度も抱きしめてもらったことは今までの人生でなかった。
胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
少し泣きそうになった。
しばらく抱き合っていると、だんだんと恥ずかしくなった。
「あ、あの・・・・・・///」
「ごめんなさいね。ふふふ」
わしゃわしゃと頭をまた撫でられて、部屋へ案内される。
「それじゃ、あらためて・・・私の部屋よ」
私は紬さんの部屋へお邪魔する。
「うわあ・・・。地震がきたら死んじゃいそうですね・・・」
「ほ、本棚はちゃんと、固定してるのよ」
紬さんの部屋は本棚で壁が埋め尽くされていた。
小さ目とは思ったが中に入るととても広い部屋で、黒と白で統一された部屋だった。
黒い革のソファにモノクロのカーテン。
ベッドも黒い。
「雰囲気が・・・・・・なんだかすごく大人っぽい、ですね。」
「これが一番、落ち着くの。ふふ」
「悠ちゃんは、ソファに座って本読んでてもいいし、ベッドで眠りたいなら寝ててもいいわよ。後でご飯を二階に持ってきてあげるからね」
「あ、ありがとうございます。その、お姉さんと妹さんって・・・・・・」
「あ・・・。うんと、私がうまくやるから、任せておいて。」
紬さんから歯切れの悪さを感じた。
「わ、わかりました。」
ごはんを作りに紬さんは下へと降りて行った。
申し訳ないと思ったけれど「待っててよ、悠ちゃん」と念を押されたのでおとなしく待つことにした。
私はソファに座り、ぼーっとすることにした。
「ょぃしょ・・・・・・!?」
ソファのフカフカさに驚いた。
リビング、トイレや洗面所は二階にもある。
家具も相当高価なのではないだろうか?
なんてお金持ちなんだ・・・。
今日一日だけで何度、驚いたかわからない。




