あなたの嫌いな人に好きと伝える
おおおくれましたぁ!
すみません。
お風呂で体を先に洗ってから湯船に浸かる。
毎日濃い時間を過ごして、唯一落ち着ける時間といえばお風呂だ。
「ふぅ〜〜」
温かさに気が抜けて、大きく息を吐く。
「悠おねーちゃーん」
今日は落ち着けなさそうだ。
お風呂の扉は透けていて碧のシルエットが見える。
「は、はい」
「まだ?」
さっき入ったばかりでしょ〜?
「へ、部屋でまってて〜」
さっきは部屋で待ってるって言ってたのに・・・・・・。
「やだ」
すぐに返事が返ってきて、碧のシルエットは扉のすぐそこでしゃがみ込んだ。
いつも通りの碧の声色ではないのに気づいた私は湯船から身を乗り出す。
「そ、そんなに眠たいのっ?」
なんの返事も返ってこない。
私は慌てて湯船から出て頭と顔を洗い終えて扉に手をかける。
「あっ、あお〜?そこ退けてくれないと出れないんだけど・・・・・・」
碧の影が立ち上がる。
私は扉を開けられないでいる。
「はやくして」
居ても立っても居られないような声で急かす碧。
「いや、そこにいられると・・・・・・」
出ようにも羞恥心があるためか出られない。
姉妹でもなんでも、肌を晒すのは結構躊躇われる。
「今更恥ずかしがるような仲ではないでしょ」
私の心中を知ってから知らずか、碧は言い放つと同時にバァンっと扉を開いた。
「ちょっ!?わぷっ」
驚く私に碧はバスタオルを持って私の頭を拭き、次に体も拭いていく。
されるがままだったが流石に下は抵抗感がある。
「そ、そこは!!自分でできる!!」
碧からバスタオルを奪うと自分で拭いていく。
私の顔は恥ずかしくて真っ赤だ。
下着を着て、ダボダボのスウェットを着ながらふと、碧に目をやる。
しょんぼりとして、目線を床に向ける碧がいた。
「あ、碧。どうしちゃったの?」
私の質問には答えずに、碧は私が着替えたのを確認して歯ブラシを私に押し付けた。
「いいから、はやく・・・・・・」
そんなに眠たいのか・・・・・・。
疲れてるのかな?
私は歯を磨いて口をゆすぐ。
鏡越しに碧を盗み見る。
私が歯磨きをしている間も碧はソワソワと体を揺らしている。
歯磨きを終えて口をタオルで拭きながら私は碧に聞いてみる。
「ど、どうしたの?さっきまでそんな風じゃなかったでしょ?」
「いいからっ」
碧は私の手首を掴んで引っ張る。
「よくないよっ!痛いよっ!」
私の痛いという言葉にも無反応で、無言で電気もつけないまま暗い階段を登る。
「ねぇ」
私の呼びかけに碧は無反応だ。
「ねえってば。紬さんに挨拶したい」
こんな碧は初めてだ。
「いらないよ」
だんだんと怖くなる。
「碧が決めないでよ。碧、なんか変だよ・・・・・・」
二階のリビングの光が見えてきて少し安心する。
それも束の間で手首を碧に掴まれたまま、碧の部屋に問答無用で連れ込まれる。
「あ、あお〜?ちょっと、今日は一人で寝たいかも・・・・・・」
碧は後ろ手で扉の内鍵を閉めた。
な、なぜ!?
何もしてないのに、こんな危機的状況に!?
碧は不意に顔を上げた。
冷たい目が私を刺す。
「さっき偶然聞いちゃったの。千冬お姉ちゃんが言ってたの。悠お姉ちゃんが告白されたって」
碧はそう言いながらじりじりと近づいてくる。
私は後ろに下がる。
近づかれては下がってを繰り返すが、流石に狭い寝室では限界がある。
どうしようかと思案している時だった。
「うわっ!?」
視界から碧が消えて、部屋の電気が目に入る。
床にあった何かに躓いたみたいだ。
くるべき衝撃に備えて目を瞑る。
ボフンっと音がして、体が少し跳ねた。
目を開けてみると白い布が見える。
碧のベッドに着地したようだ。
明るかった視界が暗くなる。
碧が私を見下ろしている。
「そ、それは碧には関係ないでしょ?」
なんとか出た言葉はそんな言葉だった。
私の返答に碧の目は鋭くなって、私の上に馬乗りになった。
「〜〜っっ!!」
碧の手が私の首に伸びて、締め上げる。
「関係なくないよっ!碧が一番嫌いな人を悠お姉ちゃんは好きって言ったの・・・・・・!今日の人よりもずっと前に!」
私が誰かに好きって?
金瀬にはまだ返事をしてない。
って、そんなこと考えてる場合じゃないっ!
碧の力はだんだんと強くなる。
「しっ、ぐっ」
しらない…
出かかった言葉を飲み込んだ。
碧の両手をなんとか首から離そうとする。
よく考えて、言葉を選びながら・・・・・・。
「いっ、ちば、きらぃなの、だっれ?」
碧の手の力が弱まって、私は咽せた。
「うっ、ゲホッ、ヒュッ、ゲホッ」
ヒューという音が私の喉から聞こえてくる。
「・・・・・・」
碧は押し黙ったままでいる。
碧の部屋で二人分の呼吸しか聞こえない。
だいぶ時間をかけて小さな声が聞こえた。
「碧唯」
いつもの明るくて可愛らしい碧からは考えられない行動と言葉に動揺する。
なんで?どうして?って声をかける?
いや、違うな。
私は首をさすりながらベッドの真ん中まで行く。
それから碧の手をとって、隣に来させた。
二人で横になってリモコンで明かりを消して、真っ暗になった部屋で碧をめいいっぱい抱きしめる。
昨日の夜紅にしたように、でも今日は昨日よりも強く。
「碧、大好きだよ」
碧の嫌いな人を好きだと口に出して言った。
次は6月18日です!




