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今なんて?

お待たせしました!

楽しんでいってください!

 左右には商品棚が並び、逃げ場はない。


 走って逃げる?

 誰なの?

 怖い。


 頭が真っ白になって考えられなくなる。

 そんな時に聞こえてきたのは千冬(ちふゆ)さんの声だった。

「迂闊だったわ」


 いつもの気の抜けた声ではなく、しっかりとした声に体の強張りが一気に解けた。

 私の肩に置かれた手は千冬さんのものだったみたいだ。


 後ろを振り返ると千冬さんが壁になっていて、声をかけてきた子の姿は見えなかった。


「お、お姉さんは誰ですか?後ろの子は・・・・・・」


「ち、千冬さん・・・・・・」

 私は無意識に千冬さんの服を手で引っ張った。


 千冬さんは私のことを横目でちらりと見てから、女の子に対して優しい声を出す。

「おねぇ〜さんはこの子とデート中なのぉ〜。邪魔しないでほしいなぁ〜」


 千冬さん!?

 で、デートではないですけど!?


 言葉に出しかけたが、心の内に留めることに成功した。

 千冬さんのおふざけの言葉のおかげで少し余裕ができた。


 千冬さんの言葉に何か引っかかるものがあったのか女の子も負けじと質問してくる。

「本当にあなた誰なんですか?否定しないってことはゆうってことですよね?」


 スーパーの陽気な音楽が流れる中、私たちの間には気まずい沈黙が流れる。

 それを切ったのは千冬さんだ。


「はぁ〜。めんどくせぇな。」

 千冬さんの声色が変わる。

 その声に思わず私の背筋も伸びる。


 どういう顔でどういう目をしているのかもありありと思い浮かべられる。


 女の子の息を呑む声がこちらまで聞こえてきたような気がする。


 千冬さんはイライラすると口調が変わるみたいだ。

 むしろこっちの方が素だったりしそう。


「は?」

 もう1人の子の声が聞こえてきた。

 千冬さんの態度に腹を立てたのか少し喧嘩腰だ。


 それを宥めるように面倒くさそうな別の子の声が聞こえた。

「あーなんか、すみません。人違いだったみたいです。じゃー、デートを楽しんでください」


 めんどくさそうな声の持ち主は2人のことを連れて行ったようだ。


 私はホッと胸を撫で下ろした。

 千冬さんも私の頭を優しく撫でた。


 千冬さんの服を掴んだままなことに気づき手を離して顔を向けてお礼を言おうとした。


 そんな時だった。

 私の視界には、私の方を向く千冬さんと、めっちゃ猛ダッシュしてくる1人の女の子が映った。


 私に対して心配そうな顔を見せ、声をかけてくれている千冬さん。

「大丈夫?苦しくない?1人にさせるんじゃなかった。ほんっとーうにごめん」


「え、えと、えっ」

 千冬さんと猛ダッシュ少女を交互に見ながら私は考えることを放棄した。


 千冬さんは不思議そうな顔をする。


 猛ダッシュ少女を後ろから追いかける2人の女の子の姿も見える。


 千冬さん、ごめんね。

 ちょっと情報量多くて疲れちゃったよ。


 猛ダッシュ少女。

 その後ろの子2人は友達かな?

 大事にしなよ。


 猛ダッシュ少女はそのままの勢いで私へと迫ってきた。

 私はくるであろう衝撃に備えて目を瞑る。

 ついでに両手も前に揃えて一応ガードもしておく。


 ガシッ!!


 確かに衝撃は来た。

 しかし思っていたものと全く違った。


「はあああああ!?」

 千冬さんのブチギレた声が聞こえてくる。


 私の髪は風を受けてなびいている。

 猛ダッシュ少女が私を抱き抱えたまま走っているからだ。

「かっる!!」


 猛ダッシュ少女は私を抱き抱えて走り続け、そのままスーパーから外へと出てしまった。


「えええええ!お、下ろしてぇっ!!!」

 私のお願いは速攻で却下された。


「ムリ!あの怖い人が追ってきちゃうでしょ!?」


 千冬さんが怖いならこんなことしないでよぉ!


 大分走って景色も変わり、私はどこにいるのかもわからないままに公園のベンチへと座らされた。


「はぁ、ふう。ここまで来れば、だいじょ、ぶかな」

 肩で息をする少女は、一つ二つと深呼吸をして涼しい顔に戻った。


「久しぶりにこんなに走った・・・・・・」

 満足気にそう言って長い金髪を耳にかけた。


 私はそれをきれー、なんて思いながら眺めてハッとした。

「ここまで来ればって!ここはどこ!?あなたは誰!?」


「お、落ち着いて」

 金髪猛ダッシュ少女は手を前にして落ち着くように諭す動作をする。


「お、落ち着くって・・・・・・うっ」

 私は手を口元にやる。


「えっ?えっ!ちょっ!大丈夫!?横になる!?て、手貸す?」


 この子、とんでもなくうるさい・・・・・・。


「だ、だまってくださぃ」

 私はそのままベンチに横になった。


 〜〜〜〜〜〜


「ご、ごめんね」

 謝りながら金髪猛ダッシュ少女は私にペットボトルの水をくれた。


「後でお金返します」

 気持ち悪さがマシになり、今は2人で並んでベンチに座っている。


「いや、ぜ、全然!気にしないで!むしろ本当にごめんね・・・・・・」

 手と顔がぶんぶんと横に振られる。


 平謝りする少女を横目に私はペットボトルに口をつけた。

 できる限り不満そうな声で尋ねる。

「で、誰ですか?」


「えっ、と。確認なんだけど。(ゆう)、だよね?五色(ごしき)悠・・・・・・」


 確かに悠ではあるけど五色かはわからない。

 こういう基本的なところは、調べておくべきだったなぁ。


 黙って考えていると、焦ったように少女は名を名乗った。

「私は金瀬(かなせ)。お、覚えてないかな?」


「金瀬・・・・・・」

 じっと顔を見つめてみたが、全く何も知らないし、思い出せない。

「ごめんなさい。何も・・・・・・」


「謝らないで!!お、覚えてないなら、それで、いいからさ」

 眉尻を下げて、焦ったようにまた大袈裟な動作で手を横に振ってみせた。


 千冬さんとのやりとりを思い出す。


 この子になら言ってもいいんじゃないだろうか。

 私は悠じゃないって。

 家族じゃないこの子になら・・・・・・。


「ねぇ、悠が引きこもる原因になったのはさ・・・・・・私のせいなんだよ」

 金瀬は緊張しているのか声が上擦っている。


「は?」

 私の返答は一文字だけだった。

次は6月7日に投稿します!

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