エンカウント
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千冬さんの言葉や表情に翻弄されながら私はなんとか服を着替え終えた。
「ゆーうー、まーだぁー?」
千冬さんの目を見るのは怖い。
火傷の跡を見てからは尚更、むしろ一緒にいたくないと思うほどだ。
「い、今行きます・・・・・・」
流石に長くは待たせられないため服の裾を少し触ってから扉を開けた。
「・・・・・・まじぃ?」
しばらくの沈黙の後にその言葉が千冬さんから放たれた。
私は千冬さんの顔を薄目で見る。
呆れたような残念そうな顔をして突っ立っている。
「はぁ〜、私が着替えさせた方が良かった・・・・・・」
「へ、変ですか?」
黒のゆったりしたパンツとグレーのスウェットを身に纏った私は自身の体を見てみた。
変なところはない、と思う。
「いやぁ、変じゃないけど可愛くないなぁ〜って」
頭のてっぺんからつま先まで値踏みされるようにジロジロ見られる。
「え、えぇ・・・・・・、じゃあ変えてきます」
不満げな声で可愛くないと言われてしまい、若干へこみながら部屋へ戻ろうと後ろに下がろうとする体を掴まれた。
「いやぁ〜!すごくかわいい〜!ほら行こうねぇ」
わざとらしい声で私を可愛いと言い、手を繋いで玄関まで引っ張られていく。
「悠の靴ってあったっけ?ん〜、悠の足に合う靴はあるかなぁ〜?」
玄関で靴箱を物色してから、千冬さんは諦めたようで元々置いてあったスニーカーを私の方に寄せた。
全体は白色で水色が差し色になっている。
「え、えっと・・・・・・」
千冬さんはしゃがみこんで私の足を取る。
靴を手にして私の足に合うか見てから、私の足に履かせた。
「おー、ぴったりだね?まさか碧唯の靴が履けるなんて思わなかった」
心底意外という風に私の足元を眺めた。
「あ、碧の!?か、勝手に履いていいんですか!?」
兄弟、姉妹は靴を履きあったりするのか!?
そんな私の声に千冬さんは眉尻を下げながら言った。
「悠は、これまで外に出てないから・・・・・・」
「あ、すみません」
嫌な沈黙が流れた。
私はそっと片方の足を碧の靴に入れて、履き心地を確かめた。
「い、行きましょうか?」
碧にはなんか、お礼をいつかしよう。
そう心の中に決めた。
玄関で靴を履いてこの体になってから初めての外へと歩み出す・・・・・・ことはせずに速攻で玄関の戸を閉めた。
「あ”っっっつ”っっ!!!!」
私の体から今まで出したことのない声が出た。
「うわっ!びっくりしたぁ〜」
私の声に驚いた千冬さんは間の抜けた声を出す。
「あの、やめませんか?外は危険です。暑すぎます!!」
私の抗議の声に冷静に千冬さんは正論を返す。
「そりゃあ、当たり前でしょ?夏休みなんだし。夏が暑くなかったらそれは夏じゃないし。いいから行くよ」
私は千冬さんに手を掴まれて強引に外に連れ出された。
家から出て3分。
日差しに照らされて溶けそう。
「く、くるま・・・・・・」
「ないよぉ」
家から出て7分。
息が上がっている。
「た、タクシー」
「ないよぉ」
家から出て10分。
歩みが遅くなる。
千冬さんも合わせてくれている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
家から出て15分。
息切れと汗が止まらない。
足もガクガク。
「お、おん、ぶ・・・・・・」
「あ〜〜るぅ、いや、ない・・・・・・」
少し悩ましそうな声を出す千冬さん。
一度立ち止まって数秒の間。
千冬さんと私は歩道で見つめ合う。
特に顔色の変わらない千冬さんを見て、私は千冬さんを恨めしそうに睨みつけてボソッと呟いた。
「・・・・・・けち」
「ふっ、ほんっとうに変わったね?悠っ!ははっ」
千冬さんは笑いながら、私の手を握ったまま遠慮なしに歩き出した。
「ま、まってほんっと〜うにっ、もっ、むりぃ」
私はほぼ千冬さんに引きづられている。
「だーめ!早くおつかい終わらせて帰らなきゃ〜。もう着くよぉ」
私は千冬さんの言葉に目線を上に上げた。
地面しか見ていなくて気づかなかったが、結構大きめのスーパーがもう目の前にあった。
スーパーを目にした途端、私は力が湧いてきて千冬さんと握り合っていた手を解いてすぐさま自動ドアへと駆け寄った。
ドアが開くと冷気が一気に押し寄せてきた。
私は両手を広げて涼しさを体いっぱいに享受した。
「ここが、てんごく・・・・・・」
後からやってきた千冬さんは私の呟きを聞き取ったからなのか周りを気にしながら、再度私の手を取って側に引き寄せた。
私の耳元で小声で話しかけてくる。
「ちょっと!恥ずかしい!手を広げないで!変なことも言わないで!」
私も暑さでおかしくなったのか、負けじと千冬さんの耳元に口を寄せて囁いた。
「こんなに可愛い妹が苦しんでるのにおんぶもしてくれなかったでしょ!」
千冬さんは瞼をぴくりと痙攣させてから笑顔で囁き返してきた。
「後でたくさんしてあげるから覚えてなよ?おんぶだけじゃないからね」
千冬さんの返事の速さと声の低さに私の暑さはサーッと、消えてなくなり寒さだけが残った。
「じょ、冗談です。すみませんっ!」
謝りながら私は手を離そうと少し腕を引く。
しかしそれは許されず、笑顔の千冬さんは左手で私の手をしっかり握って離さず、右手でスーパーのカゴを持った。
「悠は私が言うものを取ってね?」
ニコニコとしているが絶対に笑っていないことはわかる。
「りょ、りょうかいです」
そうしてお買い物は始まった。
野菜から始まり、肉、お菓子、魚、ジュースといった具合に見ていった。
おつかいも終盤といったところで千冬さんは何かを思い出したように声を出した。
「あ、悠。パスタ忘れてたぁ。」
「じゃあ、私行ってきます!」
そう言って千冬さんの元を離れて小走りで探しに行く。
すぐに息切れを起こし、呼吸を整えつつゆっくり歩き出し始めたところに後ろから声が聞こえてきた。
「ゆ、ゆう・・・・・・?」
遠慮がちな女の子の声に聞き覚えはないが、心臓がバクバクと動き出すのを感じた。
この感じ、ヤバいかも・・・・・・。
私は手を胸元に寄せて深く呼吸をすることに意識を回す。
その間にも他の子の声も聞こえてくる。
「悠ってだれ?」
「同じクラスのやつじゃね?一回も来てねーけど」
「ゆ、ゆうだよね?」
遠慮がちに最初に声をかけてきた子の声が私に近づいてくる。
「っ・・・・・・」
私はどんどん苦しくなってギュッと体を縮こませる。
私の左肩に手が置かれた。
次は6月4日に投稿します!




