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騙された?

 私はこの体に変わってからの記憶しかない。

 (ゆう)を一番知っているのは誰だろうと考えたときに出てきたのは一人だけだった。


「あ、あの千冬(ちふゆ)さんのことなんですけど・・・・・・」


 私は(つむぎ)さんの部屋を訪れた。


 間延びした紬さんの返事が返ってくる。

「ん~?」


「そ、その・・・・・・」

 千冬さんのことを考えて胸が苦しくなってきた。

 す~っと息を吸い込んで、酸素を十分に取り込んだ。

「っ・・・・・・」


 私の様子を見て、紬さんは椅子からベッドに移動し、空いている隣をポンポンと叩いて見せた。

「おいで。ゆっくりでいいよ」


 私は大人しく隣に座り込んだ。


「どう?部屋から出て」


「え?」


 紬さんはニコニコした顔で私の返答を待っている。


「どう、か・・・・・・。出てきて、よかったと思います。」


 私は悠ではないから、本当の悠の言葉ではないけれど・・・・・・。


 なんとか言葉を紡いでいく。

「紬さんはすごく優しくて、(こう)もツンツンしてるけどかわいいです。(あお)は小さい子犬みたいで、楓夏さんは怖いと思ったけど私のことを考えてくれてます。千冬さんは・・・・・・」


 下を向いていた顔を紬さんに向けた。

「ち、千冬さんは私のために火傷をしたって本当ですか?私の、せ、せいで、そう・・・・・・」


「違うわよ?悠ちゃん。深呼吸」

 紬さんの顔色はちっとも変わらず私の背中を優しくさすってくれた。


 私の呼吸は少しずつ良くなっていった。


 それから少しして紬さんは勢い良く立ち上がったかと思うと、手をパンッと叩き大きな声を出した。

「あ~、こんないい天気だもの。少し散歩するのもいいかもしれないわね!」


「ちーふーゆー!!」

 二階のリビングに向かって紬さんは叫ぶ。


「あら?おかしいわねぇ。ちょっと待っててね?」

「えっ、いや、あの」


 そりゃあ、二階から一階まで声が届きはしないでしょうね・・・・・・。

 ん、紬さん?

 私、今は千冬さんとは・・・・・・。


 私のつぶやきなどお構いなしに私に「今呼んでくるね?」みたいな感じでにっこりと笑いかけてからリビングへと行ってしまった。


 今会いたくない人ナンバーワンに輝いているんですけど!?


 紬さんの部屋の外から聞こえてくる声を聞くためにドアの隙間からチラ見する。

 千冬さんは自分の部屋から連れ出されてきたみたいだ。

 リビングから二人のやり取りが聞こえてくる。


『悠ちゃんと一緒に散歩でもどう?』

『は?行きたくない。そんな気分でもない』

 いつもの余裕がある話し方でなく、(こう)に似た喋り方をしている。


 こ、心が痛い・・・・・・。


 紬さんは紬さんでマイペースに話を進める。

『そういわないでぇ。う~ん。あっ!今日の晩御飯のおつかいをお願い』


『お使いぐらいわたし一人でも行ける。悠は必要じゃない』


 ガタッ


 扉に手が当たってしまった。

 私と千冬さんの目が合った。

 千冬さんは驚いた顔をしてから私の方にやってきて、私の目元に服の袖を当ててから顔を紬さんに向けて返事をした。

「わかった。行ってくる」


 そう言ってから千冬さんによって腕を引っ張られて、二階から一階のリビングを通って千冬さんの部屋に連行された。

「えっ、あ、あの、ちょっと・・・・・・」


 バタンッ


 大分大きな音が鳴った扉を心配してから千冬さんの方を見ると、私のことなどお構いなしに着替え始めていた。


 わあ、白色。

 って、そうじゃない!


 私は慌てて目を両手で隠した。

「なに慌ててんの?」


 千冬さんは私の近くまでやってきた。

 目の前は当然見えないが、足音と気配でわかる。


「えと・・・・・・、き、着替えるなら私は外にいた方がいいですよ、ね?」


 何の返答もなく不意に私の左手がとられた。

「覚えてないの?」


 聞こえてきた悲し気な声に思わず目を開いた。

 目に入ってきたのは、下着姿の千冬さんだ。


 千冬さんは私の左手を、千冬さんの右の腕へとゆっくり引っ張って触らせた。


「ご、ごめんなさい・・・・・・」

 私の目からは涙がこぼれ始めた。


 千冬さんの腕には茶色の火傷の跡が広く残っていた。

「ね、本当に覚えてないの?」


 千冬さんは私の腕を離して左手で涙をぬぐった。


「お、おぼえてな、い・・・・・・」

 嗚咽交じりにそう伝えると、千冬さんはふっと笑ってから私の頬を掴んで明るい声で言った。


「悠のせいじゃないよぉ!!だまされた?」


 突然のことに私の涙も引っ込んでしまった。


 そうして私から離れてさっと服を着替えて見せた。

「んじゃ~。ここからは悠ちゃんのコーデを考えなきゃね?」


 千冬さんはいつもの狐目で笑って見せた。

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