家族みんなで夜ご飯
ちょっと見る人によってはつらい描写があるので、注意です。
夜ご飯の準備。
一般家庭ってみんなどんな感じで、支度してるんだろう。
私の幼少期は・・・・・・。
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私は頭を後ろにそらして目の前の扉を見上げた。
古く、錆び付いた玄関の扉が目の前にそびえたっている。
私は背負っていたランドセルを地面において、蓋を開け、全面のチャックを横に引いた。
手の感触で鍵を探す。
―違う。これは、公園で拾った丸い綺麗な石だ。
ゴソゴソと別のものに手を当てる。
―これは神社のお守り・・・・・・。
三回目でやっと鍵を手にした。
しゃがんでいた私はスクッと立ちあがって、扉の鍵穴に鍵を差し込んで、回した。
ガチョッ。
手には硬い反動を感じ、鍵は回らなかった。
今度は反対側に回す。
カチャンッ。
正解だったみたいだ。
私は背伸びをして手を伸ばし、静かにドアノブをひねって手前に引いた。
―ただいま。
この家では声を出してはいけない。
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ずっと前に一度やったことがある。
『ただいまっっ!!今日ね!私凄いんだよっ!!』
昨日、夜勤だとお父さんが言っていたのを知っていた私は鍵を開け、ドアをバンッとあけて靴の向きもそろえないままお父さんの寝ている部屋にドタバタと走って向かった。
寝室で眠るお父さんをゆさゆさと揺すって無理矢理に起こした。
『なんなんだ・・・・・・』
起き抜けにぼーっとする父に私は嬉々として報告をした。
いや、正確にはしようとした。
結局は報告はできなかったが。
ドンッッ
いきなり隣の部屋からものすごいでかい音が響いた。
そして、怖い男の人の声。
『うるっせーぞ!クソガキ!!』
ドスドスドスッ
隣の人が歩く音だ。
わざと音を出している。
それから間もなく、うちのベルが鳴った。
ピンポ、ピンポ、ピンポーン
ドンドンドンドンッ
何度もチャイムを鳴らし、乱暴にドアをノックした。
私の体が強張る。
お父さんはもうすっかり覚醒していた。
すぐさま玄関に行き、扉を開けた。
扉を開けてすぐに太い指が扉をぎゅっと掴んだ。
『おいっ、ガキの教育もまともにできねぇんならでてけや!毎日毎日、うるせえんだわ!』
お父さんは弱弱しい声を出した。
『申し訳ありません。言って聞かせますので・・・・・・』
私はお父さんの部屋から目をのぞかせた。
『っ!!』
私はその場で凍り付いた。
怖いおじさんと目が合ってしまったからだ。
『おいっ!おめえだよっ!クソガキっ!今度、うるさくしてみろ?ただじゃ済まねえからなっっ!!』
おじさんは唾を飛ばす勢いでしゃべった後、扉から指を引いて、バンッと乱暴に扉を閉じて足音を響かせながら自分の部屋に戻っていった。
お父さんは無言でこちらにやってきた。
ごんっ
鈍い嫌な音が響く。
お父さんは右手で握りこぶしを作って私の頭に拳骨を落とした。
私は部屋から追い出され、お父さんは扉をバンッと閉めた。
『うっ、っうぅ、うえぇぇえええぇえぇん!!』
当然のことながら、幼い私は泣いてしまった。
『うるせえ!!黙れっ!!』
ゴンッ
それからまた、隣人は怒鳴り声をあげて、壁をたたいた。
私は顔を腕にうずめて声を殺して泣いた。
『う"ぅぅぅ、ひっく・・・・・・』
この日夜10時に帰ってきたお母さんと入れ替わるようにお父さんは出ていった。
夫婦での会話はない。
お母さんは私の顔を見ずに、ただ私が座っていたテーブルに袋を置いてシャワーを浴びに行ってしまった。
中をのぞくとお弁当が一つ入っていた。
私の夜ご飯は冷たいコンビニのお弁当だった。
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今では、両親はあまり家にいない。
仕事が忙しいみたいだ。
私はリビングのテーブルを見てみた。
500円玉が置かれている。
もう、コンビニのお弁当も買ってきてもらえなくなった。
私は500円玉を眺めた。
それから家の小さなコンロがある下のキャビネットを開けてみた。
中には虹色のキツネというカップラーメンが一つだけ入っていた。
それを自分でお湯を沸かして、一人で食べた。
~~~~~~
碌な記憶がねぇっ!!
だ、誰か!有識者はいねえのか!?
一般家庭のご飯支度は学校では習っちゃいねえよ!!
みんなが一様に役目がある中、私はオロオロとしていた。
そんな私にかわいい碧は声をかけてくれた。
「ゆ、悠お姉ちゃん。こっち来て。これ、味見してみて?」
私はキッチンに行き、碧のそばに行く。
小さな小皿に味噌汁が入れられている。
「あ、はい・・・・・・じゃなくて、うん」
私は碧から味見用の味噌汁を受けとり、ツーっと喉に流し込んだ。
優しい。
碧みたいに優しい味だ。
「えっ!」
碧が驚いた顔をしている。
「ま、まずかった?悠お姉ちゃん、泣いてる・・・・・・」
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。
「いやぁ、碧みたいに優しい味だなぁって思って。へへへ、感動して涙が出ちゃった!」
私はうまく笑えていないだろうけれど、笑みを作った。
「・・・・・・。そっか!!よかった!!」
そう言って、碧は腕まくりしていた服の袖を下ろして、私の涙を拭き取った。
「味噌汁ぐらいで大袈裟じゃね?てか準備できたよ!」
ぶっきらぼうに言葉を投げかけられた。
こちらを怪訝そうに見つめるのは楓夏さんだ。
「楓夏お姉ちゃん、そんな風に言わないで!今から味噌汁をお椀についでくからね!」
碧はそう言って、手際よくお椀に注ぎ入れて、私はそれをリビングのテーブルに運ぶ。
温かな湯気を立てた白くてつやつやのご飯がたくさん並んでいる。
六人分の夜ご飯が並ぶ様は圧巻だ。
今日は豚の生姜焼き。
お肉はこんがりと綺麗に焼けて、玉ねぎは透き通った色をしている。
野菜も瑞々しい緑色で、少し水気を含んでいる。
野菜の上にはカニカマとシーチキンが載せられている。
そして、碧が作った優しい味の豆腐とわかめの味噌汁・・・・・・。
長方形のテーブルに、私は紬さんの見える位置に座った。
右斜め前には紅。
紅の隣に碧。
左斜め前には楓夏さん。
楓夏さんの隣に千冬さん。
「みんなが揃っての食事なんて、久しぶりねぇ!」
そう、紬さんが嬉しそうに手を合わせて、顎のあたりに手を置いて言う。
「父さんは~、いないけどねぇ」
それを聞いて、すぐに千冬さんは苦笑しながら言った。
「どうでもいいから早く食べようよ。てかいただきま~すっ!」
至極どうでもいいといった感じで楓夏さんは一人、いただきますの挨拶をして食べだしてしまった。
それに続いて、紅も食べだした。
「いただきますっ」
紬さん、千冬さん、碧は同時に挨拶をした。
「「いただきます」」
私も小さな声でいただきますと言って、まずは左手で白ご飯が入った器を手にした。
私の箸は水色。
すくって口に含んだ。
おいしい!
私は次にすぐさまナイフを手にとって、豚の生姜焼きを食べやすいサイズに切った。
そして、お肉をご飯の上にのせて一緒に食べる。
あつあつのご飯にお肉のうまみが合わさり、少ししょっぱい味付けが更に白ご飯を進ませる。
口の中をさっぱりさせるために、野菜をほおばる。
シャキシャキとした食感に、カニカマの風味がいい感じ。
私は目の前にあったマヨネーズをかけて再度食べてみる。
うまじょっぱくておいしい!!!
そうして、口の中の野菜を食べ終えたら碧の味噌汁に口をつけた。
しあわせぇ~~。
・・・・・・。
あ、あれ?
私は食べることに夢中で、気づかなかったが、私にみんなの視線が集中していた。
味噌汁に口をつけたまま固まる私。
「・・・・・・」
「めっちゃ、幸せそうに食うじゃん。」
楓夏さんが驚いた声を出す。
続いて、紅もぼんやりとつぶやいた。
「悠姉、そんな顔できるんだ・・・・・・」
「見てるこっちまで幸せになるね!」
笑顔で碧が言う。
紬さんも優しい目でこちらを見ている。
私はがっついて食べてしまっていたことを思い、恥ずかしくなって、俯きがちになった。
「よそ見しないで食べないと。も~らい!」
そう言って、千冬さんは楓夏さんのお肉を横から取っていった。
「なっ!?お前!!自分のはっ!?はあ?もう食ったのかよ!?」
楓夏さんは千冬さんの食べる速度に驚き、とられまいと一生懸命にご飯をかけこみだした。
「次は紅ちゃんからもらうわ~」
飽き足らず、お肉を狙う千冬さんは紅に標的を変えた。
紅は無言で楓夏さんと同じようにご飯をかけこんでいく。
そうして、家族の食卓は賑やかに、けれどゆっくりとした時間が流れていった。
ご飯なんて、私にとってはお腹の減りが良くなればなんでもよかった。
でも、違うんだ。作る過程も、食べるときも幸せなんだ・・・・・・。




