紅は優しい?
楓夏さんと、千冬さんに加えて、碧まで紅に怒られるのを聞きながら、二階のリビングでじっとソファに座っている私。
紅がドスドスと階段を上がってくる音が聞こえてきた。
そして、扉が開けられる。
「はぁ~・・・・・・」
私を見て、紅は盛大なため息をついた。
それを聞いて、私は身を縮こまらせた。
「な~んで、そんなに背筋よくしてるの?そんなに怯えないでよ。悠姉には怒ってないじゃん・・・・・・」
ほんの少し傷ついたように言う紅。
「あ、いや。お、怯えてはないんですけど・・・・・・」
「目ぇ、逸らしてんじゃん」
咄嗟に否定をしたものの、紅に視線のことを指摘されてしまった。
「まぁ、いいや。あいつらには厳しく言っといたし、多分、安心していいと思うよ」
紅は優しく私に声をかけた。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
私はその言葉に少しだけ紅を見れた。
私が顔を少し上げたのを満足そうに見て、少し笑った。
紅は、こういうところが素敵だなぁ。
ぶっきらぼうだし、ツンツンしてるけどちゃんと助けてくれる。
でも、じゃあなんで悠は引きこもることになったんだろう・・・・・・。
こんなに優しい紅でも説得できなかったのかな?
心の中で私は感心すると同時に疑問も沸き上がった。
その考え事は紅に話しかけられたことによって消えた。
「それで、さ。」
紅は耳たぶをいじりながら視線をさまよわせる。
心なしか、顔が赤い。
そうして、私の方へと歩み寄ってきた。
ソファに座る私の前に来ると紅は腕を前にして、広げて見せた。
「?」
私は意図を汲み取ることができず首を傾げた。
紅は、しばらくそうした後、突然大きな声を出して、腕をぱっと下げた。
「だあぁぁぁぁぁ!もう!あんたってホントっ!!」
私はびくりと体を震わせて頭を抱えて、縮こまった。
紅の行動は未だに読めないし、難解だ。
それから紅は私をがっかりしたような目で見てから質問をしてきた。
「あんた、今日は一階でみんなとご飯食べんの?それとも二階で一人で食べる?」
えっと、あんた呼びはひとまず置いておいて、みんなとご飯を食べるかって!?
そんなのもちろん・・・・・・はい、いいえ、どっちだ?
私自身は問題ない。
問題があるのはこの体だ。
いつも反射的に行動をしだすから、私が制御できるものではない。
この子、悠は、今どこにいるんだろうか。
私のように別の違う人の体か、もしくは私の体か・・・・・・。
考え込んでいると、私の目の前で紅の手がフリフリ揺らされた。
「今別の所にいたでしょ?」
確かに別のことを考えていた。
「す、すみません」
「別にいいよ。今日は無理せずに一人で食べなよ。お母さんにそういっとくから」
そういって、一階へと戻ろうとする紅。
「お、お母・・・・・・。つ、紬さん、もう帰ってきたんですか?」
「ぷっ」
私の問いに紅は吹き出した。
「お母さんって呼べばいいのにぃ。もう帰ってきてる」
紅はニマニマしながら私を見て答えた。
「た、食べます!!一緒に!!あと、紬さんって呼びたいから読んでるんです!!」
「あっそ。好きに呼べばいいよ。それから!」
至極、どうでもよさそうに紬さん呼びを肯定してから、ビッと人差し指で私を指して紅は仁王立ちになった。
「また、敬語!!!次敬語使ったら覚悟してよね。あと一緒に食べるならお母さんを手伝いに行こう?」
こ、怖い!
次に敬語を使ったら私はいったいどうなるんだろう。
そう思いつつ、足早に一階へと向かう紅を私も追いかけた。
一階ではもういい匂いがしている。
「楓夏ぁ、なぁに飲む~?」
この間延びした紬さんのような声は千冬さんの声だ。
しかも若干、紬さんの声に似ている。
「普通に水かな。千冬はほうじ茶でいいんでしょ?」
対して、紅に似た話し方をするのは楓夏さんだ。
声はあまり似ていない。
「お母さん、このくらいでいい?」
この声は碧の声だ。
すごくかわいい。
「う~ん。少し味噌を足した方がいいかも?あら、紅!きたのね?味見してみてくれない?」
安心するいつもの紬さんの声だ。
そして、紬さんは紅に気付き、味見のお願いをした。
私は階段の陰からみんなの様子をうかがっている。
先に行っていた紅が後ろを振り返って私を見た。
「いや、あたしじゃなくて、悠姉がしてくれるから」
「「えっ」」
みんな、一様に驚いた声を上げて、し~んと場が静まり返ってしまった。
私は気まずく思いながらおずおずと姿を現した。
そ、そんな珍獣みたいな扱いはやめて!!
誰か何とか言ってよ!
「ほら、手伝えばいいんでしょ?お母さん、あたしは何すればいいの?」
紅の一言によって、止まっていた時が動き出した。
「え、ええと、そうね・・・・・・」
私も紅にぴったりくっついていき、ご飯支度のお手伝いに参加した。
5月6日になっちゃいました・・・・・・。
明日はお昼には出しますね(-_-;)