ハグは簡単にはできません
お部屋の掃除をしていた私。
謎の生命体たちにも屈さず、謎の液体もふき取り、部屋をきれいにしたい一心で頑張っていたというのに、突然現れたお姉さんたちによって、私のお掃除活動は終わった。
お姉さんたちは私の過呼吸に対処してくれたものの、いきなり一触即発の状況へと転じた。
なぜ?
なんで、こう、私を挟み込んで喧嘩をするんでしょう?
未だに怖い顔のお姉さんの爪が肩に食い込んだままである。
そして言い合いをしている。
「お前腹立つんだよ!私だって好きでこんな体になったわけじゃねえよ!」
この人は体にコンプレックスがあるみたい。
私は素敵だと思いますよ?
「大丈夫。私、楓夏の体好きよ?」
お?
仲直りへの一歩か?
そう思ったのもつかの間、この人は平気で火に油を注いだ。
「貧弱ですぐ折れそう♪」
その言葉はいらないだろう!?
私は反射的にやさしそうな女の人を見てしまった。
さっきまで閉じられてニコニコしていた目はなく、開けられた目には何の感情も宿っていないようだった。
鏡で自分自身の顔を確認したときに見たような目。
私は咄嗟に目をそらして、グルンッと怖い顔のお姉さんに体を向けた。
そしておまけに抱き着いた。
「んぇっ!?」
私が抱き着いたせいかお姉さんが驚いた声を上げた。
わたわたと動揺してはいたが、私を突き放したりはしなかった。
後ろからは間の抜けた声が聞こえてきた。
むしろ少し悲しそうな声のような気さえする。
「あらぁ~?嫌われちゃったぁ?」
ガチャっ
玄関の戸が開く音だ。
「悠お姉ちゃ~ん!帰ってきたよ~!」
一番最初に碧の声がした。
それに続いて、紅の声も。
「は?楓夏姉さんに、千冬姉さんも帰ってきちゃってるじゃん!」
「本当だ!悠お姉ちゃんはどこ?」
「二階のリビングにいるんじゃないのっっ?」
二人は何か焦るように玄関からリビングに来た。
私の部屋はリビングに面した部屋で、二人は簡単に私を見つけることができた。
そして二人は目に入った状況に困惑していた。
私にぎゅっと抱き着かれる怖い顔の姉と、少し困った顔をした姉を見て、どう声をかけるべきか。
困った末に、まずは怖い顔の姉に抱き着く姉を何とかしようと試みることにした。
「悠お姉ちゃん?大丈夫?こっちにおいで?」
優しい碧の声にそろりと顔を碧に向けた。
「早くこい。悠姉っ!」
ぶっきらぼうだけど少し腕を広げて紅も呼んでくれた。
私は強面お姉さんから恐る恐る離れてから駆け足で紅のそばに行き、後ろに隠れた。
碧は私の頭を撫でて、両手で私のあごを包んでじっと見た。
「あわわわ、涙目だよ?悠お姉ちゃん・・・・・・」
碧の言葉を聞いて、紅は怒り出した。
「バカ姉共!!悠に何したのさ!?」
二人ともお互いに目配せをして、少し考えた後に言った。
「「悠を間に挟んで言い合いしました」」
私は碧によって、二階のリビングに連れていかれた。
紅はお姉さん二人に大変怒っているようだった。
二階にはリビングに入る前に扉が一枚ある。
それが碧の手によって閉じられて、完全に何も聞こえなくなった。
碧は私を気遣って、手を引いてソファまで連れてきてくれた。
「悠お姉ちゃん?大丈夫だからね」
段々と気恥ずかしくなってきた。
目が苦手と言う理由で、私の体から見たら年上の人だけど、中身がいい年した大人なのに抱き着いてしまったことだ。
「なんだかすみません」
ふいに謝罪が出てきてしまった。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、碧は私に質問をしてきた。
「どうして謝るの?というか、どうして楓夏お姉ちゃんに抱き着いてたの?」
碧は謝罪はあまり気にしているようではなかった。
むしろ後者の方に興味があるようだ。
「え、えっと、ふ、楓夏お姉ちゃんというのは・・・・・・」
私は話を濁した。
碧は端的に説明をしてくれた。
「ガラの悪そうな方が楓夏お姉ちゃんで、優しそうなのが千冬お姉ちゃん。それで?なんで楓夏に抱き着いてたの?」
楓夏お姉ちゃんから、呼び方が楓夏に変わったことに少し驚く。
それに加えて、碧の顔はいつもとは違うように思える。
いつも優しい顔をしているのに、凄く冷たく見える。
「え、えと・・・・・・」
碧の圧に耐え切れなくなった私は、隣に座る碧に近寄って碧を抱き寄せた。
「えっ!?ゆ、悠お姉ちゃんっっ!?」
私に抱き寄せられた碧は動転している。
これは最適解を見つけ出せたのではないでしょうか?
でも、なんかこれって、私が思い描いていた姉妹と違うのですが。
バンッ!!
姉妹の在り方について悩んでいたら紅が扉を開けた。
私と碧を見る。
私は紅の顔がばっちり見える。
紅は青筋を立ててひきつった笑いをしている。
「碧唯、ちょっとこっちに来て。」
そう言って、また扉が乱暴に閉められて一階では紅の怒号が響いた。
私のハグはこの家では容易にやっていいことではないことを学んだ。
明日も投稿します!




