大掃除②
カップ麺の容器、お弁当の容器、ティッシュ、箸、蓋にサランラップ。
手早くごみ袋に投げ入れる。
空ならまだいいけれど、残しているものもある。
この残したままのものが問題だ。
詳しく言えないけれどこの部屋には、やっぱり私以外の生命体もいた。
ご飯が豊富でこの生命体たちにとって、この部屋は楽園だろう。
まぁ、それも今日で終わりだけど。
殺虫スプレーを撒いて、拭き取りした後の雑巾はすぐに捨てる。
まじまじ見たりはしない。
速攻で捨てていく。
何度も同じ作業をして、床にこびりつく謎の液体を拭きとる。
ペットボトルとプラスチックの容器は洗面所で水洗いして捨てた。
他のこまごましたものも含めて、 この体の子には悪いと思うが、私がいらないと判断したものは捨てていく。
お昼を過ぎ、三時のおやつの時間になるころにやっと床が綺麗に片付いた状態になった。
机の上に目を向ける。
ペットボトルや缶は捨てたが、何かがこぼれている跡がある。
お昼を食べたいところではあるが、ここまでくると逆にラストスパートで頑張ろうという気持ちが沸き上がる。
再度、自分の服を雑巾として使い、机の上のべたつきや汚れを拭き落としていく。
窓を拭いて、窓のサッシも丁寧に拭いていく。
あらかた拭き終えて、ゴム手袋と一緒に雑巾も捨てた。
これはプロの掃除屋も感動するレベルだな。
なんて考えていた時だった。
「お前、何してんの」
「何してんのって、そりゃあ、こんな汚部屋を人が生活できるようにお掃除をしているんですょ・・・・・・・。へ?」
後ろを振り向くと怖いお姉さんがいた。
髪は紅と碧と同じで茶色だ。
碧と同じ茶色で同じくピンッとストレートの髪が右側だけ肩まで伸びている。
左側だけはショートで左耳が見えている。
出ている左耳はピアスをばちばちに空けている。
この表情は既視感がある。
そう。紅が私を冷たい目で見るときみたいな感じ。
別の人の声も聞こえてきた。
「ふうかぁ~、わたし疲れちゃったんだけど~。ほらぁ、大事なギターなんでしょ~?自分で持ってよぉ・・・・・・。うん~?あれ?」
玄関から移動してきて私の部屋の方まで来たのは優しそうなお姉さんだった。
髪は紬さんと私と同じ黒い色。
きれいな黒の髪は紅と一緒でウェーブがかかっている。
私自身は突然のことに全く反応できなかったが、体は違う。
昨日に引き続き、今日の朝も過呼吸を起こしたというのに、またその症状が出そうになる。
胸が苦しくなってきて俯きがちになる。
床が目に入るが、一瞬にして視界が真っ暗になった。
同時に顔全体に圧迫感がある。
な、なに?
私、た、倒れちゃったのか?
しかし、そうではなかった。
紬さんがしてくれたように優しそうなお姉さんが私を抱きしめてくれた。
「はいっ、吸って~」
お姉さんの胸に顔が若干埋まりかけていて、むしろ息がしづらいが吸ってみる。
「ひゅっ、す、すー」
お姉さんは私の背中をさすりながら続けた。
「よしっ、吐いて~」
言われたとおりに吐く。
「はー」
自身の吐いた息で、お姉さんの胸のあたりが熱くなった。
「よしっ!もうワンセット!」
そう言われて、試しに息を吸おうとしたが、お姉さんの胸の圧で窒息しそうだった。
あ、無理だ。
なんか目の前が真っ暗に・・・・・・もともと真っ暗だけど・・・・・・。
肩を誰かに掴まれた。
ガバッ!
それから急に視界がはっきりして、明るくなった。
「ぷっっはあ!!」
私は思いっきり呼吸をする。
さっきの音は怖い顔のお姉さんが私をもう一人のお姉さんから引きはがしてくれた時の音のようだ。
さっきよりも険しい顔をして優しそうなお姉さんのことを睨んでいる。
「千冬。お前は自分の体について少しは考えろ。悠が死にかけてたぞ。お前のでけぇ乳でよ。」
怖い顔のお姉さんはでけぇ乳と言ったときに手に力が入った。
なぜわかるかというと、強面のお姉さんは私の後ろで両肩を掴んで立っているからだ。
一方で、そんな凄みはなんのその。
優しそうなお姉さんは笑みを崩さない。
「好きでこうなったわけじゃないのにぃ・・・・・・」
そう言って、閉じられていた目が開かれた。
さっきまで優しそうだった印象がガラッと変わる。
私と同じつり目で、口元は完璧に笑っているのに目が全く笑っていなかった。
「あ"ぁ!?」
対する、こちらのお姉さんは私の肩に爪を立てた。
い、痛い痛い痛い!!
喧嘩するなら他所でやってよ!!
この家で過ごして一日とちょっと。
わかったことはこの家は個性あふれる人でいっぱいということだけ。
次回更新日は5月4日になります。