◆第八章:春日原 誠
その日は久々に学芸部のドアを叩く音がした。
「はーい。」
僕が声をかけてドアを開けると三人の来客が表れる。彼らは三奈木さんのクラスメイトらしく見覚えがある。
「どうぞ中へ入ってくださいっす。」
僕が声をかけると先頭を切って入ってきたのは坊主頭の小林君、彼は三奈木さんいわく単調なバカらしい。
なるほど息のあらげ方が野性味に溢れていてエネルギッシュだ、三奈木さんの苦手なタイプだな。
「失礼します。」
続いて挨拶と共に入ってきたのは黒髪眼鏡の静海さん、三奈木さんのクラスの学級委員長らしい。
見るからに大人しい印象ではあるがちょっと前から三奈木さんが目をつけている。なんでも一日失踪して猫を探して家出したとか、見かけによらず行動的なんだね。
「うちのバカが失礼します。」
最後に謝罪と共に入ってきたのは長髪の神谷君、彼については情報が少ない。そこまでクラスで目立つ方でもなく成績は中の下、部活動もしていない。
しかし三奈木さんは彼を一目おいている。
「あいつの母親、中学の時に死んだんだよ。」
寂しそうに三奈木さんがいっていたことを思い出す。
「葬儀もおえて学校に来たかと思えば何事もなく過ごしてやがったんだ。」
「親の死に目も見ない覚悟で働けって言葉があるけどよぉ…、あいつを見ていると俺はそれが出来るかわかんなくなるんだよ。」
なるほど三奈木さんにそう言わしめるのだからクールな男なのだろう。
「まさかもう来るとわな。」
三人の来客を前にして椅子に構えてふんぞり返っているのは三奈木さん、彼女の言葉を借りるならこの部屋の主だ。
格好付けてはいるが椅子の後ろにさっきまで読んでいた少年誌を隠している。何も隠すことはないのだがそうゆうと彼女はこうゆうのだろう。
「浮世離れしたものを取り扱う我々が俗世じみたものを他人に見せられるか!」
この部屋、学芸部の部室は今オカルト研究会の詰め所になっている。
実のところ人がいなくて廃部寸前だったこの部だが僕と三奈木さん、あと不登校になってしまった大歳くんの三人で入部して合法的に占拠しているのが現状だ。
とはいえ今の部員は二人、部活動として存続するには本来あと三人必要なのがこの学校の決まりなのだ。しかしそこは三奈木さんがどうにか教師を言いくるめて今に至る次第だ。
三奈木さんは用意していたコーラの蓋をとる。
プシュッとこぎみよい音をたてて蓋がとれる。シュワシュワと音をたてて紙コップにコーラが注がれる。
「まぁまぁ座りたまえ。」
三奈木さんの声を聞いて三人は用意されたパイプ椅子に腰を掛ける。三奈木さんの目配せを合図に僕はコップに注がれたコーラを三人に配る。
「それで我がオカルト研究会にどういった用件なのかね?」
先程まで「あいつら来るかなぁ…」とそわそわしていたとは思えないほど三奈木さんは不敵な笑みを浮かべている。
きっとこれをしゃべったら三奈木さんは顔を真っ赤にして怒るからこのことは二人の秘密にしておこう。
「単刀直入にいうぞ、小林から聞いたんだがあんたらも手品師を探しているんだろう?」
きりだしたのは神谷君、その隣の小林君もうなずいている。
「だとしたらどうするのだね?」
三奈木さんはイキイキとしている。僕と二人で入部希望者が来たときように練習していたセリフを使う三奈木さんを見ていると、これまでの面白おかしい日々が脳裏を過る。
「トンネルの絵を消したのはお前らか?」
神谷君が訊ねる。
「いいや、違う。」
「だが誰がどのようにしてやっているかは知っている!」
三奈木さんが楽しそうで僕は嬉しいよ。
「そいつはお前らの仲間なんか…?」
小林君が訊ねる。
「いや、違う。私達も彼を追っている。」
「そして方法はお前たちも持っているものを使って行っていると推測される。」
そうゆうと三奈木さんは待ちかねたと言わんばかりに胸ポケットから白いカードを取り出す。
それを見た三人は席をたち硬直する。どうやら三奈木さんの推理は当たっていたらしい。
「…なんで三奈木ちゃんも持っとるんや?」
小林君は思わず口にする。
「…私もということは君達も持っているんだろう、この不思議なカードを!」
興奮してか三奈木さんも勢いよく椅子から立ち上がり後ろの机に隠していた少年誌を落とす。
三人は落ちた少年誌には目もくれず三奈木さんのカードを見ていた。
「私はオカルト研究会会長だ。こんな美味しいネタを逃すわけがなかろう?」
僕は一週間位前の昼休みのことを思い出す。
「あやしい!」
「はい、そうっすね。」
「あやしいのだ春日原!!」
大声で怒鳴っている三奈木さんはいつもより興奮状態であった。
「あの真面目な委員長が家出なんて何かおかしいぞ春日原。」
「ええ、匂うっすね三奈木さん。」
僕は適当に相づちをうちながら購買部で買ったカレーパンを頬張る。
「私がカードを受け取ってからおかしな事件が増えている、そう思わないか春日原?」
「はい、そう思うっすよ三奈木さん。」
「これはオカルト研究会会長として血が騒ぐ、血が騒ぐぞ!!」
最近の三奈木さんは突然見知らぬ男にもらったというカードにご執心だ。それもそのはずなんでもものが入れられる不思議なカードなのだ。
「聞け、春日原。」
「はい、三奈木さん。」
「会長と呼べ!」
「はい、会長。」
満足したように三奈木さんはこほんとせきをつくと語り出す。
「今回の委員長の家出についてだが不可解な点が三つある。」
「さて、なんっすかね?」
「まず何事もなく委員長は帰ってきたが様子がおかしい。」
「おかしいとはどうゆうことっすか?」
「前より明るくなっているのだ!」
「…そうっすかね、僕にはさっぱりっす。やっぱり女の勘でわかっちゃうんっすかね?」
「私は男だと言っているだろう戯け!」
こうやって三奈木さんを時々からかうのが僕の楽しみだ。
「ともかく一つに委員長は明るくなった。続いて二つ目に委員長が消える前日、不審な行動をしていた小林だ。」
「確かに見掛けたっすね、気付いたの僕っすけど。」
手をあげる僕をよそに三奈木さんは話続ける。
「いつも神谷と帰る小林が!委員長が消える直前にあやしい行動をとる!これは何か関連性があるはずだ!」
「最後の決めては今日の帰り神谷、小林、委員長の三人が仲良く帰るのを目撃したのだ!」
「三奈木さん後つけてたんっすか?」
「勿論だ!」
そうゆう三奈木さんは誇らしげだった。
「いままで話すこともなかった委員長とあの二人が三人仲良くだ!何かないはずがない。」
「色恋沙汰っすかねぇ。」
「それも否定は出来ない。確かに小林は委員長にホの字だという噂は耳にしている。しかしそれならば前日の挙動不審な行動はなんだ?告白して失敗したとしては今三人が親しいのは不自然だし逆に成功だとしても神谷も一緒に仲良しになる説明にはならない。」
「…はぁ、そんなもんっすかね。」
「しかし幸運な事にこの状況を説明出来るものを我々は持っている。」
「なんすっか?」
「このカードだ。」
「…なんでそうなるんっすか?」
「私の仮説ではカードが複数名この学校の生徒に配られているのではないかと考えている。」
「どうしてっすか?」
「カードをくれたあの男の意図はわからない。しかし一枚しかないものを私に渡すとは思えないのだ。」
「三奈木さんが選ばれし勇者だったんじゃないっすか?」
「ば、バカなことを言うな。」
三奈木さんは嬉しそうである。
「ともかく少なくとも何人か同じ様にカードを持つものがいてもおかしくないということだ。」
「地球人がいるから宇宙人もいるはずって感じの理論っすね。」
「そして配るからには何かしら目的があって、それに従って配られてしかるべきだと思う。」
「なら規則性があるってことっすね?」
「そう、そこで私は客観的に私を評価した。」
「ほうほう、それでどうなったんすか?」
「私はトランスジェンダーであること、オカルトへの関心が高いこと以外は普通の学生だ。」
世間ではそれは普通とは言わないんですよ三奈木さん。
「ならば学生に配られるのが自然ではないかと考えている。」
三奈木さんはよく物事を考えているようで時々暴論に走る。オカルトマニアとしての性なのだろうか。
「とにかく学生をターゲットにしていると考えるのが自然なのだ。あの謎の男が神なのか、それとも未来からきた科学者なのかはわからない。」
「あの男は私にカードを上手く使えと言った。だから上手く使う方法を私は思案した。」
「強盗、誘拐そして殺人、あらゆる完全犯罪が可能だ。勿論人助けにもなるしこの技術が解明されれば世界の物理学史はひっくり返ることになる。」
「…。」
僕は無言で三奈木さんの考えを聞く。
「私は小林が委員長を誘拐したのではないかと考えている。」
「それは横暴な推理だと思うんっすけど。」
「このカードは生き物でも収容できる。実際に私達は実験してみたろう?そしてカードを手に入れて好きな異性に近付くために使用するのは自然な流れだ。」
三奈木さんは想像力が豊かだ。
「そうなんすか?」
「そして誘拐後、委員長を解放する理由を考えた。そこで委員長もカードを持っていたという事が考えられる。」
「カードを持っているなら奪えばいいんじゃないですか?」
「そこの理由はわからないが何らかの事情で恐らく協力関係になったのだろう。」
三奈木さんの考えは根拠に基づかないただの想像だ。だけど不思議と説得力がある。
「どういった理由でそうなっているかはわからないが小林と委員長は協力関係になっているはずだ、恐らく神谷もそうだろう。ともかく今まで話してもない彼等が突然仲良くなるのは何かあったに違いないのだ。」
三奈木さんの想像は三奈木さんがそうであってほしいという妄想から来ている。三奈木さんにとって本当にあっているかどうかは問題ではないのだ。
「何らかの要因であの三人は協力関係になった、もしカードが絡んだ上でそうなったのだとしたら私は彼等と手を組めるのではと考えている。」
「私は彼等を我が部へ招待しようと思う!」
「…!?」
…あーあ、こう言い出したら三奈木さんは止まらない。
三奈木さんはやるといったらとことんやるのだ。
「そこでだ春日原、彼等を招待するにあたってまずかまをかけて情報を引き出す。」
「そして私の望む情報が出たとき、これは極めて低い可能性だが戦闘になるかもしれない。」
物騒なことを言うなぁ…。
「相手は最大で三人、我々はお前も含めて二人、まず数的に不利だ。」
「だが舞台は我らのホーム、この部室だ。」
「我らのホームに招く以上、誰がトップか教えてやらねばならん。」
三奈木さんはそういって作戦を話す。悪巧みをするときの三奈木さんはいつになく輝いている。
僕は三奈木さんのそうゆうところが好きだ。
僕が回想にふけこんでいると神谷君が声をだす。
「…お前、そのカードに何を入れてるんだ?」
三奈木さんは嬉しそうにカードを掲げる。
「これか?」
「使う予定はないのだが…、君達と戦闘になったときのための下準備だ。」
来客達はその言葉に身構える。三奈木さんももっと穏便に話せばいいのに、ノリノリだ。
三奈木さんのカードに入っているのは炎。
赤々と燃える炎だ。
まるで三奈木さんの情熱をそのまま映したかのようだ。
「面白いだろうこのカードは。」
三奈木さんは淡々としゃべる。
「…火とは物質が燃焼を伴っておこる現象、その現象すらも保存できる。」
神谷くんが冷や汗をかいている。
「君達はまだコーラに口をつけてなかったな。」
三奈木さんは嬉しそうに語る。
「君達が入って来た時点でこの部屋は締め切らせてもらった。」
小林君がごくりと唾を飲む。
「私がコーラをいれる際、春日原にはこの部屋に水素を撒いてもらった。去年の文化祭で使ったやつの余りだ、この量なら人体には無害だから安心するといい。」
そう、先程は話していなかったが三奈木さんがコーラを開ける傍ら僕は彼等の死角に隠してあった水素のタンクを捻っていた。
この音をタイミングよく合わせる練習のため僕がコーラを2ダース程買ったのは彼等には秘密だ。
「何が目的だ?」
神谷くんが問い掛ける。
「私の目的はこのカードの謎を解くことだ。」
三奈木さんが答える。
「なぜこのカードが私達に配られたのか、このカードを配るものの真意は何か?私はそれを解き明かしたい!」
「そこで私は君達を見つけた、君達もカードを持っているんだろう?」
そう言われると三人の来客はそれぞれ自分の胸ポケットを見る。考えることは皆同じようだ。「このカードを複数名が持っているとしたらどうなると思う?」
三奈木さんが問い掛ける。
「答えは簡単、奪い合いが起きる。」
その答えに神谷君はカードを取りだし構える。残りの二人も警戒を強める。
「だが私は別にこのカードが欲しいわけではない。」
三奈木さんが優しく語る。
「ただ何か知りたいだけだ。」
完全に三奈木さんのペースだ。
「しかし同じカード保持者が現れたとき、なんでも入れられるこの魔法のカードを巡って奪い合いになる可能性は高い。 そうなったときのために利害の一致する協力者が必要だ。」
「つまりどうゆうことや?」
長い三奈木さんの語りに小林君が痺れを切らす。
「私と手を組もうではないか。」
「もっと分かりやすく言おう。お互いに隠し事なく情報提供しようではないか!」
その言葉に委員長は眉を潜める。三奈木さんの読み通り何かあるらしい。
「…断るといったら?」
神谷君が声をだす。
「これで燃やす。」
三奈木さんは淡々と答える。
「この炎は空き地で大量の段ボールと灯油を用意して作ったものだ、この場に解き放てば一瞬で火の海だろう。」
「勿論君達も持っているカードを使って炎をカードに戻すことも出来るだろう、しかしこの部屋には水素が撒いてある。科学の授業でやったろう?水素は燃えるんだよ!」
三奈木先生の科学の授業は続く。
「燃え広がる炎をカードに入れるのは難しい、何故ならカードにものをいれる際はある程度使用者が入れるものを認識しなければないからだ。」
「…おいおい、それじゃあワイら共倒れやないか!」
「私と春日原はこのコーラを浴びて炎をさけ、君達に引火し燃え広がったところでカードに炎を戻す。」
小林君はきょとんとしている。
「そうすることで君達は火傷の重症を負い私達二人を相手することになる。」
「これなら数的不利を気にせず戦えるというものだ!」
一週間かけた作戦を豪語出来て三奈木さんは得意気である。
三奈木さんの予定では話を聞き終えて三人の来客は震えおののき降伏するはずだった。
しかし一人明らかに三奈木さんの想定と異なる様子の男がいる。神谷君だ。
「よくわかったよ、三奈木。あんたの作戦は良く出来ている。」
彼はそうゆうと構えていたカードを上に掲げる。
「それなら先にあんたらの撒いた水素とやらを取り除かないとな。」
彼の掲げたカードの周りに渦が見えるかのような錯覚を覚える。真っ白なカードであったカードに心なしか靄のような絵柄が表れる。
「…なん…だと!?」
完全にやられ役の反応ですよ三奈木さん。
「これであんたらの撒いた水素は俺のカードの中だ。炎が部屋中に燃え広がることはない。」
「いざ炎が撒かれてもこっちは小林のカードで対処できる。これで問題ないな。」
「さすが神谷やで!」
小林君が便乗する。さっきまで三奈木さんのペースだったのに一瞬で覆されてしまった。
「…ぐぬぬ。私の計画がこんなにも容易く覆されるだと!?」
そうゆう捨て台詞のレパートリーは多いんですよね三奈木さん。僕はとっても面白いです。
「…こ、こうなったら強行手段だ!!」
…そろそろかな。
「なんだかんだ言ってますけど、とどのつまり部員勧誘なんっすよね。」
今まで黙っていた僕が喋りだすと三人はこちらを振り向ききょとんとする。
三奈木さんは顔を真っ赤にする。
「春日原!!折角かっこよく決めていたのになんだその言いぐさは!!」
「だって話が長いっすもん。」
「お前なぁー!!俺の格好いいところを見せつけて新入部員を獲得する作戦が、まるで友達欲しさに駄々をこねる子供のようではないか!」
さすが三奈木さん、ご自分のことをよくわかってらっしゃいますね。
「ともかくです、皆さん。うちのかわいい会長のために協力してもらえませんか?」
「春日原!!」
さっきまで机の前にいたのにいつの間にか僕の前に現れ、顔を真っ赤にしてぽこぽこ殴ってくる三奈木さん、威厳もくそもないですよ。
この様子に警戒がとけたのか三人も苦笑い。
「まぁそうゆう訳なんで僕達は仲間が欲しいだけなんっすよ、三奈木さんは全ての情報共有っていってましたけど皆さんにも都合の悪い隠し事があるとみたっす。そこで全部とは言わないんでこの場をお互いに情報共有の場として使っていけばいいんじゃないかって思うんすよ。」
「僕達もこのカードの真相が知りたいんっす。でも深追いはしないっす。出せる情報だけだして、それと時々この部屋でお茶会でもしながら雑談する、それで十分っす。」
「とりあえず仲良くやりましょうっす。」
僕が話終えると今まで静かだった静海さんが声をだす。
「私も、このカードがなんなのか知りたいんです。」
やっぱり最後までカードを見せてないこの人に裏があるみたいっすね。
「是非協力しましょう!三奈木さん、春日原君!」
「ワイは委員長がいいならなんでもええんやで!」
「そうゆうことなら俺達は問題ない。」
委員長の声に小林君、神谷君と続く。
「お、おまえらぁ…。」
涙目になりかけながら三奈木さんは声をだす。
ここですかさず僕は用意していた紙とペンを取り出す。
「じゃあこの書類に署名をお願いします!」
「これは?」
「我らの学芸部への入部届けっす。」
「この場を利用するなら部員になった方が自然だと思うっすよ。うちは学芸部ですが三奈木さんが堂々とオカルト研究会の看板をたてるもので人が寄り付かず、時々来る物好きも三奈木さんと口論して追い返しちゃって廃部の危機なんっす。どうか人助けと思って名前だけでいいんでうちに所属しててほしいっす。」
三人は顔を見合せる。
「そうゆうことならしゃあないで、いっちょ書いてやるで!」
小林君を筆頭に三人ともサインをいただけました。
皆さん乗り気になってくれたみたいで嬉しいです。
一方三奈木さんは部屋の隅っこで拗ねているご様子。
「…春日原の分際で美味しいとこだけ持っていきやがって!!」
こちらを睨み付けてくる三奈木さんに僕は呟く。
「最初から話をこじらせずに言えばよかったんすよ、お友達になろうって。」
話は一段落して三人が入部届けを書き終えたころ神谷君が口を開く。
「ところで落書きを消したやつを知っていると言っていたよな?」
「あぁそうだが。」
機嫌がなおったのか三奈木さんが答える。
「いったい誰なんや?」
食いぎみに訊ねる小林君にふんと笑いながら三奈木さんが答える。
「今回の件はカードを手にいれたものの仕業だ。」
三奈木さんは自慢げに話し出す。
「やつの名前は石田一俊、本校の三年生で学年トップの男、警察官志望で正義感が強い。」
三奈木さんは再び不敵な笑みを見せる。
「強いて呼ぶならこう名付けよう!ボランティアマンだ!!」




