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◆第五章:静海 望

挿絵(By みてみん)

 …知らない天井。

 …私は何をしていたんだっけ?


「本当に申し訳ない!!」


 この声には聞き覚えがある。

 クラスメイトの小林君だ。


 気がつくと私は知らない部屋にいて目の前には二人、どちらも見覚えがある。



「本当に申し訳ない!!」



 土下座しながら大きな声で謝罪を繰り返しているのは小林君。


「…突然謝ってもなにがなにかわからないだろ。」


 隣でそう話すのは神谷君、中学の時同じクラスだったな。

 神谷くんは目のやり場に困っているようにそっぽを向きながら私に毛布をつきだしている。

「悪いな委員長、とりあえずこれ着けてくれ。」


 …どうゆうことだろう?私は何をしていたんだっけ?

 確か私は放課後に教室に残っていて、小林君に会ってそれから…。


 体に違和感を覚える。


 あれ、なんだか肌寒い…。


 その時ようやく何故小林君が土下座を続け、神谷君がそっぽを向いているのか理解した。



 私は今裸なんだ。



「…っ!?」



 恥ずかしさとよくわからない現状への恐怖で声にならない声が出る。

 慌てて神谷君から毛布を受け取り身にまとう。

 …なんだかわからないけど泣きそうだよ。

 毛布にくるまりその場で縮こまった。

 ちょっと体が震えてる。

 気が付くと涙が頬を垂れていた。


「まず事情を説明させてくれ。」


 私が落ち着いたのに気付くと神谷君が話し出す。

「委員長は昨日のことどこまで覚えている?」

 まとまらない頭に新しい疑問。

 …昨日?

「…今日は何日なの?」

 私は質問する。

「…五月二十四日だけど?」

 神谷君が答えてくれる。

 …あれ、二十三日じゃなかったっけ?

「…もしかして今日までの記憶がないのか?」

「…うん。」

「今覚えていることを教えてもらえるか?」

 …一つ一つ思い出す。

「…私は静海望。高校二年生で二人と同じクラスよ。放課後に本を読んでいて、帰ろうとしたら小林君に会って、それから…。」


「本当に申し訳ない!!」


 小林君は相変わらず震えながら土下座している。


「委員長、まず質問したい。」


 困惑する私に神谷君が問い掛けてくる。

「これが何かわかるか?」

 神谷君は胸ポケットから白いカードを取り出す。

 私はそれを知っている。


 …でもおかしい、私のじゃない。


「アミュレットはどこ!?」


 私は神谷君に問い掛ける。

「…アミュレット?」

「…私の猫よ。」

「…大丈夫、委員長のカードはこっちだ。」

 神谷君はもう一枚のカードを取り出す。そこにはさっきのカードと違ってアミュレットが描かれている。

 私はそのカードを見て安堵した。

 でもそれと同時に疑問が浮かぶ。

「神谷君もカードを持っていたの?」

「俺だけじゃない…、小林もだ。」

 そう言われて初めて土下座している小林君が白いカードを握りしめていることに気付いた。


「…委員長、訳がわからないのだろうけど落ち着いて聞いてほしい。」


 神谷君が改めてきりだす。

「昨日の放課後、委員長は小林にカードの中に閉じ込められた。」

 …今凄く大事なことを聞いた気がする。

「委員長は気付いてないかもしないが学校では委員長が行方不明になって親御さんも心配している。」

 なんか凄いことになってきたなぁ。

「小林のことを弁解する気はない、俺からも言わせてくれ、悪かった。」

「…とりあえずここはどこ?」

「俺の家の俺の部屋だ。」

 男の子の部屋に上がるのは小学生ぶりだなぁ。




 それからことの顛末を神谷君から聞いた。

 小林くんが私のことを好きだったみたいでカードを使って気を引こうとしていたみたい。

 でも私と上手く話せなかった彼は勢いのままに私をカードに入れてしまった。

 目の前にいた人が突然消え、残った制服を見て怖くなった彼はその場に立ち竦む。

 そして私の制服の胸ポケットに自分の持っているカードと同じものがあることに気が付いたらしいの。それがアミュレットの入っているカードだったみたい。

「それを見て余計に怖くなった小林は委員長の荷物をまとめて隠して今日に至るんだ。」

 神谷君がいなかったら私はどうなっていたのかな、考えるのはよそう…。

「小林のしたことは許されることではないと思う。」


「ほんまに…、すまんかった…。」


 小林君は今もずっと土下座を続けている。

 涙と嗚咽混じりの謝罪が静かな部屋にこだまする。

「許してやってくれとは言わない。」

 神谷君は冷たく話す。

「でもこいつも悪気があったわけじゃないんだ、この通り反省しているし見逃して欲しい。」


 そうゆうと神谷君も小林君の隣で土下座し始めた。


 …やっぱり神谷君は優しいいんだな。中学の時からかわってないんだなぁ。



「ただ確認しなきゃならないことがある。」


 そうゆうと神谷君は顔をあげる。

「…これはなんなんだ?」

 神谷君はアミュレットの入ったカードを見せる。



「…生きているのか?」



 …あー、見ちゃったんだ。

「…その様子だと見ちゃったんだね。」

「お前の荷物を隠す際、小林がこれも見つけている。」

 後ろにあった小袋を取り出し私に向ける。

 全部ばれちゃったのか…、やっぱり神谷君も悪いこだ。


「いけないんだぁ…、人の私物を覗いちゃぁ…。」


 私って意外と心に余裕があるのかな。


「答えてくれ委員長。」


 神谷君は小袋の中身をこちらに向ける。




「…どうしてお前は骨のない猫と猫の骨を持ち歩いている?」




「…ふふ。」

 何故か笑い声が聞こえる。

 誰の声だろう?

「ふふふ。」

 涙が頬を伝う。


 笑っているのは私だった。


「…やっと話せる人に会えたんだ。」




 私が小学六年生の頃、捨て猫に出会った。

 薄い黒色で段ボールの中で踞る、彼女は鳴きもせず静かに私を見ていた。

 彼女と目があったとき小さい時に飼っていたハムスターのチュウスケを思い出した。

 チュウスケが死んだときのあの寂しさが私の胸を埋めた。

 親には反対されたけどその時の私はめげなかった。

 彼女の入った小さな段ボールを神社の裏に隠し、半年間おこずかいを貯めて安い首輪を買った。

 餌は家の冷蔵庫から少しずつ持ち出した。あのときはバレてないつもりだったけどきっと親も気付いていたんだろうな。

 それから彼女をアミュレットと名付けた。

 今にも死にそうだった彼女が私を守ってくれる…、そんな気がしたからだ。

 中学になって改めてアミュレットを飼いたいと相談すると二年越しのお願いは実を結び、晴れてアミュレットは私の家族になった。

 私は嬉しかった。兄弟のいない私に妹が出来たみたいだ。

 私は嬉しかった。アミュレットと一緒に過ごした。

 チュウスケの時と同じでいつかお別れするときが来るんだろうけど今アミュレットと一緒にいれる、それだけで十分だった。



 私がカードを手にしたのは丁度一週間前、突然不審者に声をかけられたのに声を出すことも逃げ出すことも出来なかった。

 突然カードを手渡され突然その人は消えていた。

 私はどうすることも出来ずに家に帰った。

 家に帰るといつも散歩から帰っているはずのアミュレットがいない。


 胸騒ぎがした。


 私はアミュレットを探した。沢山探した。

 一時間探し回って見覚えのある神社の裏にアミュレットを見つけた。

 アミュレットは倒れて動かない、隣に白い何かが並べてあった。近づいて初めてそれが動物の骨であることがわかった。


「にゃぁ…。」


 アミュレットがないている。私が近づいたことに気付きピクピクと動く。

 しかし立ち上がれないようだ。

 アミュレットに触れて初めて異変に気がついた。

 アミュレットの骨がない…。


「…どう…して?」


 目の前にある惨状に私は膝をついて恐怖した。訳のわからない恐怖の中であの男の言葉を思い出す。



「上手く使ってください。」



 私は無意識のうちにカードをアミュレットに近づけた。

 するとアミュレットは消え、カードの中にアミュレットがうつる。

 アミュレットは笑っていた。

 全部の猫の表情がわかるわけじゃないけど確かにそう感じた。


「…私が守らなきゃ。」




「私はアミュレットがこうなってしまったのはこのカードが原因だと思っているの。」

「根拠は?」

「実験したの。」

 神谷君は眉を潜め、小林君も顔をひきつらせる。

「勿論スーパーで売っているお魚でよ。」

「カードは望んだものを取り込むことが出来るの…、魚の骨以外を望めば骨を残してそれ以外を取り込める。」

「これをした犯人、考えられるのはカードを渡してきたあの人、それかあなたたちのようにカードを持っている人。」

「だからあの人を探してアミュレットをもとに戻す方法を聞き出したいの。」

「でもこんなこと誰にも言えなかった、どんなに本で調べてもネットをみても何もわからなかった。」

「そんな中で私はあなたたちに会えた。」

「私がアミュレットみたいにカードに入れられていたのは驚いたし、とっても怖かった。正直にいって二人のことはまだ怖いわ。でも今回のことなかったことにする、その代わりにお願いがあるの。」


「アミュレットを助ける方法を見付けて欲しいの!」


「神谷君と小林君、…お願いよ、アミュレットを助けて…。」


 私はまた泣いていた、意外と泣き虫なんだなぁ…。



「…この男小林!!委員長の為に我が一生を捧げます!!」


 泣きながら大声をあらげる、小林くん。

「…俺も気になっていたんだ、このカードについて。」

 静かに喋りだす神谷君。

「つまり俺達は目的が同じって訳だ。」

 …神谷君の方が格好いいな。

「協力しよう、三人で謎を解くんだ。」


「おぉー!!!!男小林、委員長の為に命に掛けて働くでぇ!!!!」


 こうして私に新しい友達が出来た。



 でもそれよりも大事なことがある。

「…とりあえずさ。」

「なんでしょうか、委員長の為ならなんでもいたします!!」

 さっしがわるいなぁ…。


「…服着替えたいから服返してもらえる?」


 私が顔を赤くして話すと私の荷物をおいて二人は凄いはやさで部屋を出ていった。二人とも顔を真っ赤にしていた。


「…ふふ。」

 私はまた笑った。

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