◆第四章:神谷 優輝 その二
この俺、神谷優輝には友達がいる。
小林俊典、同じクラスの同級生だ。
実家が神主とかで将来神事に勤めるから今は遊ぶのだとかいうふざけたやつだ。
お人好しでこうるさい彼は関西人でもないのに関西弁をしゃべり、クラスのムードメーカー的な存在だ。
俺とつるむのは帰り道が同じだから、帰りにコンビニによって立ち読みしたり、休みの日にはカラオケに誘ってきたりする。
そんな彼は今クラスの委員長、静海望に恋している。
彼の明るいキャラクターなら積極的に話にいきそうなのに自分から話しかけられない、妙なところで情けないやつだ。
そんな彼の様子がおかしい。
今日は朝から妙にそわそわしている。付き合いが長いからか何となくわかる。
朝のホームルームの際、その原因が判明する。
いつもなら埋まっているはずの俺の斜め前の席が空席だった。
「静海が行方不明になったらしいがみんな何か知らないかしら?」
この教室の顧問、戸畑の声が静かな教室に響く。
それを皮切りにざわざわと生徒がざわつく。
「昨日から家にも帰ってないそうなんだ、何か知っているやつがいたら教えてくれ。」
意中の人間が行方不明、なるほど小林の動揺には納得がいく。
しかし小林と付き合いの長い俺だけが気付けたことがある。
委員長が行方不明だと宣言される前から彼は動揺していた。
これは日々好き好んでもなく彼のエセ関西弁を帰宅中に聞き続けたお陰なのだろう。
考えてみれば昨日の帰りからおかしかった。
「わりぃ、今日は先公に呼ばれたから先帰っててくれぇや。」
そう言われたのは昨日の夕方、下校時間の際だ。
本校の数少ない帰宅部である俺達は常に一緒に帰っていた。
確かに小林は先生に呼び出されるようなことをいくつもしてそうなやつだが今までそんな話を聞いたことはない。根は真面目なやつなのだ。
だが昨日の俺はそんなこと気にすることもなくさっさと帰ってしまった。
俺は俺で抜き差しならない状態にあったんだ。
それは昨日の昨日、つまり一昨日に出会った怪しい男、そいつからもらったカードが原因だ。
誰にも言わず胸ポケットに隠したカード、これには不思議な力がある。
なんでもカードの中に入れて持ち運べるのだ。
俺は新しい玩具を手に入れた子供のようにこの力を試したくなっていた。
重いものでも入るのか、生物でも大丈夫か、家で実験した。
結果だけ言えば車だってしまえるし重さも感じない。カードにいれた蛙は出してからも元気よく跳ねていた。
問題は昨日の夕方、カードに夢中で親友の異変に気が付けずにいたことだ。
うつむいた様子で授業を受けている彼に何があったか知らないということだ。
時は経ち昼休み、俺と小林は学校の中庭で昼食をとる。
広い中庭だが人気は少ない。わざわざ日差しを浴びながら昼食をとるもの好きは少ないらしい。
委員長が行方不明になっても授業は普通に進み普通に終わった。
隣にいる小林がいつもと違って大人しいことを除けばいつも通りの日々だ。
「何かあったのか?」
色々かける言葉を探したがいいのがなかった。とりあえず声をかけることにした。
「…何かってなんや?」
白々しい対応、これは黒だな。
「委員長が行方不明になって落ち込んでいるみたいだからよ。」
「…まぁ…好きなこに何かあったら落ち込むもんとちゃうん?」
なるほど、俺以外のやつにそういったのならそれで終わりだろう。だが俺は騙されないぞ。
「昨日から様子がおかしかったからよ。」
「…き、昨日は…、あれや、先公と話しててなぁー。」
明らかな動揺、これはもう確信である。
「何か隠しているだろ。」
「…なんかってなんや?」
どうやって揺さぶったものか…、こうゆうのは得意じゃない。
「俺達は親友だよな。」
「…そりゃそうや。」
「なら隠し事はなしにしようぜ。」
「何にも隠すことなんかあらへんでぇ…。」
強情なやつだ。どうしたものか。
…そうだ、今俺には切り札がある。
「なら俺の秘密を教えるよ。」
「…は?」
俺は胸ポケットに隠していたカードを取り出す。
これで手品でも見せれば気が紛れるだろう。
どちらかというとこの新しいおもちゃを親友に見せびらかしたかったのかもしれない。
そう思った矢先、小林はすッ転げた。
「な、なんでや…。」
「なんでお前も持っとるんや!?」
…お前も?
どうゆうことだ?
なんでこのカードのことを小林が知っているんだ?
明らかに形相を変え、小林に落ち着きがない。
呼吸も荒くなり狼狽している。
「これが何かわかるのか?」
「あぁ知っとるで、一昨日もらったんや!」
俺と同じだ!小林もカードをもらっていたのか!
俺は食いぎみにいった。
「なら見せてくれよ。」
この言葉が核心をついたようだ。
「…ええで、お前も同じゆぅんならみせちゃるわ。」
小林も胸ポケットからカードを取り出そうと構える。
「けどな、親友として頼みがあるんや。」
「なんだよ改まって。」
小林は黙る、そして震えながら口を開く。
「助けてくれや…。」
彼は俺の持っているカードと恐らく同じと思われるカードを二枚とりだした。
ただ俺のカードと異なりカードの余白に絵が埋まっていた。
それぞれ裸の少女と猫が描かれていたのだ。
それと同時に気づく、裸の少女が彼の意中の相手、委員長こと静海望であることに。