◆第三章:三奈木 凛子
俺は三奈木、学芸部部長にしてオカルト研究会会長だ。
「三奈木さんどうしたんっすか?」
隣にいるのが助手の春日原、同じく学芸部部員にしてオカルト研究会副会長だ。
身長が175㎝で俺より20㎝背が高い。
顔立ちは普通だが睫毛の上につけた絆創膏がやけに目立つ、そんなやつだ。
「また考え事っすか?」
そして俺より少しばかり成績がいいのが癪だがいいやつではある。
「…何でもないさ、あの時のことを考えていてな。」
部室の窓から外を眺めながら俺は答える。
文芸部の部室は他の部室に比べて狭いが部員二人でいる分には持て余す広さだった。
図書室で借りた本を机に山積みし気分転換として外をみたのだ。
ピー!
「すごいぞ!あの新人!もう三点目だ!」
「きゃー、風見君素敵!!」
「ちょーすごいー!!」
外からはサッカー部の声と声援が聞こえる。
俺はちっとも興味がわかないが楽しそうだ。
「あの不思議な男の話っすね。」
春日原は相変わらず妙に察しのいいやつだ。
「いつもその話ばっかりじゃないっすか。」
心が読めるのか、お前は。
「とにかくこのカードの謎を解き明かさなければ私の気は晴れないのだ!」
「はいはい、わかってるっす。」
春日原の雑な回答に俺は少しむかっとした。
「そんなに悠長にしていたら見つかるものも見つからないだろう!」
ことの発端は一週間前、俺が帰宅している時だ。怪しい男に声をかけられカードを手渡されたことから始まった。
手品師を名乗る怪しい男は俺に手品を見せ、カードを渡してきた。そのカードがこの世のものとは思えない品物だったのだ。
「十九世紀の黒魔術、錬金術、日本に遡って神道まで調べたがヒントになりそうなものはこれっぽっちもなかった!!」
「まぁまぁそんなに激昂しないでくださいよ、折角可愛いのに勿体無いっすよ。」
「ふざけるな春日原、俺を女扱いするんじゃない!」
「そうやって怒るとこも可愛いっすよ。」
いちいちムカつく男だ、蹴り飛ばしてやろうか。
「それにしても不思議なカードっすよね、それ。」
俺の怒りを察してか話を反らす、こうゆうやつが社会に出たら成功するのだろう。いちいち癪にさわる男だ。
「触れたものをカードの中に閉じ込め、また別の場所で取り出すことが出来る。パソコンの切り取りと貼り付けを現実でやってるみたいっすよね。」
そういって俺の左手からカードをとり、手にもっていた本に近付ける。すると、わかってわいたことだが、カードの中に本が吸い込まれる。
「遊びに使うんじゃない、大切な資料なんだぞ。」
俺は春日原を怒鳴り付ける。
「確かに三奈木さんが図書室で借りた大事な資料っすね。」
そういうと彼の手に再び本が現れる。
「そっちじゃない!カードのほうだ!」
「ごめんなさいっす、つい面白くて。」
いそいそと俺にカードを手渡す。根は素直なやつなのだ。
「このカードの秘密の解明こそ、我がオカルト研究会の悲願なのだ。大事に扱え!」
俺はカードを胸ポケットにしまう。
「部員が二人しかいない学芸部を間借りしているからには成果を出さないといけないっすからね。」
笑ってそう答える春日原、何が可笑しいというのだ。
「やっぱり三奈木さんの会ったっていう怪しい男を探るしかないっすよ、本人に直接聞かないとっす。」
「それがわかれば苦労はしないのだ。」
「目撃情報を聞き込みするしかないっすよ。三奈木さんは可愛いからみんな質問には答えてくれると思うっすよ。」
「いちいち可愛いとか抜かすな春日原!真剣にやれ!」
「僕はいつでも真剣っすよ。」
…この野郎、怒りを通り越して落ち着いてきたぞ。
「…確かに聞き込みも大事だが落ち着くのだ春日原、仮にあの男がカードを配っているとして俺だけに渡されたとは考えられない。」
俺が話しているときは大人しく聞いてくれるのが春日原のいいところだ。
「もし仮に何人かに配っていたとするなら警戒しなければならないのだ。」
「何でっすか?不審者に声をかけられたもの同士協力すればいいじゃないっすか?」
こいつはいつも質問してくるが大方俺の答えに気付いている、気付いた上で質問をしてくるいやらしいやつだ。
「必ず協力出来るとは限らないだろう。このカードはなんでも入れておける。我々が実験した限り無生物と生物、液体気体固体、大きさや重さを問わずだ。明らかに人知を越えている。」
俺がカードを手に入れて春日原と実験を繰り返した。部室にあるものから家にあったものまでありとあらゆるものをとりいれることに成功した。勿論動物、…人間も含めてだ。
「こんなものを他に持っているやつが現れたら奪い合いになるのは必然だ。」
「確かにヤバいものだってことは確かっすよね。」
「こんなものが世間の目に触れれば世の物理学者は仰天するだろう。」
「でも三奈木さんはマスコミにながさないんっすよね。」
「当然だ、こんな出元のわからないものを世に出せるか。何よりマスコミは信頼できない。」
「まぁ三奈木さんがそうしたいってならいいんすよ、二人だけの秘密っすね。」
相変わらず飲み込みが早いが俺をムカつかせるのが得意なやつだ。
「いいか、改めていっておくぞ春日原。」
「なんっすか?」
「俺はな、なりは女だが心は男だ!出来ることならすぐにでも性転換したいのだ!だからな、可愛いだのなんだのはごめんなのだ!」
そう俺は男、男なのだ。この見た目のせいで数々の誤解を生んできているが男として生きたいのだ。
「そんな三奈木さんを僕は好きっすよ。」
こいつと言う男は…。
「見た目につられやがってこの糞野郎が!」
「三奈木さんが男だって言うなら僕はホモっすよ。」
「そうゆう話じゃない!!」
端から見たら私達はカップルなのだろうか…、私にとってはどうでもいいことだ。
ただ目の前に大きな謎があって理解者と共に研究に望める、今の状況を楽しんでいる。
これからこのカードの謎が何を呼ぶか私は知らないが今をちゃんと楽しめていることは明らかなのだ。
「あ、あれは三奈木さんのクラスの小林じゃないっすか?」
部室の窓から春日原が見つける。
「あぁ本当だ、確かあいつ今日は珍しく図書室にいたな。ろくに本も読まずに帰っていったと思ったが。」
「なんか慌てているっすね。」
「いつも同じクラスの神谷と帰っているから置いていかれたんじゃねえの?」
「…そうかもっすね。」
慌てて帰る小林、まさかあいつと関わることになるとは今の俺は微塵にも思わなかった。
それほどに窓の外の世界がテレビの向こうのような遠い場所のように感じていた。