◆第三十一章:神谷 優輝 その三
俺が駆けつけた時に委員長は倒れていた。
そして手錠の女も離れて立ちすくんでいた。
何かが委員長を守っている。
薄汚れたオレンジ色の塊……。
……アミュレットだ。
「静海!!」
思わず委員長を呼ぶ。
俺が駆けつけると手錠の女も倒れて泣き崩れる。
「……先生はどこ?」
この手錠の女のことは知らなかった。
けどその一言で彼女の正体は掴めた。
みんなから預かったカードからそれを取り出す。
うちの担任の戸畑先生だ。
「……小町ちゃん?」
この船に乗る前、委員長は戸畑先生に襲われた。
けれど小林の機転でなんとか危機を回避し、小林の入っていたカードで逆に戸畑先生を捕まえた。
その後、俺達は戸畑先生をどうするか話し合った。
とりあえず部室で戸畑先生を戻し、事情を聞くことにした。
そこで先生が失踪していた宇多田からカードを受け取り、カードを集めようとしてようだ。
その場で戸畑先生は襲った侘びとして他の失踪事件を一緒に追うことを約束し、反省の印として一日俺達に身柄を預けると言ったのだ。
家で匿っている宇多田の事があるからと夜には解放するという条件で俺達はそれをのんだ。
反撃を警戒してもう一度カードに先生を閉じ込め、俺達は学校を後にした。
そして今後の方針を話していた時、三奈木が夏目の画像に気付き、急いで現場に向かったんだ。
思えばあの時に先生を解放しておくべきだった。
……でもあの時は緊急事態だった。
急いで現場向かう電車の中、三奈木は他のカード保持者が集まり戦闘になる可能性があると言った。
それを聞いた小林は委員長に戸畑先生が持っていたロープをいれたカードを渡した。
委員長のカードはアミュレットが入っていて戦闘になったら使えないからだ。
そして戸畑先生のカードはみんなの総意で何故か俺が持つことになった。
偶然ではあるが結果として手錠の女、いや宇多田と戸畑先生を会わせることが出来た。
……出来たんだ。
……出来たんだが。
……小林と委員長がやられた。
「大丈夫か静海!?」
俺が駆け寄ると委員長はごほごほと咳をしている。
首には痣が出来るほど強く絞められたことがわかる。
幸いなことに他に目立った外傷はない。
……ナイフやカードじゃなくてよかったと思うしかないのか。
苦しむ委員長の横で牙のない猫がその頬を舐めている。
アミュレットが静海を守ったのだ。
「……神谷君?」
委員長は意識もある。
よかった。
外傷がないことと宇多田が落としていたスタンガンを見る限りきっと小林も大丈夫だろう。
ほっと胸を撫で下ろしたい。
けど。
けどそれは出来ない。
委員長が意識を取り戻したのに気付くと牙のない猫は大人しくなる。
「……アミュレット?」
おかしい。
委員長がアミュレットを盾にするはずがない。
なのにどうして。
どうしてこの猫はここにいるんだ?
「……アミュレット!?」
大人しくなった猫を委員長は抱き締める。
「……こんなの……嫌よ。」
俺達がアミュレットを始めて見たとき、既に相当弱っていた。
骨を抜く前からか、骨を抜いた後からかはわからない。
明らかに痛め付けられていた。
最初にそれをみた俺達は不気味がってすぐにカードに戻した。
委員長がこれをしたのかと思うととても不気味だった。
でもそうではなかった。
今にも死にそうなこの猫を、彼女は生かしたいと言った。
俺達はその思いに胸を動かされた。
最初は三奈木と春日原を信用してなかったけど一緒に行動するうちに理解し合えるようになっていた。
だから委員長は三奈木と春日原にもアミュレットのことを話し、アミュレットを二人に会わせた。
今思えばアミュレットも俺達を前にして警戒を示さなかった。
弱りきった体で生きるのに必死だったのだ。
それを今、アミュレットは委員長を守るために生きた。
アミュレットは生きていたんだ。
泣きじゃくる二人の女の子に囲まれて俺は何も出来なかった。
戸畑先生のように委員長を抱き締めてやることは、……出来なかった。
母さんの時と一緒だ。
俺は……、大事な人がいなくなった時、なにも出来なかった。
だからせめて……。
……せめて、俺は、いつも通りでいよう。
「……アミュレットは生きてたよ。」
いつも通りの口調を意識して委員長に声をかける。
泣きじゃくる委員長は涙に埋めた目を向けて俺に答える。
「……うん。」
彼女の姿は、どこかぼやけてみえた。




