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◆第二十六章:不動 轟 その三


 私は反対だ。

 筑波少年の行動は常軌を逸している。

 私達三人はあるアパートの一室の前に来ている。


 これから私達は法を犯すらしい。




「宇多田小町をさらった犯人は戸畑峯子っていう先公だ。」

「あいつは確実にカードを持ってる。」

「俺はあいつを捕まえて情報を吐かせたい。」

「しかし情報元との約束で戸畑の家でしか襲撃出来ない。」

「なら俺達のすることは一つ。」


「やつの家でやつの帰りを待つ。」




 是が非でも夏目女子を襲った犯人を見つけたい風見少年は当然賛同した。

 私は反対したが私としても一つでも情報は欲しい。

 ここは動かねばならないときのようだ。




 作戦の決行は金曜日の放課後、週末で戸畑先生の帰宅時間が早いだろうと踏んだ結果だ。

 その根拠は筑波が学校に仕掛けた盗聴器で戸畑先生本人が公言していたのを確認したからだ。


 ……わかってはいたことだが筑波少年は当然の様に犯罪行為を行っている。

 カードを持つものを探すため、そして倒すために揃えた道具の購入資金は町中で盗みをして手に入れたようだ。カードを使って鍵明けでもスリでもなんでもやっていると彼は言っていた。


 スリの手順はこうだ、ポッケに財布をいれた人が一人でいるのを見掛けたら後ろから近づき財布だけを残してその人を丸ごとカードに入れる。

 残った財布から気付くか気付かないかのお金を抜き出したのちにカードから人を出しその場を離れる。カードに取り込まれた本人は財布を落とした程度にしか感じないそうだ。


 私が倒すべき悪は筑波少年ではないかと考えてしまう。

 しかしここで筑波少年を倒したら風見少年はどうなる?

 彼は犯人を追うことで壊れそうな精神を保っている。

 筑波少年を失えば我々の捜査も低迷し風見少年の心も折れてしまうかもしれない。


 筑波少年はこれをみこおして風見少年を仲間に率いれたのではないか…、だとした相当な切れ者だ。


 それでいて人を駒としか思わぬ残忍さを持っている。

 私との協力も駒として私を使うためだったのだろう。


 しかし私もそれを理解した上で同行してしまっている。

 未知の敵と戦う為に彼の容赦のなさは必要だからだ。


 私は正義のヒーローだ、例え悪からもらった力でも私は私の正義の為に戦う。




「この部屋だ。」


 そのアパートは正面玄関にオートロックがあった。

 しかし筑波少年の知り合いがここに住んでいるようでその者の協力で難なく侵入出来た。

 筑波少年は扉の前でカードをだす。

 おもむろに扉のドアノブ部分に近づけるとドアノブの真ん中、つまり鍵部分が無くなる。


「この扉はもう鍵が掛けれないが関係ないよな。」


 筑波少年はそういって扉をあける。

 玄関から入ったところ小さな廊下がありそこそこいい広い部屋だと思うと同時に大量のゴミが目に映る。あまり先生の私生活を知るというのは気分のいいことではない。


 私達は奥に進み一人暮らしにしては広い部屋に入る。そこもお世辞にも綺麗な部屋とは言えない。

 積まれたビール缶や雑誌の山が目立つ。風見少年の部屋とはある意味対照的だ。




 そして我々は一人の少女を目撃する。

 学生服のまま部屋のすみにたたずむ少女は我々を視認し声を漏らす。


「……先生じゃない?なんなのあなた達は?」


 彼女の手には手錠がかかっていた。

 しかしおかしな点がある。

 手錠がかかっているのは片手だけなのだ。

 まるで腕輪のように片手首に手錠をぶら下げている。

 もう片方の手錠は何処かに繋がれている訳でもなくだらんと垂れている。


「よう宇多田、四日ぶりじゃないか。」


 筑波少年はその少女に声を掛ける。

 彼女が例の宇多田女子らしい。本当に監禁されているとはな。


「……筑波君と風見君だったっけ?それとその人は誰?と言うか人なの?」


 私を指差して宇多田女子はいう。

 ならば答えねばなるまい。



「ワタシハニューサイボーグZ!!セイギノミカタダ!!」



 私の声は甲高い機械音声となって部屋に響く。

 筑波少年からもらったヘルメットのお陰でヘリウムを吸う必要がなくなり喋るのも楽だ。



「ワレワレハキミヲタスケニキタ!!」



「……そんなことより先生は?」


 彼女は対して動揺を示さない。

 なにかいやに落ち着いている。


「俺達は戸畑先生の帰りを待つ。」


 風見少年が答える。

「つまりお前は人質だ、戸畑が来るまで知ってることをを吐いてもらう。」

 筑波少年がそう付け加えると突然宇多田女子は険相を変え私達に向かってくる。



「……先生の邪魔はさせない!」



 鬼気迫る表情をみて筑波少年は素早く指示をだす。


「……予定変更だ、まずはこいつを押さえる。」


 筑波少年はそういうとカードを取りだす。

 次の瞬間我々の前にカードに描かれていた鎖が飛び出す。私と風見少年はそれを掴み向かってくる宇多田女子に巻き付ける。


「……離しなさい!!」


 少女を三人がかりで押さえ込むなど私には気が引けるのだがこの時の私はそう感じなかった。

 それだけ宇多田女子は恐ろしい殺気を放っていた。

 筑波少年の容赦のない残忍さとも違う。


 執念のような、明確な殺意だ。


 私の本能が本来救助に来たはずの少女に対し明らかな脅威であると告げたのだ。

 私達はそのまま三人がかりで彼女を押さえこんだ。

 宇多田女子も激しく抵抗してきたがさすがに抗えないと悟ったのか急に大人しくなった。


「誘拐されたって聞いてたけどなんなんだこいつは。」


 一息ついて風見少年は声を漏らす。

 今宇多田女子は鎖で縛られ、その鎖を私が優しく押さえている。とてもあの二人にはまかせられない。

 筑波少年は構わず話始める。


「宇多田、お前はカードのことをどこまで知っている?」


「……先生の邪魔をするなら答えないわ。」


 どうも宇多田女子は戸畑先生に対して強い執着を抱いている。

 この少女は拉致監禁されていたはずなのにまるで自ら望んでここにいるようだ。


「……お前が答えないなら答えないでいい。それなら予定通り戸畑を待つだけだ。」


 私は筑波少年に渡していたカードを受け取りサイボーグガントレットに再度装着する。

 そうして私達は何もしゃべらない宇多田女子と共に暫くその部屋で過ごした。




 時が経ち時刻は九時半、何かがおかしいことに気付き始める。

 筑波少年の情報では戸畑先生の帰りは早い筈なのに全く帰ってくる気配がない。

 確かに予定外の仕事があって帰りが遅くなるとも考えられるが何かがおかしいと我々は気付き始める。

 宇多田女子の表情が明らかに曇りはじめている。そして戯言のように呟き始める。


「……先生、……静海さんはどうしたの?」

「なんの話だ宇多田?」

 風見少年が問いかけても宇多田女子は一人ぼそぼそと同じことをいい続けるばかりで答えにならない。

「……なんなんだよ全く。」


 会話が出来ないと察し悪態をつく風見少年のポケットから電子音が聞こえてくる。




 ピンコーン。




 風見少年が腰のポケットからスマートフォンを取りだして確認すると彼の表情が崩れる。



「……花梨!?」



 すると突然風見少年はその場をたち急いで玄関へ向かう。



「おい風見、どこへいくんだ!?」



 筑波少年が問いかけると風見少年は答える。



「花梨がいるんだ!!港に、花梨がいるんだ!!」



 それだけ答えると風見少年は玄関をでて走り出す。


「……っち、なにがなんだか。」


 筑波少年は悪態をつくとスマートフォンを取りだし誰かに電話を掛ける。

「先輩、聞いてたでしょう?作戦は中止です。」

 恐らく協力者なのだろう。

「俺らは風見を追います、戸畑が戻ったら連絡ください。」

 それだけいうと筑波も風見少年を追って玄関へ向かう。

「ヘルメット先輩、とりあえず風見を追うっすよ。」

 それだけ言い残して筑波少年も消える。


 この部屋には私と宇多田女子だけが残された。


「キミモキテクレナイカ?」


 私が彼女にそういうと少し考えて立ち上がる。


「……先生を探さなくちゃ。」


 私は宇多田女子に何か危険を感じると共に今にも消え入りそうな何かを感じた。

 ポケットから筑波少年にもらった装備を一つ取りだし宇多田女子に手渡す。


「……コレヲモッテイナサイ。」


 宇多田女子も黙ってそれを受けとる。




 私は正義のヒーローだ。

 強きを挫き弱きを助ける。

 私のまわりには今、壊れそうな少年少女がいる。


 ならば私のするべきことは一つ、彼らを守り導くことだ。

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