◆第二十章:宇多田 小町
…私が馬鹿だった。
でも怖くなってどうしようもなかった。
「それで他には情報ないの、小町ちゃん?」
私は今、手足を手錠で繋がれている。
「…カードは使う人の認識したものを一つのものとして保存できます。だから池を吸い込んだ際私が池の水と魚を一緒に認識した結果特定の魚を覗いて保存出来ました。」
スマホや荷物も取り上げられてる。
「それは聞いたから他にないの?」
先生は厳しい。
「…一番怖い使い方があります。」
叫んでも誰にも聞こえない。
「あら、やっぱりよく勉強してるじゃない!」
でも先生は優しい。
「どんな方法なの?」
言うことを聞けば私の面倒はみてくれるそうだ。
「…カードからものを取り出すときどこに出すかをイメージする必要があります。」
…本当はこれでよかったのかもしれない。
「それでそれで?」
先生と一緒にいれば一人で怖がる必要がない。
「…私は無意識的に空中にイメージしてました。」
とても一人じゃ受け入れられない。
「それがどうかしたの?」
わからないことが起きることを直視できない。
「…科学の授業を受けてて思ったんです。」
「あら、それって私の授業じゃない。」
「…空中にも酸素みたいな気体の分子があるはずなのに突然ものがでたらどうなるんだろうって。」
「…どうゆうこと?」
「…私は試しに水中に川原で拾った石ころをだすイメージをしたんです。」
「それでどうなったの?」
「…イメージ通りカードから石は出てきました。」
「…次に川原で拾った石の中に別の石ころをだすイメージをしました。」
「…イメージ通りカードから石は出てきました。」
「…え?」
「次にスーパーで買った魚のお腹に石を突き刺すイメージをしました。」
「…。」
「…イメージ通りカードから石が出てきました。」
「…石を取り除くと魚に穴が空いてました。」
「…なくなっているんです。」
「…カードからものを出した時、そこに元々あったものはなくなっているんです。」
「…私はカードにまな板をいれて穴の空いた魚を覆うようにまな板をだすイメージをしました。」
「…イメージ通りまな板が出てきました。」
「…穴の空いた魚は消えてなくなりました。」
これは私の手には終えない。
「…カードから対象物が取り出される際、対象物がでた場所に元々あったものは上書きされて消えるんです。」
「元々あったものはどこかに消えるんです。」
「どこかってどこよ?」
「…わかりません。」
「…逆に吸収するときはどこでなにを吸い込んでも吸い込んだ場所には空気が出来るんです。」
「…そしてこの原理を応用すればとにかく大きなものをカードからだすだけで好きなものを消すことが出来ます。」
「…私は池をカードに入れました。」
「…一瞬で池はカードに入りました。」
「…もしこれが海だったら?これが町だったら?」
「…私はきっと一瞬で消えると思います。」
「…そしてそれを別の場所で出したらそれだけ大きなものがこの世界から消えます。」
「…消えるんです、なにもかも。」
「…私は怖いんです、私も消されるんじゃないかって。」
「大丈夫よ小町ちゃん。」
先生は私を優しく抱き締めてくれる。
「こんなものがなくたって核爆弾を落としまくれば簡単に世界は終わっちゃうのよ。」
暖かい。
「世界なんてそんなもんよ。」
ここなら私はなにも考えなくていい。
「大きな力があっても頭のいい人がそれを管理すればいいのよ。」
パパやママより今はこの人の方が信頼できる。
「だから私があなたを安心させてあげる。」
手錠で繋がれている方が楽だ。
「私は私のためにもカードは全て集めるわ。」
やっぱり先生は私の好きな人だ。




