◆第十九章:不動 轟
ここまで来れば大丈夫だろうか?
私は公園のトイレの個室にいる。
あの物騒な少年が鬼気迫る表情で追ってきたのでまくのが大変だったがここまでこれれば問題ない。
私はスーツを脱ぐ。
もっとテレビのヒーローのように一瞬で変身出来たらと思うがそうはいかない。
きっとヒーローショーの俳優もこんな気分なのだろう。
脱ぐ分にはカードの力で出来なくもないが着る時に畳んでないと困るのだ。
私はスーツを畳むとヘルメットを外しヘルメットの中に畳んだスーツをつめる。
それとベルトにつけていたヘリウムガスのスプレー缶、手につけていた自家製のガントレットをその上にのせビニール袋にいれる。
ここまですればあとは袋をカードにしまうだけだ。
…ヒーローとは中々に大変だ。
私は子供の時から仮面ライダーになるのが夢だった。
昭和ライダー世代ではなく平成ライダー世代であるがきっと本質は変わらないはずだ。
世を忍び悪を倒す。
このあり方に心から憧れた。
悪に立ち向かえるよう強くなるために子供の頃から体を鍛えた。
お陰で私の体脂肪率は中々に自慢できる数値だ。
体力作りの一環で水泳に励んでいたら今では水泳部部長だ。正確には先月までなのだがな。
高校三年の夏、私は熱中していた水泳部を引退して受験生となった。
心にぽっかりと穴が空いた。
そんなとき私はあの男に出会った。不思議な力を持つカードを貰ったのだ。
最初は何に使えばいいか迷ったが段々と答えに近付いていった。
ヒーローになろう!!
受験生としての私は世を忍ぶ仮の姿、その実体は不思議な力で悪と戦う正義の戦士だ!
勉強の傍ら沢山準備をした。
カードの力を引き出すために使い方を考えた。
このカードは使用者が直接触れていなければ効果を発揮しない。
そこでその力を最大限いかせるよう手袋を開発した。
それが先程のサイボーグガントレットだ!
これは手の甲にカードを差し込むことで常にカードが手の甲に触れた状態になり、かつそこから隠していたアイテムを取り出したり敵の攻撃を吸収、武器の奪取など状況に合わせた運用が可能になる。
更に面白いのがこのカードは衝撃も吸収出来ると言うことだ。メカニズムはわからないが受けた衝撃を吸収し吐き出すことが出来る。
これを利用してカードにパンチを叩き込めばその衝撃を保存しそのままうちだせる。
これは防御にもなるし、攻撃面でも優秀だ。
この力を試すために私は不良たちと戦った。
受験生である以上正体を隠すためヘリウムガスで声を変調しているがこれが1分ともたない。
そのため長期戦闘は望めないが喋らなければなんとかなる。
寧ろ水泳で鍛えた筋力で持久戦の方が得意なくらいだ。
しかしヒーローの戦闘は短いぐらいでいい。
ウルトラマンのように限られた時間でいかに戦うかが肝心なのだ。
さて、話は長くなったがヒーローとして考えなければならない問題がある。
私と同様にカードを持つものが現れたのだ。
まずは夏目花梨。こいつはカードを持って突然失踪した。
同級生の石田同様になんの痕跡も残さずだ。これはきっと何かある。
そして今日、夏目が最後にいたとされる銅像の前で揉める二人の男がいた。
話を聞く限り関係者なのだろう。
うちの高校の制服を着ていたからあとで調べなければな。
「とにかく事件の真相を突き止めねばな!」
これこそ私がヒーローとして果たさなければならない使命なのだろう!
とにかくそろそろここからでよう!
私がトイレからでると一人の男が立っていた。
先程の人相の悪い少年だ。
私は見知らぬ顔で横を通る。
スーツは脱いでいるから戦うわけにはいかない。
「………あんたはバレてないつもりかもしれないがバレバレだぜ、ヘルメット野郎。」
後ろから声がかかる。
「………なんのことかな?ヘルメット?」
私はそ知らぬ顔で離れようとする。
「どうせカードにしまっているんだろ、バレバレだぜ全部。」
………まずいな、カードには変身セットがはいっているし素顔のまま戦うのは避けたい。
「あんたもうちの高校なんだな、驚いたぜ。」
…やむ終えないか。
そう思った時彼は驚くべきことを告げる。
「手を組まないか?」
「………どうゆうことだ?」
私は質問で返す。
「さっきあんたがトイレで独り言を言っているのを聞いたんだ。」
「事件ってのはうちの高校での行方不明事件のことだろう?」
「………。」
「最初の石田先輩は確実に殺されてる。」
「!?」
何をいっているんだこいつは?
「俺はそいつをみた。」
彼が嘘をついているようには見えない。
何を考えているかわからないが毅然とした態度だ。
「この町にカードを使って人殺しをする悪党が必ずいる。」
やはりただの失踪ではないのか!
不謹慎な話だが私は少し心が踊った。
「あんた正義の味方なんだろ?」
「………。」
「俺もカードを持っていてそいつを追っている。」
「一緒にあいつを倒さねぇか?」
これは驚いた。
先程の少年への手荒な行為からこの男は敵だと思っていたがどうやら間違いだったらしい。
「これからどうするつもりなんだ?」
「俺がさっき捕まえようとしていたやつが情報を握ってるはずだ、まずはそれを聞き出す。」
「正義のヒーローとして先程の手荒な真似は容認できない。」
「…人のこと言えるかよお前、思いっきり俺をぶん殴ったじゃねぇかよ。」
「正義のためゆえ致し方ない。」
「しかし外道を野放しにするのも正義に反する。」
「この不動轟、いな、サイボーグZがお前に力を貸してやろう。」
「…交渉成立だ。俺達は狩人だ、殺人鬼は必ず追い詰める。」
私の戦いはこれから始まるようだ。




