◆第十章:筑波 善財
「…おぅぇっ。」
…吐き気が止まらない。二日前の雨の日からずっとだ。
昼休みの便所に一人俺はいた。
「大丈夫か筑波?」
個室の扉の向こうからクラスメイトの小岩井の声がする。
「…大丈夫だ、気にすんな。昼飯食いすぎただけだ。」
「それならいいんだけどよ、お前最近具合悪そうじゃん?」
「…大丈夫だって、こんなんで休んでたらあとがめんどくせぇんだよ。」
「何かあったんなら俺に言えよな。」
そうゆうと小岩井は離れていく。
「…お、おう。」
残念ながら言えねぇんだよな、こんな話。
そう思いながら俺は手にしていたカードに目をやる。
これを手にいれたのは二週間位前か、突然謎の男が表れて突然消えていきやがった。
そいつからもらったこのカード、もらったときから俺にはヤバイものだとわかっていた。
ただ悪いことに使おうと思えば色んな事が出来て何回か万引きに使った。
どうせ客の来ない中古本屋の本だ、誰も気づきやしねぇ。
あの時はただいいものを貰ったって思ってたさ。
けど二日前のあれを思い出すと吐き気が止まらないんだわ…。
学校で突然落書きが消える事件が噂になり始めて勘のいい俺はすぐにピンと来た。
そいつはカードを使ってやがるってな。
そこでどんなやつが持ってんのか探ってやろうと思ってシャッター通りになっている商店街の一角で待ちかねたのさ。
運よく俺はちりちり頭のそいつを見つけられた。
後で知ったことなんだがそいつは三年生の石田ってやつらしい。
そいつの同行を探ろうと雨のなかバレないように追跡していた。尾行自体は我ながら上手くいったはずだ。
問題はトンネルの下で現れたあいつだ。
突然現れたあいつはいくつか石田先輩と話した後突然手元から何かを出した。
遠目だったから何を話していたか、何をだしたかはわからないがそれを出した瞬間石田先輩の姿はその黒いなにかに書き消された。
黒い何かの直撃を避けた石田先輩の両腕だけがぽとりと地面に落ちた。
それを見た俺は即座にヤバイと判断し逃げ出したんだ。
今はそれから二日経つが石田先輩は行方不明のままだ…。
警察がうちの学校に来ているのも目撃したがなんの痕跡も見つかってないらしい。
あの場に居合わせた俺だけがわかる。
確実に石田先輩はあいつにカードを使って殺されている。
そしておそらくカードを使って痕跡も消したんだろう。
じゃなきゃ俺の前で起きたことの説明がつかねぇ…。
やべぇよ、まじやべぇ…、俺は今殺人兵器を持ち歩いているんだよな…。
警察に言うべきか?洗いざらいカードのことを話すか?
いや今は駄目だ、寧ろこんな得体の知れないものを出したら俺が犯人じゃないかって疑われちまう…。
幸いなことに二日たってもあいつは俺の前に現れない。
俺の存在はバレているならすぐに消しに来るはずだ。そこは安心するべきだ。
そうだ、冷静になれ善財。
俺は出来る。俺はやれる男だ。
こちらの情報はあいつにはまだバレてない。
それならこちらから仕掛けてあいつを消せばいいんだ。
そうすれば俺は怯えずに済むしカードが二枚手にはいる。
おそらくあいつの狙いはこれだ。
カードの奪い合いだ。
確かにこのカードは便利だが一度に一つの物しか取り込めない。
だが言い換えれば複数枚持っていればそれだけ使い方は増えるってことだ。
そもそも石田先輩が襲われたのもカードを使って目立つことをしたせいだ。
そう考えるのが自然だ。
それを考えると他にもカードを持っているやつがいるのかもしれない。
…目立ったやつからアイツに狙われて消されちまう。
それならなおさら人に話すのは得策じゃない。
…アイツの正体を掴まない限り俺に平穏はない。
俺は俺の持つカードを見つめる。
そこに描かれているのは拳銃、あの糞野郎から買い取った特別性だ。
こいつがあればとりあえずあのレインコートの殺人鬼は殺せる。
…いいぜ、やってやる。
俺があいつを殺してすべてのカードを集めてやる!!
出なきゃ安心できねぇ、いつも通りでいられねぇ。
俺の心の平穏のために、奴を殺す!!
そう考えた時には吐き気は止まった。
俺は狩られる側じゃない、俺は狩人だ!!




