8.襲われるロウガ
久しぶりの更新です!
「ニジマスのムニエルです」
ニジマス、これが!?
僕が知ってるニジマスの色じゃないし。
ニジマスってこんなに虹色に輝いてるもんじゃないでしょうよ。
さっすが異世界だわ。
「ふぅん、かなりの高級食材じゃないか」
「すっげ。俺、食うの初めてだわ」
あ、やっぱり高級食材なんだ。
向こうじゃ一般的な魚だけど、こっちじゃ特殊だから高級魚なんだねぇ。
てか、こんなに光輝く料理どころか生き物さえ見たことないんだけれどね。
……こんな不思議な魚、食べて大丈夫なんだろうか?
ましてや僕は異世界人……昨日の夕飯や今日の朝ごはんは大丈夫だったけど、もしかしたら水だけでも身体になにか異常をきたす可能性もある。
チラッと二人を見てみると、本当に美味しそうに食べている。
……食べてみるか。
このまま食べずに残すのは、人間同士……いや、相手は元人間か。としては申し訳ないし。
ナイフとフォークで切り分け、口の前まで運んでみたけど……やっぱり抵抗感がある……
「やっぱり抵抗感があるかい?」
ギクッ。
「大丈夫だよ。自分も最初は若干の抵抗感があったけど、食べてみるとかなり美味しいよ。栄養価もあるしね。身体に異常もなかったし」
たしかに僕と同じ出身地の元人間が無事なんだし、僕が食べてもきっと大丈夫かもしれない。
……ええい、南無三!
パクッと思いきって食べてみる。
……あれ、美味しい?めっちゃ美味しい!!
気がつけばキレイに完食していた。
「お粗末様です。美味しかったでしょう?」
「はい。こんなに美味しいの、初めてです!」
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」
やっぱり。
しかし、美味しいと言われて嬉しい……か。
僕はどんなことで嬉しくなるんだっけか……
「俺はロウガから好きだって言ってくれたら嬉しいけどな?」
「言わないからな?」
どさくさに紛れて何言ってるんだコイツは……いつもだけど。
その後、二品ほど食事してから店を出ることにした。
また来ることを伝え、外に出たらいきなりルトに抱っこされた。しかもお姫様抱っこ。
「ちょ、いきなり何!?それより恥ずかしいんだけど!」
「テメ……コウジに何してんだ!」
「何って連れて帰ろうとしてんだけど?だってコイツは俺の体液を摂取したんだ……俺の伴侶となるのが当たり前だろ?」
んな!?
伴侶って……なに真顔で言ってくれちゃってんの!?
とにかく思いきり振りほどいてルトの腕から降りた。
すると地に足がついた途端、急に引っ張られてシェイドの胸の中に収まり、頭をホールドされてしまった。
……うん。何で押さえてるのかはわからないけど、やっぱり膨らみがあるからやっぱりシェイドは雌だわ。
獣人にも胸の膨らみはあるんだね……てか、これじゃ僕って変態みたいじゃん!!
じゃあ、なんで向こうでは雄だったんだろうか。
しっかりアレもあったしね?
……まぁ考えても仕方ないか。
この世界の事はもちろん、異世界への往復方法もよくわかってないんだから。
「ふっざけんな!そんなんで伴侶になんだったらとっくに俺のだっつの!向こうで何度もしてっからな!」
「んな!?そんなこと堂々と口に出さないでくれる!!?」
なんでそんな恥ずかしいこと平然と言えるかな?
まぁ、それは今に始まったわけじゃないんだけどさ。
でも、対象がこっちだと恥ずかしいんだよなぁ。僕が。
ていうか、向こうで何度もせがんできたのはそういう意味があったのか……てっきり、ただ単に懐いてるだけだと思ってたわ。
「言っとくけど、僕は誰のものないからね?それに、僕は帰る気でいるからね?」
「だよなだよな!すぐに俺達の城に帰ろうな!」
「僕が住んでいた家に帰るの!」
僕はそう言って、振り返ってから歩き出す。
後ろから
そう言って僕は振り返って歩き出す。
シェイドが後ろで何か言ってるけど、気にしないでスルー。
ルトの声がしないってことは、帰ったんだろうか?
まぁ、無事に帰ってれば僕には関係ないや。
……あ、あれ?
いつの間にかシェイドの声がしなくなった上に、やけに暗い裏道っぽい場所に来てしまった……
今すぐ来た道を戻って合流しないと。
振り返って戻ろうとしたら、どっかからか数人の獣人が現れた。
あれ、これ……囲まれた?
「へぇ、珍しい種族がいんじゃねぇか」
「これ、とっ捕まえて売り飛ばせばいい金になんじゃね?」
「いいな、それ」
あ、これやばい。
マジで僕を奴隷商人か何かに売り飛ばす気だ!
ジリジリと近づいてきて逃げ場がどんどんなくなっていく。
身長差どころか、獣人だから力も絶対敵わないはず。
でも、僕は陸上選手……この場を乗り越えられれば逃げられるはず……!
よく見ろ……よく見ろ……これは障害物、走行の妨げだ。
普通の突破が無理なら……突破するための道具がないのなら……コイツ等を利用するまで!
僕を捕まえようと前かがみになったとこで、逆に相手……熊の獣人かな?の腕を引っ張って体勢を崩し、跳び箱のように乗り越えて背中を蹴ってジャンプし、数人の頭上を越えて獣人達の外側に飛び出した。
「じゃっ!」
僕が越えたことでポカンとしてる獣人にニッコリと別れを告げ、来た道を走り出した。
後ろで何か叫んでるけど、気にしない。振り向かない。
いちいち振り向いてたら遅くなるしね!
と思ってたら、ズボンの裾を思いっきり踏みつけて豪快にすっ転んでしまった。
いっつぅ……思いきり鼻打った……。
「つ~かま~えた!」
「うわっ!!」
転んで止まってるうちに追いつかれて服を掴まれてしまった。
「ちょ、離してよ!」
「はい、そうですかと言って離すと思うか?」
ですよねー……
逃げられないようにブカブカの服を掴んだまま、どこかに連絡している獣人達。
話を聞く限り、僕をどっかに売り飛ばそうとしてるみたい。
ちょ、そんな漫画みたいな事されんの!?
なんとか逃げ……ん、ブカブカな服?
相手が掴んでるのは服だけだから、力を抜いたらズルッと滑るように服が脱げた。獣人達が再びポカンとしている間にズボンの裾をまくって短くして、走りやすくした。
「ハッ……つ、捕まえろ!!」
やば、我に返ったか。
だけど、ポカンとしてくれてたおかげで準備できたわ。
地を思いきり蹴って走り出し、表通りを目指して逃げる。
陸上部で鍛えたおかげでリズムよく走ることができてるし、向こうは僕より足が長いし脚力があるから、普通はすぐに追いつかれちゃうんだけど、バタバタしてるから追いついてこない。
ハッハー!これが一点を鍛えぬいた者との差よ!!
と思っていたら、逃げた先は行き止まりだった。
うっわ、お約束をやってしまった……これはさらにお約束として……
「てめぇ……もう逃がさねぇぞ……」
ですよねー。
マズイ……これはただじゃすまないぞ。
どこにいるんだよ……シェイドの奴……
そして、ついに僕の目の前まで手が伸びてきて……
「シェ……シェイドーーーーー!!」
「ロウガーーーーーーー!!」
僕の名を叫ぶ声と同時に、シェイドが上から僕の目の前に降ってきた。
登場の仕方がベタだ……
あれ、シェイドの姿を見た途端に追いかけてきた奴らが全員が戸惑い始めたんだけど、どうしたんだろ?
あ、そっか。シェイドは王族だから、悪さがバレるのはまずいのか。
「お前達、ロウガに何しようとしてたんだ?」
「いや、あの……」
しどろもどろな獣人達。
「よーし、んじゃ今からお前たちを……」
「す、すみませんでしたー!」
一目散に逃げていくチンピラ獣人達。
た、助かった……
「大丈夫だったか?ロウガ。慣れない場所なのに適当に歩いていくからそうなるんだよ?」
「助かったけど、その慣れない場所に連れてきたのはシェイドだかんね?」
確かにスタスタと先へ進んでいった僕も悪いよ?
でもヒーローを気取る前にこうなった原因であるアンタも反省してほしいんだけど?
勝手にこの世界に連れてきたんだから。
でも助かったのは事実だし、一応は礼を言っておくか。一応は。
「一応言っておくよ。助けてくれてありがと(棒)」
あー、つい棒読みになっちゃったよー(棒)。
「俺がロウガを護んのは当たり前だろー!なんてったって、ロウガはこの世界の王となってずっと一緒に暮らすんだから!」
「まて、僕はそんなこと了承してないんだけど。勝手に決めないでくれる?」
「もう、意地っ張りなんだから……」
意地っ張りはどっちよ……。
そもそも僕と他の獣人に対する言葉遣いが違うから、なんとも扱いづらい。
「とりあえず帰る?もう暗くなるし」
「そだね、服の上も着たいし……ヘクシッ!」
うう、暗くなってきたからか少し肌寒くなってきた……
なんかシェイドが服を脱いで渡してきたけど、さすがに一応は雌であるシェイドが服を来てなかったらヤバいと思って断っておいた。
預けておいた服のことも気になるし、早く戻ろう。