6.シェイドの腐れ縁、ルト
久しぶりの更新でっす
街並みはまさにファンタジー世界だった。
日本らしい風景は一切なく、周りは獣人だらけで人間は一人もいない。なんだかボッチ感がすごいや……
まぁ、右腕にしがみついてる犬(狼)がいるから別の意味でボッチじゃないけど。
現在は世界でたった一人の人間だからか、周りの視線がすごく集まってきてこっぱずかしいし、さらには王子……じゃなくて王女(?)もいるから余計にだ。
なかにはヒソヒソと小声で話してる。
どうせ内容はどっかの馬の骨といえる僕の事だろなー……。もしくは、久しぶりに帰ってきたシェイドにたいしてなのか。
まぁ、そんなことはどうでもいいけど……むっちゃ暑っ苦しい。
ケモナーなら大歓喜なシチュエーションなんだろうけど、あいにく僕はケモナーじゃないから暑苦しいだけだ。
さらには変なオーラまで出てる気がするよ。うっとおしい……
「あの、さ、歩きづらいんだけど。変に注目されてるし」
「別に見せつけとけばいいじゃねぇか、減るもんじゃあるまいし」
僕の気力が減るっての……
一つ大きなため息を吐くと、突然左の方へ突き飛ばされ、後ろから飛んできた何かをシェイドが腕を振ってかき消した。
一瞬だっだからよくわからないけど、火の玉みたいなのが飛んできたような?
「まったく……ずいぶん物騒な挨拶じゃないか?ルト」
ふぅ……と黒い鼻から息を吐くと、建物の陰から誰かがスッと現れた。
もちろん人間ではなく獣人なわけで。
ヒョロッとしていて尻尾は長く、毛皮には斑模様がある。もしかして豹獣人ってやつかな?
「久しぶりに帰ってきたと思ったら全然来ないじゃんか。だからこっちから挨拶してやったんじゃんかよ」
「……お前の辞書には声をかけるという言葉はないのか?」
「お前に対してはない!」
ふんぞり返ってえばっても偉くないですよ?と言いたいけど、なんだか声をかけづらい。
だって、今の僕はなんだか空気みたいだから……
「で、そいつか?人間てのは」
おっと、いきなり話題が僕の方にきたよ。
親指(?)を僕に向けてシェイドに聞いている。ていうか、今更だけど獣人の指って四本なんだな。
「ああ、そうだよ。てか、なんで知ってんだよ?」
「そこら中で噂になってんだよ。帰ってきた王女と一緒に歩いてるのは人間か?ってよ」
あー、やっぱり、あれの噂だったか。
世界に人間が僕だけならば、噂をたてずにいられないよね。
僕だって元の世界で獣人が現れれば、興味を持ってただろうね。
けど、その獣人に獣人だらけの異世界に誘拐され、さらには、その何かの獣人にされようとしている……それじゃあ興味もわかないわ。やれやれ。
「ま、いいや。俺はルトってんだ。よっしくな」
「え、あ、うん。僕びゃ」
突然、頬をムニーっと引っ張られて変な声が出てしまった。
「へー、人間て柔らかいのなー。毛も少なくて尻尾もないし、見た感じは猿獣人に近い感じか」
「いひゃいいひゃい」
初めての人間だからって触りすぎでない!?
未だに引っ張られてる頬が地味に痛いし、なんだか無理矢理モフモフされる動物の気持ちがわかるような気がするよ。
なんだか目の前にいるシェイドが怒りのオーラを発してるように見えるし……
あまりにしつこいんで突き飛ばそう……と思ったんだけど、なぜか手ではなく脚を上げてしまって股間にクリーンヒットしてしまい、豹獣人は声にならない声を発し、その場で蹲ってしまった。
えっと……なんだかごめんなさい。チーン。
シェイドに至っては怒りのオーラが消えて、「ナイス!」と言ってるような顔で親指を立てていた。
心配はしないんですね。
「お……お……俺の息子が……息子が潰れ……ガクッ」
あ、気絶した。
「まったく……相変わらずの打たれ弱さだな」
「大丈夫なの?てか誰よ?」
「ルトって豹獣人だ。コイツとは腐れ縁……だな。一応種族は豹獣人だが、ロウガがいた世界じゃチーターって呼ばれてる種類だな。むっちゃ足が速い」
へぇ、チーターなんだ。
確かによっっっく見れば豹とは違うような?
ルトと呼ばれる獣人の顔をジッと見てると、シェイドにグイっと引っ張られた。
「そいつほっといてさっさと行こうぜ?」
……気絶した知り合いを放置プレイとはなかなかできないぞ?嫌いなのかな?
気絶させたのは僕だし、ほっとく事ができないから、とりあえず背負って連れていくか。
……う、見た目よりも重たい……。
軽く見えても毛皮の分も加えて重い……か。
「ロウガー……重いなら捨ててっていいんだぜ?」
「そんなわけにはいかないでしょ……」
「優しいなぁ、ロウガは。そんなところが……」
シェイドがふてくされたと思ったら、いきなりクネクネとうねりだした。
見てて気分悪くなったから、ほっぽって先へ進むことにした。
少し進んだとこで置いてかれたことに気付いたのか、慌てて追いかけてきて横に並んできた。
やがて南地区に辿り着き、目的の店を探していく。
荷物という名の重い獣人を運びながら、地図を頼りに歩いていくと、一軒のレストランに着いた。
ライトで光る看板に店名が記されてるようだけど、異世界の文字で全くわからない。
言葉は通じるのになぁ……
シェイドに確認すると、店名は『オマージュ』というらしい。間違いないらしいからそっと扉を開けると、ガヤガヤと賑わってる声とオーダーを厨房へ伝える大声が耳を貫いた。
っ~~~~……なんて声量なんだ……耳が痛いや。
さて、相手は獅子獣人だそうだけど……客席にはいないみたいだ。
客席ではいろんな獣人が木でできた椅子に座って、同じく木でできた四角いテーブルに料理や酒を置いて賑わい、店員らしき人は注文を伝えたり運んだりしている。
しかし、こんだけいるのに獅子獣人が一人……一匹?いや、一人でいいや。とにかく一人もいないなんて……これで休みとかで厨房にもいなかったら泣けるな。
でも、話は通ってるって言ってたから、間違いなくいるはずだ。
「いらっしゃい!!申し訳ございません、只今満席で……って、シェイド様ですか!?なぜこのような場所に?」
「ああ、ここの獅子獣人に用があってな」
「あ、伺ってますよ。まさかシェイド様が来るとは思いませんでしたが……」
「ま……な。で、どこにいんだ?」
「店長室です。ご案内します」
店員の三毛猫の獣人に案内され、通路を少し歩いた場所にある一室の扉をノックする。
「失礼します、連絡をされた方々とお越しになられました」
「入ってもらってくれ」
「はい。では、私は仕事がありますのでごゆっくり」
一つお辞儀をして戻っていく。
残された僕達は一度顔を見合わせ、扉を開ける。
中には、背を向けた獅子獣人が椅子に座って書類か何かの仕事をしていた。
そして、ギッと音を立てながら椅子を180度回転させてから立ち上がり、こっちに近づいてきた。
すごい体格……服を着ていても、炭鉱労働者って言われてもしっくりくるガチムチな体をしているよ。
「ようこそ、シェイド様。こちらに戻られたのですね。あちらはどうでしたか?」
「まぁよかったんじゃないかな。この姿じゃなくて、ただの犬になっちまったのが不満だがな……ま、おかげでロウガと出会えたし、良しとするわ」
グイッと引っ張られ、背負っていたルトが反動で床に頭からゴンッという嫌な音をしながら落ちた。
うわ、痛そう……最悪死んだ?
「……あれ、ここどこだ?」
よかった、生きてた。
ポカンとした顔でキョロキョロしながら、床にぶつけた頭を押さえている。さすがにダメージはあったか。
とりあえず、ルトが気絶したとこからここまでの事をを軽く説明しといた。
すると、泣きながら抱き着かれ、めちゃくちゃお礼を言われた。
そして、突然ルトの顔が近づき……僕の口が柔らかくてモフッとした何かに塞がれた。
幼馴染や腐れ縁……この関係で付き合う人って多いのかな?