2.ロウガが異世界に来た理由
んん?一緒に数年間過ごした?
一緒に過ごしたのは親とペットの犬のシェイドだけ……獣人と過ごした覚えなんか全くない。
それどころか、僕がいた世界には獣人は存在しない。
まぁ、親は共働きで帰りは夜だったけど……
じゃあ、一緒に過ごしたっていうのは?
「まだわかんねぇか?お前と一緒に暮らした犬のシェイド、あれが俺だ」
…………はいぃ!?え、ちょ、どゆこと!?
僕が飼ってた犬はたしかにシェイドって名前だけど、喋らないし、二本足で立たない。
それに、毛の色も黒と白がいい感じだったのに、こっちは基本的に青で、太もも辺りには黄色で雷の形にもなっていて……
ああああ!!わっけわかんない!!
……うん、一旦置いておこう。じゃないと、話が進まない。
「とりあえず信じたとして、ここは異世界なんでしょ?なぜ僕がいた世界に?」
「人間を見たかったからさ」
人間を?
「この世界には人間はいない。だから、どんなのか興味があったんだ。だが行ってみて、最初は最悪だったぜ。四つ足のケモノになっちまうわ、飯にはありつけないわ、ガキに追い回されるわ、散々だったぜ。だが、それを助けてくれたのがお前だ」
あー……そういえば、シェイドに出会ったときはお腹減らした状態で子供に追い回されてたような?僕も子供だったけど、あまりに可哀想で……助けたんだっけ。
そして親に頼み込んで、飼うことを許してもらったんだ。
夜まで一人だから、寂しくないようにって。
最初はすごい警戒心だったけど、今じゃ帰ると玄関で待ってるほど懐いてくれたなぁ。
「異世界に行けるとか……すごいね」
「そりゃ、俺ら獣人には魔力があっからな!!……とはいえ、さすがに異世界ともなると、魔力がかなり必要になるけどな。行きは五人に手伝ってもらったが、帰りは俺一人になっから五年は貯める必要があった。満月でも魔力がない人間界じゃそれくらい……な」
満月?
「満月になんの関係が?」
「満月だと俺らの魔力が増大すんだ。今言ったが、人間界にゃ魔力がない。だから、貯まるのは通常の10分の1ってとこだ」
そんなに違うのか。
まぁ、世界が違うから魔力が存在する世界と存在しない世界があるよね。
「じゃあ……なぜ僕はこの世界に?」
「俺が連れてきたからさ!」
え、なにドヤ顔して言ってんの?
なに腕を組んでふんぞり返ってるの!?
「なんで!?」
「俺が一緒にいたいと思ったからだ」
「一緒に?」
「ああ。俺はお前が好きだ。一生一緒にいたいくらい。だが、俺はここに戻らないといけない……なら、ロウガを連れてきちまえばいいと思ったわけよ!」
真剣な顔で言った後にふんぞり返ってなに言ってんですか。
ていうか、僕の意見を無視してなに勝手なことしてれるかな……僕にも向こうでの都合があるんですよ?
「帰れるんだよ……ね?」
「え、帰っちゃうのか!?」
「いや、逆になぜずっとここにいてくれると思ったの?」
完全に自己中ですね、わかります。
これも王子だからなのか……?困ったものです。
チラッとシェイドを見ると、ガチで落ち込んでいる。
たしかにペットのシェイドの面影を感じる。てことは、僕は知らずに王子であるシェイドをペットとして飼っていたわけで……それを思うと、なんと恐れ多い。
でも、まだ本物として認めたくは……なかったけど、二の腕にある物で本物と確信してしまった。それは、僕がシェイドに付けていた首輪だ。シェイドというドッグタグが付いているから間違いない。
さて、認めてしまった今、これからどうしようか。
衣食住の心配はなさそうだけど、水が体に合うのかが気になる。もし合わなかったら、お腹を壊してしまうからね。
あと、もし元の世界に戻れるのならば、話から察するに満月の日だ。
今はまだ昼っぽいから月は出てないために確認できない。
……しっかし、目の前で落ち込まれてると、なんとも気まずい。
「あー……とりあえずはここにいるしかないみたいだし、よろしくね?」
そう言ったらパッと明るさを取り戻して、尻尾をブンブンと千切れるんじゃないかと思うくらい振っている。
まったく、現金なんだから。
そう油断してたら、突然ガバッと抱きしめられてしまった。
あ、ちょっとモフモフしてていいかも……
「ヌフフ~。こうやってお前を抱きしめたかったんだ。あの姿じゃできないからな」
すっごく嬉しそうな顔だ。
好かれるのは悪い気しないけど、これが愛情だったらどうしよう?すっごく面倒なことになりそうな気がする。
どうか、そんなことになりませんように……
それにしても……
「ん、なんか眠そうだけど大丈夫か?」
そう、緊張が抜けたせいか、なんかドッと眠気が襲ってきたのだ。
無理もない。なにせ、ここへ来る前は仮眠程度だったし、まだ疲れが抜けてないのに異世界の森の中を脚が痛くなるまで歩き、崖から少し落ちて命綱無しの崖登りまでやって、気を落ち着かせるために筋トレまでやったんだ。これで疲れ果てなかったら化け物だ。
とにかく、今はぐっすり寝たい。
「寝てていいぜ。食事の時間になったら起こしてやるから」
そう言いながら僕をベッドに寝かすシェイド。
あ、布団がフカフカしてすっごく心地いい。
僕は数秒もしないうちに深い眠りへと入っていった。
「……ガ……シだ……ロウガ、メシだぞ」
んん……あれ、僕は?
キョロキョロ見回すと、見慣れない部屋だと理解するのに数秒かかった。
ああ、そういえば、獣人だったシェイドに異世界へと連れてこられたんだっけ?やっぱり夢じゃなかったんだ。
しだいにそんな考えもいい香りに打ち消されてしまった。
「お、起きたか。よく眠ってたな、ロウガ。ほら、メシの時間だぞ」
声の主であるシェイドがテーブルとイスを出していた。
そして、よく漫画とかで執事が運んでるようなカートには美味しそうな食事が湯気を出していた。
そんな中、気になったのは食事にある肉なわけで。
まさか……ね。
「ね、ねぇ……この肉って……?」
「ん?向こうの世界にもあるような家畜の肉だぞ?なんだ、獣人かと思ったか?」
ですよねー!
ビックリした、あービックリした!!
そりゃ、獣人だったら共食いになっちゃうよね!
それなら、動物が動物を食べるのも共食いなんじゃないかと言われたらそれまでなんだけどね。
それにしても、これステーキじゃない?バターが上でとろけてるし。
なんというか……見た目が異世界を感じない。
「熱いうちに食おうぜ。冷めたら固くなっちまうぞ」
「あ、うん」
まぁ、そもそもステーキなんてめったに食べられないし。
残念なのは、白米がない事。焼肉を食べてると白米欲しくなるじゃん?とくに、唐揚げと白米は最強の組み合わせだ。
ステーキはかなりのボリュームだけど、白米は欲しい。
聞いてみたら、白米ではなく、黒米ならあるらしい。
味は変わらないらしいが、想像したら見た目がなんか嫌だった。
茶碗一杯に真っ黒な米がてんこ盛り。食欲無くしそう。
だけど、やっぱりご飯が欲しいし……お試しってことで、頼んでみよう。
シェイドにお願いして頼んでもらうと、一分もかからずにメイド服をきたネズミの獣人が持ってきてくれた。
ネズミがメイド服を着てご飯を持ってくるのは、なかなかシュールだなぁ。
さて、肝心のご飯は……やっぱり黒かった。焦げてるんじゃないかと思う以上に黒く、漆黒飯という言葉が似合うくらい本当に黒かった。
これ、本当に白米と同じ味がするんだろうか……?
不安を持ちながら口に運ぶと……本当に同じ味がした。漆黒なのに同じ味がする。
安心感と不安感、反対の意味を持つ二つが両方襲いながらも、ステーキと一緒に口へ運んで行った。
安心感は味が同じだったこと、不安感はこの後にお腹を壊さないかということ。
だったら食べなきゃいいじゃんと思うけど、とりあえずチャレンジ……ね?
食べ終わり、しばらくして再びネズミ獣人がやってきて、僕達が食べ終えた食器を片付けていった。
美味しかった……美味しかったけど、豪華な食事と豪華な部屋。一般家庭で育った僕にはなんとなく落ち着かない。
それを察したのかはわからないけど、シェイドが突然ベランダへ誘い込んだ。
「なぁ、明日はあそこへ行ってみないか?」
シェイドが指さしたのは、城の下にある街並み、城下町だった。
ファンタジー世界の城下町か……興味あるかな。
「うん、わかった。案内よろしくね」
「うっしゃあ!!じゃあ、風呂入って早く寝ようぜ!!」
ウキウキとしながら僕の背を押して部屋から出ようとする。
チラリと見た夜空に浮かぶ月は、満月から少し欠けていて、次の満月になるまでは当分先だということを物語っていた。
次回はお風呂回。
ケモナーにはムフフな展開かもしれないですねw