1.見知らぬ地での出会い(再会)
「あえ?」
間抜けな第一声。
それもそのはず。高校の部活が終わって帰宅し、疲れたから仮眠して起きたら森の中にいたのだから。
辺りを見回しても360度全てがボーボーに生えた雑草と木、木、木。どうみても森にしか見えない。
待て待て、なぜこうなったのか、真剣に思い出してみよう。
まず、この春から無事に高校に合格して……じゃなくて、こんな前に戻らなくていいでしょ!!
朝起きて普通に学校へ行って、放課後に陸上部の部活に出たら今日の練習がとてもHARDで……フラフラしながら帰ったらペット(犬)のシェイドが出迎えて……少しモフったら部屋のベッドに倒れこんで眠ったんだよね……うん、覚えてる。
……ああ、これは夢だ。夢に違いない。
だって、家で寝て起きたら森にいたなんて説明がなさすぎる。てか、それしかないっしょ。
でも、この雑草や木の感触が妙にリアルなんだよね。
とりあえず歩いてみることにした。
景色が変わらない以外は変哲もない森だけど、歩き続けているうちに足が痛くなってきた。
……ほんとに夢なのかな。夢ならこの痛みはないはず。
あ~……足が重いし痛い……だんだん不安になってきた……だーれもいないから寂しいし、出口がどこかもわからないし。
僕、こんなわけがわからないとこで一人寂しく死ぬのか……ん?
なんか誰かが走ってる音が聞こえる?でも、ガサガサという音の間隔が速くて……正直めっさ怖い!!
気がつけば僕は走っていた。聞こえる足音よりは遅いけど、今のところ近づいている感じはない。このまま隠れられるところを見つけぇ!!?
後ろを向いていたら足を踏み外して崖から落ちた。
なんとかとっさに捕まって落下を防いだけど、結構落ちてしまった。
あー、びっくりしたびっくりした!まさか、急に崖から落ちるとか……漫画だけかと思った。
下を見るとまだ結構高く、風が吹いて身震いがする。
下を見るな下を見るな。
上だけを見ながら命綱無しの崖登りを始める。慎重に手と足を崖に引っ掛けて登っていき、ゴールが目前になってきてドキドキ感が増してきた。
右手を伸ばし、ゴールを掴もうとしたとき、左手で掴んでた岩が崩れて再び落下が始まった。
あ、これはもう死んだ。
目をつぶって死を覚悟したとき、落下が急に止まって、手首がモフモフと柔らかい何かで包まれた感触がした。上を見上げてみると、犬みたいな顔をした……何かがいた。
「大丈夫か?今引き上げてやる」
そう聞くと、犬顔の何かは片腕一本で僕を軽々と引き上げて地面の上に立たせる。
改めて見ると顔だけじゃない。全身に毛が生えている。……いや、服を着てるから全身かはわからないけども、おそらくは全身だ。
そして、二本足で立っている。こんな生物を僕は漫画で見たことある。
「獣……人……?」
「お、獣人を知ってんのか。さすがは俺のロウガだな」
へ、なぜ僕の名前を?ていうか、ロウガじゃなくて狼牙なんだけどね?
それに、誰かに似てるような……って、そうじゃなくて!!
「こ、ここはどこ?なんで獣人が?なんで僕を知ってるの?」
「あー……まぁ、ここじゃなんだし、俺んちで話してやるよ」
そういうと獣人は僕をひょいと抱き上げると、お姫様抱っこをしだした。
え、ちょ、恥ずかしい!!
「しっかり捕まってろよ?じゃないと落っこちてしまうぞ?」
そう言われたらとっさにギュッと獣人の服を掴んだ。いったい何をするんだろうか?
フッと笑ったと思ったら、木の上にジャンプして木から木へと飛び移るという、忍者みたいな行動をしだした。いや、怖い怖い怖い!!
また目をつぶって服をさらに強く握る。おかげで感じるのは移動の風とジャンプ&着地の振動のみ。
それでもどこかで落ちるんじゃないかという怖さと、僕をどこへ連れて行って何をするんだろうという恐怖心がある。
なぜ僕を知ってるのか、ここはどこなのか、なぜ獣人がいるのか。聞きたいこともいろいろあるんだ。
でも、とにかく今は……早く地面に着地してほしい。
……あれ、いつの間にか風や振動が止まったような?
「着いたぜ、ロウガ」
ゆっくり目を開けてみると、すぐに目を疑った。なにせ、目の前にはファンタジーな大きいお城があったのだから。
え、なにこれ?
「ここが俺の家、グリスヴァント城。そして、お前がこれから住む場所だ」
家!?これを家という!?
え、てことはこの獣人は王子かなにか?
それに、僕が住むってどういう……うああ、頭が混乱してきた!!
「大丈夫か?中に入って休もうじゃないか」
そう言って中に入ろうとする獣人。
ちょ、待って待って待って、この状態のまま入らないで!降ろしてからにしてぇ!!
バタバタと暴れると、こっちをみてフッと笑う獣人。その顔を見たら、お姫様抱っこされてる上にバタバタと暴れる自分に羞恥心を覚え、もうどうにでもなれと思ってしまった。
お城を囲ってる池の上にある橋を越え、入り口である扉が開いていく。
獣人が中に入ると数人のスーツやメイド服を着た獣人がいて、この獣人の存在に気がつくとビシッ立ち始めた。
「シェイド様!おかえりなさいませ!!」
一斉に、見事なハモリで言い、同時に頭を下げた。
おお……実際にこんな光景を見ることができるとは。
「すげぇだろ?俺の名前、お前が付けてくれたのと一緒なんだぜ?」
何言ってるんだろか?
この獣人に名前を付けたことないし、それ以前に獣人を見るのも初めてなのだが。
そして、使用人らしき獣人が近づいてきた。
「シェイド様、そちらは?」
「ロウガだ。今日からここに住むから、飯をコイツの分も俺の部屋へ頼む」
「かしこまりました。後ほどお運び致します」
一礼すると、さっさと散っていった。おそらく、自分の仕事の持ち場へ行ったのだろう。
っていうか、早く降ろしてほしいんだけど。
「あ、あの……さ」
「まずは俺の部屋へ行こうな。んで、俺は親父に会ってくるから、戻ってきたら話そうな」
二ッと笑顔で言われ、何も言えなくなってしまった。
正面の幅のある豪華な階段を上り、奥の螺旋状の階段をさらに上がって通路を少し進んだとこにある扉を開けると、すっごく広い豪華な部屋があった。
あれ、これは僕の部屋の何倍だろうか。
ポカンとしていると、キングサイズっぽいフッカフカなベッドに降ろされ、頭をポンポンと叩かれた。
あ、肉球の感触が……
「んじゃ、ちょっと行ってくるから待っててくれな」
そう言われ、パタンと音を立てて扉が閉められた。
早速、僕は自分の頬を殴ってみたけど、すっごく痛かった。
……うん、わかっていたけど夢じゃない、現実だ。
でも、夢だって疑いたくなるじゃない?眠りから覚めたらいきなりこんな状況になってるんだから。
そして、当然ながら気持ちが落ち着かない。一般家庭で育った僕には落ち着いていられる場所じゃないんだ。
さて、どうしよう……ソワソワして本当に落ち着かない。
とにかく、身体を動かして気持ちを落ち着かせることにした。
広くても一応は室内だ。できることは限られている。ここでできる事、それは……筋トレだ。
腕立て、腹筋、スクワット……とにかくあの獣人が戻ってくるまで動いていた。
……よし、だいぶ落ち着いてきた。そして、動いたから身体も暑い。
そして、ナイスというようなタイミングで、あの獣人が戻ってきた。
「よぉ、待たせたな……って、なんか汗がすごいが大丈夫か?」
「だ、大丈夫。落ち着かないからちょっと筋トレをしてただけ……」
「ならいいが……ほれ」
引き出しからタオルを取りだし、投げ渡された。
一応お礼を言うと、嬉しそうに笑顔で「おう」と言った。あ、すっごい尻尾振ってる。
汗を拭いていると、獣人がベッドに座り横をポンポンと叩いている。
おそらくはここに座れって言ってるんだろうけど、なんとなく近くにあった椅子に座ったらシュンと耳と尻尾を垂らしてへこんでしまった。なぜ?
とにかく、やっと質問できるんだから色々聞かないと。
「えっと……まずはここはどこなのか、君は誰でなぜ僕を知ってるのか聞きたいんだけど……?」
「ん……ああ、そうだったな。まずはこの世界はロウガがいた世界の日本じゃない。俺ら獣人が生きるエスタードという名前の世界で、人間はいない。で、俺は誰で、なぜお前を知っているかだが……シェイドと名付けられて数時間前まで俺はお前の家で暮らし、一緒に数年間過ごしてきたんだが?」