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雨を待つ

作者: 三日月マオン

小説家になろう、初投稿記念作品です。(SS・完結済み)

どうぞよろしくお願いいたします。



 これは、とある小さな町のとある閉店したお店の軒先でのお話。


 わたしはそこで、雨が降るのを待っていた。


 「ねーねー」


 夕刻になるといつもわたしの前を通る、学校帰りの男の子が言った。


 「なんでいっつもそこにいるの?」


 「待ってるの」


 「何を?」


 「雨」


 すると、男の子は不思議そうにわたしの目を見つめた。


 「なんで?」


 「雨が降ると、あのひとがここにやってくるから」


 「でも、雨なんかいつ降るか分かんないよ?」


 「そうね。明日かもしれないし、1ヶ月先かもしれない」


 「それでも待ってるの?」


 「うん」


 清々しい気持ちで、わたしは笑顔を浮かべた。


 「ずっと待ってる」


 異常気象とやらの影響で、その後数年間、この町に雨が降ることはなかった。


 「ねぇ」


 それでもやっぱり、あの男の子は毎日私の前を通りかかった。


 「まだ待ってるの?」


 男の子はあの日とは別人になっていた。背も高くなって、瞳の色も大人びている。


 「うん」


 「いつまで待つの?」


 「いつまでも待ってる」


 あの日と同じ笑顔で答えたわたしに、男の子がすっと手を差し出した。


 「うちに来なよ」


 「雨を降らせることはできないけど……ね」





 ―××年後。


 「それで、うちに連れてきちゃったの?」


 「うん」


 「それで、時々家出されちゃうの?」


 「まあ、猫は気まぐれって言うしね」


 「呆れた。あんたってお人よしなの? バカなの? どっち?」


 「多分、バカなんだろうね」


 やけに清々しい気持ちで、ぼくがあの猫を拾った経緯を話し終えたその時。


 「あっ……」


 空とこの町を静かにつなぐ雨粒が、ぼくらのすべてを覆った。


 「やっと会えたね」


 「ああ……会えるんだね」


 「きみのご主人と」


 トタン屋根を激しく打って、すべてを真っ黒に濡らしてしまう雨に周囲は顔をしかめていたけれど。


 ぼくらは幸せだった。


 ××年ぶりの雨がぼくと、あの猫と、彼女のご主人をつないでくれたのだから。


 「おかえりなさい」


 ただいま。


 優しくてあたたかい声が、すぐそばから聞こえた。



おわり

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