勇者が消滅し、英雄への第一歩を踏み出した日
その顔は真剣だったし、特に断る理由もないので、
「分かりました。」
と、答えると直ぐに謁見の間に通された。
謁見の間に入ると、前と同じ様になっていたが、一つ違うとすれば、アルデバランが汗だくで、玉座に座っているということだけだ。
「あの、どうして…そんなに汗だくなんですか?」
余りにも晴れやかな表情で汗だくになりながら玉座に座っているのが、何か可笑しくてつい、聞いてしまったが…
「貴様!平民風情が陛下に無礼だぞ!」
ほらな。やっぱりこうなる。こうなるのが面倒くさいから立場を考えていたのに。
「別に良い。儂を救ってくれた恩もあるしな。それに、堅苦しいのよりは、こちらの方がいいからの。だが、平民風情だと?こちらの都合で一方的に召喚した。いわば誘拐。それなのに、こんな口を叩いて良いと思っているのか?」
すごい正論で返すんだな…。流石は一国の王。
「うっ…しかし、小奴は召喚したとはいえ、平民。跪かせるべきでしょう!」
その言葉に、一瞬詰まったようだが、更に激昂して、アルデバランに言い返していた。
「もういい。小奴をつまみ出せ!」
アルデバランが声を張り上げて命令すると、騎士たちが、肩を押さえた。
「ク、クソッ!放せ!この私を誰だと思って!」
喚くが、それも虚しく謁見の間から連れ出されていった。
「はぁ…これだから才能だけが取り柄の傲慢な貴族は・・・。」
アルデバランはそう言って、深く溜め息をついた。
「すまぬな、その問いには王としてでは無いときに答えよう。」
と、残念そうな表情で言うので
「はい。大丈夫です。」
そう答えるとアルデバランは、真剣な表情に戻り、
「では、改めて謁見を始めよう。」
そう言って、王の風格というべきオーラを出した。
「では、まず時の魔女に会ったという報告を受けているが、それは誠か?」
そもそも、時の魔女とは、何なんだ?
「時の魔女とは何ですか?」
そう訊くと、アルデバランは一瞬、驚いた表情をしたが、何度も謁見をして慣れているのか、直ぐに元の表情に戻って説明を始めた。
「時の魔女とはな、数千年前から生きていると言われており、時空を神に近いレベルで扱える魔女だ。恐らくは、とても珍しい時空属性の適性をもっており、長い年月をかけて、極めたのだろう。それに、彼女は害を与えるでもなく、逆に多くの王国の窮地を救ってきた。それで我々王族は彼女に礼を言おうとした。しかし、彼女は絶対に表舞台にでることが無かったのだ。だから、今回晃樹殿に直接接触してきたのには何かあると考えてな。それで、今回の謁見を開いたのだ。」
今の話とは全く関係ないのだが、これは、力と同時にある程度の知識が流れてきたための情報で、魔法は、その属性を操る力が無いと発動させることが出来ない。その属性を操る力があるのなら適性があると判断される。その属性の適性は、実際に使ってみようとすれば分かる。
ちなみに、俺は火、水、風、土、光、闇の基本の属性と、特殊属性の時空、聖、暗黒の九つの属性の中で火、水、風、土、光、闇、時空の七つだ。
火、水、風、土、光、闇は、それぞれの属性の名の通りのものを魔力で出現させて変形させることができる属性。
時空は、時間、空間を操れる属性。
聖は暗黒と対になる属性で、死霊を浄化したり、怪我を治療したり出来る属性。
暗黒は、聖と対になり死人をゾンビとして蘇らせたり、魔物を召喚するなど、禁忌にふれる魔法が多い属性。
…話が余りにも逸れたので戻そう。
たしか、何故今まで表舞台に姿を表さなかった時の魔女が俺に接触してきたのかという話だったな。
「心当たりは、ありませんね。」
「そうか…まぁ良い。もう一つ、晃樹殿は勇者ではないという報告も受けておるがそれも誠のことか?」
ここは、直接ステータスを見せた方が早いだろう。
「はい。ステータスをお見せいたします。」
俺はステータスを開き、アルデバランに見せた。
そこで、俺は、ハッと気づいた。厨二病という黒歴史を晒してしまっていることに!
俺は、慌ててステータス画面を消そうとするが、時すでに遅し。
「こ、これは一体…。職業がチュウニビョウ?こんな職業は、聞いたことがないぞ!」
…まぁ、今までに俺しかとったことないらしいし当然なのだが…黒歴史を晒しているみたいで恥ずかしい…。
「これは、私専用の職業です。どうやら、この世界に召喚されたときに就いたようで…。」
「そうか。固有職業か…。だが、固有職業は、特殊な条件を満たさないと、就けないのだが、どんな条件かわかるかね?」
そうきたか…!余り答えたくないが、何せ興味津々の顔で訊かれたら答えなきゃ相手からの印象が悪くなるし…しかも、相手は、国王だから誤魔化しづらい…。
「さぁ、早く答えたまえ!」
国王の年齢でそんなキラキラした目で見られても嬉しくないし…
「その…」
俺が言い辛そうにしていると、アルデバランが、
「早く答えないと男のソコを現役時代に鍛えた脚力で潰すぞ。汗をかいていたのも鈍った体を元に戻していたのだからな。今なら、バラードなぞに負けぬぞ。」
「ソコってまさか…」
「股間に決まっておろう!」
す、清々しい程の笑顔で言い放ちやがった…。
結局、脅迫まで…。股間が縮みあがったぞ!どんだけ知りたいんだよこの国王は!
…おいおい…蹴り上げる構えをし出したぞ、この国王…。本気でやる気なのか!?
「ちょ、分かりました!白状しますから蹴らないでくださいー!」
「うむ、言うが良いぞ。」
俺は、満足そうな表情をするアルデバランの前で昔の黒歴史を白状するのだった。
~*~
「もう、お婿に行けない…。」
黒歴史を一から十まで全て白状させられて、へこんでいる俺に対して、アルデバランはスッキリした顔で玉座に座ってやがる…。
「さて、謁見を続けるぞ。晃樹殿、何でそこでいじけておるのかね?」
綺麗サッパリなかったことにしやがったぞ…。しかも、いつの間にか、ほとんど大臣とか退出させているし…。
「いや、あんたのせいだよ!」
「はて、儂が何かしたか?」
~こんな感じのやりとりを続けること数分~
「負けた…。」
結局、なにを言っても惚けるので、俺が先に折れたのだった。
「では、ここからは、謁見を再開するぞ。」
アルデバランは、そう言って真剣な表情に戻ったので、俺も、ツッコミは、止めた。
「最後の質問だ。晃樹殿、このまま勇者として、旅をするか?」
そんなもの、端から決まっている!
「いいえ、私は、勇者としてではなく、一般人として旅に出たいです。」
「だが、人々の希望となれる勇者はどうする?」
「私が、召喚可能なら召喚しましょう。」
その答えに、アルデバランはニヤリと笑い…
「それは、必要無い。」
ええ…何か嫌な予感がするのだが…。
「晃樹殿が勇者としてではなく、冒険者として魔王を討伐すればよかろう?」
やっぱ、そうきたかーーーー!だが、冒険者とかは、やってみたいと思っていたんだよな…。
「いいでしょう。その提案、受けましょう。」
こうして、俺は、勇者をやめて冒険者として英雄になることを決めた。
1章からは、ここから、無双が始まる。的な感じで書いていこうと思います。
序章の残りは、幕話のみです。