神に近き存在との出逢い
遅くなってすいません!
勇者を辞めた俺は、国王からの勧めで、冒険者になるためことを決めて、冒険者ギルドへと向かっていた。
冒険者ギルドといえば、ラノベの中のザ・テンプレで、王道。
もしかしたら、無双して、美少女たちのハーレムを作ることができるかもしれない。
そんな期待を胸に秘めて、国王から貰った手書きの地図を手に、王城を出たのだが、いくら歩き続けでも、一向につく気配がなく、むしろ遠ざかっている気がするのは気のせいだろうか…?
~*~
ーーーそして歩くこと数時間
「ここは……どこだ…?」
周りを見渡しても、森、森、森。方角が分からない上に、こんなとこ、地図に載ってない…。
……まあ、つまりは、完全に道に迷った…。
更に、歩き続けていると、何処からか、声が聞こえた気がした。
その声のした方向に歩いていくと、激しい戦闘音と、「ガアアァァァ」という何かの咆哮のようなものが聞こえてきた。
見つからないように慎重に草木をかき分けながら、近づいていくと、余りにも巨大なと言っても過言ではないほどの大きな竜と、銀の長い髪ををした美しい少女が交戦していた。
見たところ、少女の方が、明らかに劣勢で、今にも倒れてしまいそうだった。
少女は、突剣で、竜を攻撃しようと近づくも、予備動作ほとんどゼロで光の密集したようなブレスを撃たれ、それを避けるために、やむを得ず後退していた。
さっきまで、少女がいた場所は、竜の光のブレスによって、木が跡形もなく消滅し、地面がドロドロに溶けて、まるで、そこに超高温の隕石が落ちたような惨状だった。
少女は既に、体力をほとんど消耗してしまったようで、かなり危ない状態だ。その上、ここは、森の中なので、動きやすさが激減しており、危険度が増している。
助けに入ろうと少女をはっきり目に捉えた時、その少女が倒れそうになりながらも、突剣をもって戦う姿が、あまりにも美しく、幻想的だったので、助けにはいるのも忘れて、つい見惚れてしまった。
だが、少女の突剣が、弾き飛ばされたことで、俺の意識が、現実に戻ってきた。
しかし、その時には、竜は、少女の命を刈り取らん、と鋭い爪を振り上げていた。
俺は、いつでも魔法を撃てるようにしながら、必死で走り、その少女を庇うように立った。
ラノベのこういうシチュエーションでは、ゴブリンか、オークが普通何だが、
魔法を発動させようとした瞬間、竜の凶爪が止まった。
そして、竜は、俺を見て、驚いた表情をした。
『貴様……その姿、その魔力…まさか貴様は……。』
そう言って、俺を鋭い眼差しで射抜いた。
『貴様、名は。』
竜は、質問をして来た。
ここで、嘘をつくメリットはないし、この重圧感の中で、嘘を言うべきで無いと本能が警鐘を鳴らしている。
「桜川晃樹…いや、コウキ・サクラガワ。」
『ほう…サクラガワ…。』
竜は、そう呟いた。
すると、今まででも凄かった威圧感がさらに増した。心臓が潰れてしまうかもしれない程のプレッシャーで、この前のバラードとは、比にならないくらいだ。その上、バラードは、傲慢で、油断していたようだから、そこをついて倒せたが、今回は、恐らく…ひいじいちゃん…曾祖父関係で何かあったのだろう、いっそう警戒している…ように見えた。が、気のせいだろうか…どこか、俺を見る目が優しくなった気が…。
そして、竜が、次の言葉を発しようとした瞬間…
「……え?」
そんな間の抜けた声が発せられた。
そして間をおいて…
「ッ!ド、ドラゴンが喋った!?」
少女は、驚いた表情をして、竜を見た。
俺は、その発言にツッコミを入れてしまいそうになったが、少女が発した言葉が、妙に演技っぽく、深い悲しみが含まれているような気がして、それを実行する気にはとてもなれなかった。
すると、なにを思ったのか、傍観しているだけだった竜が独りでに語り出した。
『あれは、数十年前の話だーー
~*~
我は、竜の中でも最上位の神竜の一族の末裔だった。
神竜は、純血の神竜と、別の一族の血が混ざった混血種、亜神竜の二種類おり、我は、純血の神竜、エンシェントドラゴンだった。人の世では、聖竜と呼ばれていたこともあったな。
竜にとっては、神竜は、神的存在であり、崇められるのが日常でもあった。
だから、我ら神竜の間で、多くの竜に、生命の危機が訪れる時以外、下級の竜に、命令してはならない、そして、絶対に人族に我らのことを知られてはならないという掟が作られた。一匹一匹、長と直接、契りを結んだのだ。
そこまで、厳重にするのは、神竜の中で欲に溺れる者を出さないためだ。
それから、五十年は過ぎただろうか…。そこまで、誰もこの掟を犯すことなく、過ごした。
しかし、そんなある日、野心家な愚かな亜神竜の若者が、遂に掟を破って、人界を我がものにせんと、多くのレッサードラゴンなどの下級竜を引き連れ、人の国を襲おうとした。
我らで、止められたら良かったが、運悪く、他の神竜が、全て、何らかの理由で里を空けてしまっていた。
それが、悪かったのだろう。そこを突かれ、亜神竜の若者は、愚かにも侵攻しにいった。
亜神竜は、追い返され、侵攻は失敗に終わり、後は、その亜神竜に処罰を与えて終わり…のはずだった。
しかし、我らの不幸はこれで終わらなかった。
人族が国家レベルで結託し。軍勢を率いて里を攻めてきたのだ。それも、数千などではなく、数十万単位でだ。
ほとんどが、我らにとって、とるにも足らない相手だったが、極僅かではあるものの、我らと同じ位、もしくはそれ以上の相当な実力者の男ががいたのだ…。
その男との戦いは熾烈を極めた。
ブレスは、奴の結界によって弾かれ、爪で切り裂こうとしても避けられ、我らはどんどん数を減らしていった。
そして、また我も奴にトドメをさされようとしていた。
我は、目を閉じ命尽きる最後の刻を待った。
しかし、一向にその刻が来ることは無かった。その代わりに何かを嘲笑する声と、悲鳴が聞こえた。
これは、おかしいと思い目を開けてみると、その男が仲間だと思っていた奴らに剣で貫かれていた。
「ハハハッ!馬鹿な奴だ。まさか俺たちに騙されているとも気付かずに神竜を倒してくれるとは…!おかげで、素材が取り放題、一生遊んで暮らせるぜ!なぁ、キラト…俺は、お前が気に入らなかったんだよ。」
我らと激戦を繰り広げた男…キラトを貫いた奴はキラトを踏みつけ見下しながらそう言った。
「オラ!何とか言えよ!」
そいつは、倒れて物言わぬ骸になったキラトを蹴り飛ばした。そして、我を見つめると、醜悪に嗤った。
そのとき我は理解した。
なぜ長が、人族に我らのことが知れてはならぬと厳しく戒めたのか、それは、人族が欲深く弱者を見下す存在だからだと。
主人公…凄い存在にばっかり出逢いますね…。