異界
「ここは……」
目が覚めるとうっそうとした森の中だった。
「なに……これ、どこ……ここ……?」
頭がひどく痛い。
「何で?私は街道を歩いていたはず……それで空が光って……」
曇った夜空、規則正しく並んだ星、閃光、気を失う前の記憶は鮮明に思い出せるが、今私が見ている景色と全くつながらない。
「何がどうしたら気絶している間にこんな日本じゃあり得ないような森に移動するんだろう。わたしのあたまがおかしいのかな?」
あたり一面木、木、木、それもただの森っていうより密林に近いようなかんじで木々が生い茂っていて、街道のかの字もない。
「はぁ……」
ついついため息をはいてしまう。
「まぁとりあえずその辺を散策するか……ずっとここにいても仕方ないことだし。それに歩いていればここがどこかわかるかもしれないし」
数時間後、わたしは死ぬ気で走っていた。
……やばい。
数時間歩いても森を抜けられないのはまだいい、あんまり期待してなかったし。
でもあの一般的なおおきさの100倍ぐらいありそうな蛾はやばい無理吐きそう。あぁ思い出しただけで鳥肌が立つ、きもいきもいきもいきもい。
一目見た瞬間にかけだしていた。ここ数時間の疲れはどこへやらだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ようやく落ち着いたので止まってその場にへたりこむ。
「ほんと……なんで蛾はあんなに気持ち悪いんだか。ほかの虫はかわいかったんだけど……」
実はヤツをみるまでに明らかに大きさのおかしい虫は何匹かいたのだが、私は蛾以外は平気なのでどうも思わなかった。
「それにしても考えれば考えるほどおかしな場所だな、熱帯だとしてもあの虫たちは大きすぎる。図書館で読んだ『世界の最大最小』って本にもあんな大きさのやつは載ってなかったんだけどな…………地球にあんなのがいるとかありえるのかな?」
そういえば今までは木の影でなんだか暗かったのに今は妙に明るい。
はっとして周りを見渡す。
蛾で動揺していて気がつかなかったが私の周りには花が咲いていた。
そしてその花は虹色に光り輝いていた。
薄暗い森の中を虹色の光が優しく照らし出す光景はこの世のものとは思えないほど幻想的だ。
さっきの自分の言葉を思い出す。
”地球にあんなのがいるとかありえるのかな”
「…………ありえ……ない……」
ここは地球ではない……ならば
「…………異世界……………!!」
そんなことがあるのだろうか、いやそれでしか私の足りない頭では説明できない。
たしか図書館にもあった気がする、異世界転生だか異世界召喚だかっていうタイトルの本が。
「異世界か……何でそんなとこにいるんだか……」
何かの偶然か。
それとも、もう何もないから別の世界に来てしまったのか。
それとも、あっちで失うものがなくなったからこっちの世界でまたいろいろ失えという神様のお導きなのか……
何にせよ私はここで生きていかなきゃいけないわけだ。
といっても森から抜けられる気配も無く、食べ物もない今の状況でのんきなことは言ってられない。
とくに食べ物は最優先事項だ、さすがにだいぶ動き回っておなかがすき始めている。
森を抜けるにしても食料は必須だ。
できれば虫は最後の手段としたいところだし動ける体力があるうちに食べられそうなものを見つけなきゃ
そういえばこの光っている花は食べられるだろうか?
とりあえず一本摘んでみると茎から甘い香りがあふれ出した。
「何これ!すごい良い香り!」
葉をかじってみるととても甘い味がした。
「けっこうアリね。あと何本かつんでおこうかな」
私は黙々と光る花を摘み始めた。
背後で何かが動く音がした。
おそるおそる振りかえるとそこには、異形の怪物がいた。