*** 2日目 ***
作中にはリアリティー追求の為、一部実在の設定・名称に基づく表現を使用しておりますが、こちらの物語は作品全体を通してフィクションです。
彼は、翌朝も同じ車両に乗った。
午前八時十分の電車だ。
彼は昨日と同じく最後尾に乗る。反対車両と向かい合う開閉口を占めたことも、昨日と同じ。
カタカタと前方車両が揺れ出し、彼の心臓はドクドクと波打つ。体から汗という汗が噴き出てくる感覚も、反対車両の顔が見えてくると忘れてしまうほど些細だった。
ーー来たッ!
すれ違い始めるその一瞬すら、東間にとってはひどく永い時間を掛けたように思えたことだろう。
けれど周囲に溶け込む彼らは、一瞬のうちに自分の時間を消費する。
東間は見つけた。彼女の、昨日と変わらない姿を。
開閉口から半円状に広がった中心で一心に本を見つめる、彼女の凜とした姿を。
ーーやった! 今日もいた!
それだけで東間は、今日一日を張り切って過ごせるほど有頂天になっていた。
「どうしたんだよ、気持ち悪い顔をして」
「いや、実は三世紀に一度と言っても過言じゃない程の、超絶美人な女子を発見してさ」
「はは、大げさだろ」
「本当だって」
「はいはい。俺には分からんがな!」
「見たら絶対に惚れるよ」
同級生と軽い会話をしながら、東間は昇降口から廊下へと続く。
その前をクラスメイトたちが様々な速度で通り過ぎていく中、東間だけはずっと彼女のことを考えていた。
俺から見えているなら、もしかすると向こうからも見えるかも知れない。
本に夢中になっていたとしても、その枚数には限界がある。それに、俯いた状態を人はそう長くは続けられないはずだ。
きっと電車が激しく揺れたら、外を見るはず。
東間は授業時間を目一杯使って、彼女と知り合うために掛かる日数を計算していた。
試しに読んでくださった方も、ブクマしてくださってる方も、ツイートから飛んできてくださった方も、読了ありがとうございます。
短くてスミマセンm(_ _)m