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2  ワンワン探偵団?

 次の日、豆花ちゃんの消しゴムと緑ちゃんのリボンなんか問題ではないほどの大事件が起こった。昼休みが終わり、外で遊んでいた生徒がわいわいと教室に入ってくる。


「キャァ」と悲鳴が上がった。女の子達が固まって騒いでいる。


「舞ちゃん、片っぽうの髪の毛……切れてる!」


 荒川舞はいつもクラスで一番の人気者の小雪ちゃんと同じ髪型であるツーテルだ。その片方がほんの少しだけ短いかもしれない。


 三組の視線が髪切り婆の孫である髪切ノノコちゃんに向いている。


『まずい! ノノコちゃんが人の髪の毛を勝手に切ったりしないのは、みんなもわかっているはずなのに……』


 俺がこの嫌な雰囲気をどうにかしなきゃと焦っている間に、勝気なノノコちゃんが視線に気づいて立ち上がる。


「私は無関係やで! 昼休みは小雪ちゃんと教室にいたんやから」


「そうや、天気が良いから外では遊ばれへんから、ノノコちゃんが一緒に居てくれたんや」


 雪女の小雪ちゃんは、四月の終わりとは思えない暑さにぐったりとしていたが、友だちが疑われたので弁護する。


「そんなん信じられへんわ。舞ちゃんがティーンズモデルに選ばれたから小雪ちゃんは嫉妬しているんと違う?」


 荒川舞ちゃんの取り巻きの女の子が、何故か小雪ちゃんを攻撃する。これも二年生の頃には無かった変化だ。美人系の妖怪である小雪ちゃんや緑ちゃんに女の子は嫉妬しているのだ。何故なら、クラスの男の子のほぼ全員がどちらかに惚れているから……だって小雪ちゃんは本当に可愛い!


「ちょっと冷静になりなよ。舞ちゃん、髪の毛は何処でいつ切られたの? 誰かが側に寄らなかった?」


 俺が小雪ちゃんの可愛さにぼんやりしているうちに、またしても学級委員の守くんが調査を開始している。


『出遅れてるぞ! 俺が三組の平和を守る隠れヒーローなんや』


 守くんが舞ちゃんに質問している間、俺は取り巻きの女の子がそわそわしているのに気づいた。


『あやしいなぁ。それに舞ちゃんの髪の毛、そんなに短くなってないし。普通、気がつくか? まぁ、女の子は気がつくかもしれんけど』


 髪の毛はよくよく見ないとわからない程度しか短くなっていない。男の俺にはわからないが、そこは女の子は違うのかもしれない。


「上田先生に報告しても良いけど、昼休みに校庭に不審者がいた事になったら、大騒ぎになるよ。引っ込みがつかなくなる前に、本当のことを言った方が良いと思う」


 舞ちゃんは真っ赤になって「もう、ええわ!」と頭を横に振った。


『あやしい! ほんまに髪の毛を切られたのなら、大事件や』と俺だけでなくクラスの大半の男子は思ったはずだ。


「ちょっと待って!」


 疑われたノノコちゃんが、舞ちゃんの髪の毛を結んでいる赤いボンボンが付いたゴムをむしりとる。小雪ちゃんが白いボンボンを付けているので、舞ちゃんは対抗心を燃やして赤いボンボンを付けているのだ。


「何をするん!」舞ちゃんは怒るが、ノノコちゃんは制服のポケットから折りたたみブラシを取り出して、髪の毛をとかしつける。そして、キチンとツーテルに結い直した。


さすがは美容院の娘だけあって手早い! とみんなが驚く。


「ほら、真ん中がズレてたから、片っぽうが短く見えただけや」


 疑惑の目が舞ちゃんに向けられる。


『まずい展開や! なんとかせな!』とは思うが、女の子の問題は難しい。


「舞ちゃん、良かったなぁ。髪の毛を切られるなんて、嫌やもんね」


 小雪ちゃんが微笑んでいる。可愛いなぁ!


「じゃぁ、不審者は居なかったんだね。良かったね、舞ちゃん!」


 また学級委員の守くんがまとめに入っている。でも、ほんまにそれで良いのか? 俺は三組の平和を守る隠れヒーローとして、舞ちゃんが単に分け目を間違えたとは思えない。




 もやもやした気持ちのまま昼からの授業を受けた。手帳をポケットから出して、もやもやの原因が何処にあるのか整理したいが、警察官志望の俺が授業をサボってはダメだと我慢する。


『終わりの会で舞ちゃんが謝ってくれたら、すっきりするんやけど……』


 名指しにはしなかったが、ノノコちゃんを疑ったのだし、小雪ちゃんが舞ちゃんを羨んでやらしたと仄めかしていたのを考えると、もやもやが止まらない。


 それに豆花ちゃんの消しゴムや緑ちゃんのリボンが紛失した件も解決していない。


『俺はダメや。ヒーローなんかやない』


 小雪ちゃんは、きっと舞ちゃんが意地悪をしたのだと気づいている。なのに、舞ちゃんが引っ込みがつかないとかわいそうだと、素知らぬ顔でおさめたのだ。ノノコちゃんもそれを承知したのだ。女の子の方が俺よりずっと大人だ!



 終わりの会で、舞ちゃんは口を閉じたままだった。俺は、もやもやした気分のまま校門を出た。


「なぁ、謙一くん! 一緒に帰らないか?」


「帰ろう! 帰ろう!」黒丞くんは守くんの言葉を繰り返すクセがある。


『嫌や』と断れなかったので、苦手な守くんと、もっと苦手な犬神の黒丞くんと帰る羽目になった。黒丞くんは、あちこちフラフラ行くので、守くんはいちいち注意しなくてはいけない。


 本来は俺がこの犬神を面倒みなくてはいけなかったのかもしれないのだと思うと、守くんには頭が上がらない気分になる。


「ほら、黒丞くん! 信号は守らなきゃいけないよ」


 ランドセルをつかんで、走り出そうとする黒丞くんを止まらせている。


「早く帰りたいんだ! 今日のおやつはホットケーキだよ」


 流石は犬神だけある! 俺も鼻はきくが、ここから犬飼の家で何が料理されているかまではわからない。しかし、興奮すると未だ人間に化けるのに慣れていない黒丞くんは、黒いシッポを出してしまう。パタパタ振っている黒いシッポを俺と守くんとで、車の運転手から見えないように隠す。


「シッポ! 隠して!」


「えっ? シッポ出てた?」


 黒丞くんがシッポを隠し、信号が青になったので、三人で渡る。


「謙一くんは三組が何だか変なのに気づいているよね」


 渡りきった黒丞くんが犬飼動物病院まで一直線に走って行くのを眺めながら、守くんが俺に切り込んできた。


「まぁね」


「じゃぁ、僕と謙一くんとで調査をしないか?」


 守くんは人間だ。狼少年の俺には気づかない事もあるかもしれない。本当は一人で隠れヒーローを続けたい気持ちもあるが、今の三組の雰囲気は危ないと感じている。


「良いかも! 二人で探偵団を作ろう!」


 ここまでは良かったのだ。守くんは賢いし、争いを嫌う良い男だ。なのに、地獄耳の犬神の黒丞くんが動物病院から凄い勢いで飛び出してきた。口にはホットケーキをくわえたまま。


「俺も! 俺も守くんと探偵団に入る!」


 犬神のくせに役に立ちそうに無い黒丞くんを探偵団に入れたくは無いが、守くんに抱きついてハァハァ顔を舐めそうな勢いだ。口の周りにはホットケーキのかすやバターやシロップがついている。それを守くんは慣れた手つきでハンカチで拭いてやっている。


『俺には黒丞くんの面倒をみるのは無理だ!』


 犬系の妖怪としては、犬神が人間にこんなに迷惑をお掛けして申し訳なくて、断る事ができなかった。


「ごめんね」と謝る守くんに、俺が謝りたい気分だ。


「名前はワンワン探偵団が良いんじゃない?」


 のんきな黒丞くんに、俺は言い返す元気もなかった。

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