5、転移魔法の対処方(弍)
「み、みんな、早く外に」
いち早く気ずいたのは、雪江だった。雪江自身それが何かは分からない、しかし、それはなにか危ない気配がするということが第六感、または本能のようなもので感じ取った。そして、声がかかったことでやっと思考が回復した教室内の生徒は突然閉まったドアを開けようとするが、
「な、なんで開かないんだよぉ」
「ま、窓もダメ、鍵なんてかかってないのに」
「ちょっとどけぇ、破片が散るぞぉ」
たまたま近くに椅子が有った男子生徒が椅子を持ち上げ、窓に叩きつけるが、
「だ、ダメだ、ヒビすら付いてない、クソ、なら何度でもぉ」
ガン、ガンと、窓に叩きつけるが、窓より先に男子生徒の限界が来た。
「ク、クソがぁ」
「貸せ、次は俺がやる」
近くにいた他の男子生徒が椅子を持ち上げ、また叩きつける。
(……この円、温かい?)
周りがパニックになっている時、龍牙は何故か冷静になっていた、そして、円に触れた時、疑問がわき上がった、周りは冷たい木の床、そして円だけが温かいのだ、まるで、人肌のように。そこまで考えた瞬間、龍牙の頭の中に声が聞こえた。
(そレをナンとかしたイか? )
「ッ誰だ! 」
(後ろダ、うシろ。かカカかか)
バッと後ろを振り向くも、誰も居ないしなにもない、有るのは自身が持って来たあれだけ、まさかと思い、それを掴む。
「まさか、てめえが」
(そう、オれだよ、おレ、いや、俺等ダったなぁ、かカカカか)
「まさか、あれは本当だったか」
(イいから、ハヤく俺等ヲだしテくれよ、早くぅ、俺等ならあれハ切れるからよぉ)
「チッ」
もはや袋を開く時間さえ惜しい。袋のてっぺんに噛みつくと一気に引き裂いた。2つになった袋、そこからは二振りの刀が出てきた。一本は全体どこか刀身も黒く、異様に重い太刀、名を妖刀鬼骨一文字、もう一本は血のような紅の小太刀、名を妖刀血濡れ烏、どちらも竜明の部屋から持ち出した物だ。
(かカカカカ、娑婆だぁ、娑婆だぜぇ、相棒)
(カァッカァッカァッああ、娑婆だぁ)
久しぶりの外、それも封印の札ごと破れ、刀身が外気に触れる、それまで溜まっていた妖気が一気に流れ出る。そしてそれはクラス内の人間、全ての本能に注意を促す。
「りゅ、龍ちゃん、何なの、それは」
「や、やめて、それを早く納めて、龍君」
近くにいた二人が静止の声をかける。しかし、龍牙は応えない、否、応えられないのだ、龍牙の中、そこには、鬼骨一文字、血濡れ烏の意識が乗っ取りをしようと、龍牙の意識と争いをしているのだ。
(ッ、おとなしく、しろぉ!)
(カカカカカ、嫌なこったぁ、なぁ、相棒)
(カァッカァッカァッ、全くだぁ、なぁ、相棒)
力の大きさはどちらも同じ、否、わざと二振りが同じにしているのだ。そして、龍牙が内部で格闘する間、円がゆっくりと上がり始めた、円が通り越した先、そこはここでは無いらしく、ひんやりした空気が足に触れる。その時だった、龍牙の中での闘いが突然終わった。
(俺は、やりたいことがあるんだぁ)
(知ってるさ、姉に会いたいんだァろお)
(ッ!だから、だからこそ、おとなしくしやがれぇ!)
(カァッカァッカァッ、大丈夫だぁ、あの女子はわし等が遊んでやるからなぁ)
(カカカカカ、お前が遊んだら、壊れるだァろ)
(違いねぇかぁ)
(カカカカカ。カァッカァッカァッ)
ゲスい声が龍牙の頭に響き渡る。その瞬間、教室内全ての人間は、龍牙を中心に、音が響き渡るのを聞いた、まるで鉄をねじ、引きちぎるかのような音が響き渡ったのを。
異世界はまだまだ先です。
もう少し待っててください。