3、過去の人の言葉って意外に当たると思った件について
「黒、お前、先に教室の中に入ってるか」
「ワン」
「よし、だったら話は早い、やるぞ!」
そう言うや否や、龍牙は校舎の壁に背をつけ、まるでバレーボールのアンダーパスのような体勢になると声をかけた。
「よし、来い黒!」
「ワン!」
黒は一声吠えると一気に駆けた。ぐんぐんと黒の白い体が近ずき、龍牙と接触する瞬間、龍牙の構えられた腕が持ち上がった。そして黒はその腕を踏み台にし、さらに高く跳んだ。
「ワン!」
黒の声が頭の上から聞こえる。どうやら無事に入ったようだ。
「よし、無事だな。俺はちょっと校長のじいちゃんと話してくるから、そこで待っていろよ」
「ワン」
黒の声が返ってきた瞬間、龍牙の後ろから声が聞こえた。
「それには及ばんさ、龍牙君」
「来てたのか、校長じいちゃん?」
「ついさっきな、元気な声が聞こえたから誰かと思ったら、君達だったか」
「なぁ、校長じいちゃん、黒って今日ここに居ていいかなぁ」
「まぁ、大して悪さもしないんだろ、ならいつでもいいさ」
「いけません、いけませんよ、校長先生!」
嫌なやつが来た、そう思った龍牙の口から、舌打ちがし、精一杯嫌な顔をして振り返った。そこには、カツラの男がいた。
「チッ、なんだよ教頭」
「学校に動物を連れて来たらいけませんよ、龍牙君?」
(ウゼェなぁ)
「生徒手帳に無いからいいだろ教頭それに、校長じいちゃんに許可取ったんだよ」
「それでもいけませんよ、龍牙君? だいたい何ですか?その大荷物は?」
「あぁ、忘れてた、校長じいちゃん、これ頼まれてた猪の燻製」
「おぉ、ありがとう、これで酒のつまみが増えたよ」
「まさかの取引ですか、校長先生!」
龍牙が背中に背負った大荷物、中身は山で捕れた猪の燻製だった。そして、酒のつまみがただで貰えてうれしくなった校長は、簡単に許可をくれるのがいつもの事であった。
「よし、龍牙君、黒を教室のベランダだったら置いておいていいぞ」
「いや、校長先生? 駄目でしよう?」
「さぁーて、ワシは仕事しようとするか」
「早めに食べてね、校長じいちゃん」
「おう、分かった、分かった」
「龍牙君、少し話が……」
「さぁ、俺も教室に行くかぁ」
教頭の声など聞こえん! と言わんばかりにスルーすると、龍牙は二階の教室に向かい、校舎の壁をよじ登り始めた。後には、カツラが風で揺れる教頭だけが残さった。
どうも、大日です。
当たったのは、噂をすると影、です。