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鬼狼の刃  作者: 大日小進
一章、異世界編
40/42

37、名付け

どうも皆様、大日です。

約1ヶ月ぶりの投稿、お待たせしました。

 崖の上では、すぐそばにツルハシとシャベルを置いた男と狼の群れが向かい合い、座っていた。


「「「「子供達(ガキ共)を助けていただき、ありがとうございました」」」」

「いや、そんな(あたま)下げられる事はしてねえ」

「それでもガキ共は宝だ、こんぐらいの事はしねえと」


 男の名は鬼刃龍牙。ゴーレムの道連れにより崖から引きずり落とされ、自由落下の末、流水に巻き込まれ、奇跡の様な幸運で迷宮百七階層の川を桃太郎よろしくどんぶらこと流され崖を命綱無しで登り挙げ句の果てには人一人通れる穴を掘り、今ここにたどり着いた男で、その彼の前で座っているのは、この百七階層を東西南北で分けて支配する狼達であった。


「ああ、じゃあ疑問に思った事言っていいか?」

「いいぜ、俺も一つ聞きたい事が有るからな。一緒に言うか?」

「おお、同じかどうかは分からんが試しに一緒に言うか」

「「何で俺(俺達)の言葉が話せる?」」

「ん?」

「あ?」


 問いは同じなのだが、問い掛けた龍牙と東の(かしら)が同時に首を傾げた。何かがおかしいと、相手がわざわざ同じ言葉を使ったのではなかったのかと、


「いやいやいや、え? 何お前ら日本語喋ってるんじゃ無いの?」

「ニホンゴ? 何だそれ?」

「今お前喋っている言葉だ」

「いや、これはそのニホンゴでは無く、我々の共通語だが」

「共通語? だったらゴブリンとかと通じるのか?」

「いや、どうも違うらしく俺達が奴等の言葉を聞いても『ゴキ』だの『ゴキャキャ』だの訳の分からん事を言っている様にしか聞こえん」

「う~む、そこんとこは俺と同じか」


 顎に手を当て龍牙は考える。考え、考え、考え抜いて───、


「グゥ……グゥ……」

「寝るなぁぁぁ!」

「はっ!」


 まぶたがいつの間にか落ちていた。


「おまっ俺達が真剣に考える中でよく寝れるな、オイ!」

「すまん、崖登りの疲れが今出てきた。だがいくつか仮説が出来たぞ」

「…………言ってみろ」

「先ずは一つ、俺の固有スキル、言語翻訳。これはあらゆる言語を自動的に所有者の分かる言葉に変換するスキルなんだけどよぉ……」

「恐らくだがお主のそのスキル、ヒトの言葉にしか作用しないのでは?」

「大当たり、雲月(うんげつ)

「雲月?」

「ああ、西の、だと分かりずらいから勝手に付けさせてもらったが、いいか?」

「いや、わしはいいですが……」

「西の!お前だけずるいだろ!」

「……私も、私も欲しい」

「ちょっと! 私にも名前付けなさいよ!」

「あ、僕も欲しいです」

「「「「御頭(姐さん)だけずるいっす!俺等にもください!」」」」

「え~、何これ?」

「我々魔物は名持ち(ネームド)になると力が上がりますから、本能的に名を欲するんですよ」

「なるほど、だから名前にここまで執着するの──「……お願い、名前をちょうだい」だぁぁ! わかった、わかったから待て!」

「いよっしゃぁ! 名前だ! 名前が着くぜぇぇぇ!」

「うるせぇ!」

「ふぼら!」

「「「「御頭ぁぁ(東の兄貴ぃぃ)(東のぉぉ)!?」」」」


 東の頭が、名前を貰えると騒ぎ過ぎ、龍牙に手加減されたものの、かなり強烈なアッパーカットを叩き込まれ、気絶する中、名付けは始まるのだった。

 因みにだが、何故龍牙が狼の言葉を理解し、更には話せるのかは、いつの間にか皆、それほど重要では無いと判断し、いつか又考える事となった。


そして三十分後………


「ぜぇ……ぜぇ、これで……最後か……?」

「はい! お願いします!」

「よし……お前は南の所属だから、南の千蔵(せんぞう)だ」

「ありがとうございます! オーイ、西の千蔵、東の千蔵、北の千蔵ぅ俺も名をもらったぞォ!」

「おめでとう、南の千蔵」

「よっしゃ、後で頭に頼んで狩り行かせて貰おうぜ!」


 四匹いる千蔵の騒ぐ声をBGMとして聞き流し、龍牙は消耗した魔力と、途中足りなくなった為、気合いと言う謎の理由により魔力に無理矢理変換した為、既に一桁しか残っていない生命力の回復をしていた。(因みに、後で確認したらスキル、『体力、魔力変換』を獲得していた。)


「きつかったぁ」

「……お疲れさま、我等の皇」

「皇って何?」

「……わからない、でも貴方はそう呼ばないといけない気がして……」

「そうか……」


 ステータスの称号の欄には、『狼帝の資格』が有る為、あながち間違いでは無いのだが、そんな称号を取った事すら既に記憶の彼方に放り捨てていた龍牙はもう一度、そうか、と呟くと瓢箪の中身を飲み干し、先程群れの者が持ってきた葉にくるまれた梅の種程のサイズの木の実をかじり、


「何これマッズ!」

「…………あ、それ水と一緒に飲み込む」

「もう少し早く言ってね、それ!」


 あまりの不味さに吹き出した。


それから約五時間後………


 龍牙はなんとかあの不味い木の実を全て飲み込み(栄養価は高いが、あまりにも不味い為、狼達も緊急時以外食べたく無いらしい)、歩き続ける事約五時間、龍牙達は百七階層と百八階層を繋ぐ階段にたどり着いた。


「え~、本日はここで野宿をします。誰か異論の有る人はいますかー」

「いませ~ん」

「よーし、誰かわからないけど返事ありがとう。でだ、焚き火をするから北の伊助から宗次までは焚き火に使う枯れ木を採取、残りは夕飯の為の鹿なんかを狩ってきてくれ」

「質問、その間皇は何をするのですか?」

「俺? 俺はその間に火を起こす。よし、やることは分かったな、総員、行動開始!」

「「「応っ!」」」


 バッと勢いよく腕を上げるとそれを合図に狼達はそれぞれの目標を目指し辺りに散った。


「さぁて、俺もやるか」


 コキコキと首を鳴らし、龍牙は火打ち石を手の中で(もてあそ)び黙々と枯れ草を集め始めた。



更に約一時間後………


 太陽は無いが辺りはすっかり暗くなり、夕食を終えた龍牙は座布団兼敷き布団代わりの鹿皮の上で北の頭、『粉雪(こゆき)』の頭を撫でながら本を読んでいた。


「………皇、何を読んでいるの?」

「ん? じいちゃん(とこ)からちょいとちょろまかした本」

「おもしろいのか、そんな物?」

「まあまあだな。だが一つおもしろい物が見つかった、『血族の儀』ってやつだ」


 『血族の儀』、それは大気に魔力や神気などの力が満ち、怪異が最も力を奮っていた平安時代に作り上げられた術の一つ。

 あまり努力せずとも、楽に強くなってしまい、一度繋ぐと二度と外せないため、厳重に封印され、鬼刃家一族に伝えられる禁術の一つ。

 そして、鬼刃家の当主は代々皆、使ってはならぬと先代から教えられるのだが、この男、先代、鬼刃龍暗からも、先々代鬼刃竜明どちらからも教えられて無い。

 それにこの男、レベルを上げて物理で殴るを体現する様な男である、竜明が使わないと予想してしまい、使うなと注意する事を怠ってしまったのである。


「ま、材料が足りないから出来ないけどな」


 パタンと本を閉じるとアイテムボックスにしまい、「構え構え」とあぐらをかいた足の上に登って来る子狼達を抱えると、


「ほ~れ、姉狼の上に弟狼、弟狼の上に次男狼んでもってその上に三男狼ぃ」


 粉雪の頭に乗っけ始めた。


「……皇、重い」

「皇様、ちぃ~がぁ~う!」

「俺達()遊ぶんじゃないの!」

「僕達()遊ぶの!」

「……貴方達暴れない」

「「「ごめんなさい……」」」

「んじゃあしょうがないなぁ」


 そう言ってしぶしぶと龍牙は粉雪の頭から子狼達を下ろすと、


「おーてーだーまー」

「皇様、止めて」

「うっぷ、気持ち悪い」


 お手玉し始めた。

 しかも、


「スピード、アッープ!」


 容赦なく加速しながら、


「ちょっ本当止めて」

「ごめんなさい文句言ってごめんなさい」

「あ、ダメ。何か来る、喉の奥から何か来る」

「……皇、ちょっと止めて。そのままだと私にも…………」


 慌てて周りが止めようとするが、半寝ぼけの状態の龍牙の耳に入る訳も無く、更に加速、そしてついに、


「うっぷ、オエエェェエ」

「……イヤァァァ!」

「ギャァァァア!」

「どうしたお前ら!」

「何よ、うるさいわね、寝れないじゃない!」

「いや、姉さんさっきまでぐっすり寝てたじゃん」

「おうおう、こりゃ大変ですなぁ」


 子狼達が吐いた。

 この後、子狼達と粉雪、自身の体を洗いついでにブラッシングした為、龍牙は徹夜したのであった。


どうも皆様、大日です。

1ヶ月ぶりの投稿になります。

未だにスランプを抜けられぬ為、投稿はかなり遅れます、ご了承ください。


スキル『体力・魔力変換』

体力から魔力を、魔力を体力に換えるスキル。


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