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鬼狼の刃  作者: 大日小進
一章、異世界編
38/42

35、夢の中の会合

『───ア、アア……ちゃん…………ウァァァア"ァア"アア"ァア』

(何処(どこ)だろう、知らない声が? いや、どこかで聞いた声か、これは。それにこれは泣いている?)


 ぼんやりともやのかかる意識の中で龍牙は雨が振り、道路に落ちる中で、一人の少年と女性がいるのを見下ろしていた。女性は歩道に血を流して倒れ、少年はその横で天を仰ぐ様に涙を流していた。


『龍……ちゃん…』

『っ! 姉ちゃん! ダメだよしゃべっちゃ、血が止まらないよ!』

『フフ、ダメでしょ男の子が……そんなに泣いちゃ』

『待ってて、今救急車呼ぶから!』

『ありがとう、龍ちゃん。でもね……もうダメ。もっと……もっとたくさん龍ちゃん達と……いっしょにいた……かったけど』

『嫌だ! 姉ちゃんは俺といるの、いつまでも俺といるの!』

『フフ、ワガママばっかり……やっぱり龍ちゃんはかわいいね……お野菜はしっかり食べるのよ? 春ちゃんと……ちゃんと仲良くするの、出来る? 雪ちゃんの言うことはしっかり聞いて、できるよね……何てったって……貴方は私の……私の自慢の……弟なんだから』

『姉ちゃん! ダメ、目を閉じないで! 姉ちゃん!』

『大丈夫よ……私は…いつまでも貴方の……隣にいる……か……ら』

『姉ちゃん?! 姉ちゃん目を開けて! 姉ちゃん!』

『本当に……ごめん…ね。もう体が……うまく動かないや……』

『姉ちゃん? なんで? なんで俺の手を握ってくれないの? 姉ちゃん、起きてよ、起きてよ姉ちゃん。やだよ俺、姉ちゃんがいないとやだよ!』

(そうだ、思い出した。これはあの日だ)


 あの日、それは龍牙がもっとも思い出したくない日であり、もっとも記憶に止めている日。姉、久美子の死んだ時の事だ。

 あの日、龍牙は久美子と共に下校中、強盗に遭遇、久美子が龍牙を(かば)いナイフを刺され、致命傷を負い、龍牙は久美子が命を落とすと共に意識を無くし、気が付いたのは犯人が「鬼が、鬼が来る」と衰弱し、うわごとを吐き自首したそれから三日後、山の中腹で血まみれの状態で発見され、病院で包帯を巻かれている途中だった。


(今更ながらまだ俺は引きずっているのか)


 と、情けない自分に嫌気が刺したのか、歯ぎしりをしていると、後ろから気配を感じた。


(誰だ?)


 そう思い、振り向くと、


(よう)


 額に角を生やした狼の顔の筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)で虎柄の腰巻きを巻いた男がいた。


(いや誰?)


 この反応は誰でもするだろう。龍牙はその時そう思った。



………五分後


(すいませんでしたッ!)

(ウハハハハ、いいっていいって、間違えは誰でもするから。ウハハハハ)


 夢の方の龍牙が姿を消し、いつの間にか停止していた世界で龍牙は見事な程に綺麗な土下座を決め、男は笑って止める。

 こうなったのには男の自己紹介が原因だった。それは、


(俺の名は狼鬼(ろうき)。面と向かって話すのは初めてだな、ここに来る前は神社で奉られてたただの鬼だ)


 お前が良くお参りする神社の神だと遠回しに言ったのだった。

 同然驚く龍牙だった。

 何故ならこの男、テストで高得点を取ったり、試合で優勝する度に神社に走って報告する程である。

 しかし、同時に腑に落ちない事も、何故自分にこの神は憑いたのか、あの中には、神社の息子の、


(東谷(ひがしや)がいるのに何故俺なんだ?)


 東谷(ひがしや)西雄(にしお)。狼鬼の奉られてた神社の息子にして天職、陰陽術師をもつ男。

 その男の方が本来ならば適任の筈である。


(お、知りたいか?)

(まあ、一応は……)

(それはだなぁ…………)

(それは?)


 無意識に龍牙の(のど)がゴクリと鳴る。狼鬼は散々勿体つけると、声高らかに言った。


(お前の家が毎年奉納する酒の方が俺の好みにあっているからだ! )

(そんな理由かいっ!)


 停止世界に龍牙のツッコミが響き渡った。



………更に五分後


(───んでよ、生意気にもその女がよ、へなちょこな弓射って『やった! 』とかすげえやりとげた感じの顔で言うからよ、少しムカついたから平気な顔で『今何かしたのかぁ? 』って当たった胸かきながら言ったらすげえ絶望した顔してよぉ…………おもしろかったぁ)

(うっわ、ひっでえ、結構予想してたけどそれよりひでえ!)

(ウハハハハ、そんなに誉めるなって)

(クハハハ、誉めてねぇって)

(にしてもこの酒も旨いな、何処のだ?)

(あれだよあれ、英雄の武道大会の優勝した賞品)

(ああ、天ちゃんがいたやつか)

(天ちゃん?)

(天照だから天ちゃん)

(なるほど)

(そういえば天ちゃんの所におもしろいのがいてな───)


 狼鬼の昔ばなしが進み、


………更に更に五分後


(──お前の武器に『国崩し』ってあったろ、あれを先詰式から後詰式にしたら弾込めが早くなる)

(なるほど、そんでもってそこに圧縮処理した竜核をはめ込めば)

(ああ、魔力を一々溜めなくても竜核から出る魔力で今まで以上に速射が可能になる)


 武器の設計を見直した。


………それから十分後


(設計図は持ったな)

(ああ)

(じゃあな、龍牙。酒旨かったぜ)

(そっちこそ、つまみの肉旨かったぜ)


 ホロホロとまるで上へ上へと崩れ始めた世界で、国崩しの設計図を握り締めた龍牙と、酒の入った一升瓶を五、六本纏めて指の間に挟んだ狼鬼が向かい合い、立っていた。


(さあ、さっさと行け、じきにこの空間もお前の目覚めと共に消える)

(おう、何から何までありがとう)


 ふわりと、龍牙の体が浮き上がり、周りの世界と同じように崩れ始める。


(いい忘れていたが、狼鬼化は後一回しか使えないからなぁ! それ以上使うと体が崩壊するぞ!)


 まるで散歩のついでに醤油買ってきてといった感じの気楽な忠告をする狼鬼に返ってきたのは、


(もっと早く言えやアホォォ!)


 同然、怒声だった。



……

………

…………


「………うぇくしょん!」


 下半身が冷たい何かにさらされて、体が冷えているのを感じ、目が覚めた。自分が流れていたらしい川の水を吸って重くなった竜翼を捕食で喰らい、人の肌に直すと、服についた砂をはらう。パンパンと砂をはらっていると、違和感が沸き上がってくる。

 それは、


「白すぎる……」


 不自然な程、砂が白いのだ。

 それに砂に混じって輝くガラスの様な石。その内の一つを手に取り、川の水で軽く洗い噛み砕く。ガリッと言う音と共に魔力が溢れる。魔力が無くなると口の中もなにも無くなる。それの正体は、魔物の魔石。それもかなりの高純度、更には川の魔力が混ざった水で研磨され、そのままでも加工する事が可能な程傷が無く、めったにお目にかかる事が出来ない代物。

 龍牙は知らなかったのだが、その川原は一定の周期になると、ある種のネズミはその種が増えすぎると、自然のバランスを保つため、集団で飛び込み自殺すると言う習性を持つが、それと同じ事を魔物がする川原なのだ。

 三十分後、川原はあちこちが掘り起こされ、魔石と言う魔石が掘り出され、更にその三十分、直径約一メートル強の竜種の魔石と核が出現。川原には歓喜の声が響いた。


どうも皆さん、大日です。

鬼狼の刃35話更新です。

再来週はテスト関係により、投稿出来ないかも知れません。


竜種の魔石と核について

本来、魔石と核は魔物の体の中で一つになって心臓に入ってますが、竜種などの高位種になると、魔石は心臓、核は人で言うへその辺りに移ります。そのため、竜種など高位種は魔石を破壊されても、核を使って生き、また逆に核を破壊されても魔石を使って生き、その為、竜種は二度生きると言う言葉が有るほどです。二度目の戦いを避けるには一撃で首を飛ばすか(ヒュドラなど再生能力が高い種には効果は低い)、同時に魔石と核を破壊する、そもそも戦いを挑まないなどの方法が有ります。

因みに黒牙は魔力の無いただの狼から進化したため、高位種ながら魔石も核も持ちません。

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