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鬼狼の刃  作者: 大日小進
一章、異世界編
33/42

30、共闘

 迷宮のある休憩場で多数の笑い声が響いた。


「お化けっておまっ」

「ウハハハハ、お化け、チートがお化け扱い」

「待って、腹痛い、お化け……プハッ」

「フフフ、お化けと間違えられるなんて。災難ね、龍ちゃん」

「言うなよ、雪姉。あれかなり精神に来たんだから」

「確かに、殿はあの後部屋で真っ白に燃え尽きてましたから」

「そうだよ、お姉ちゃん。龍君にひどいよ…………プハッ、ダメだ、がまんしようとしたけどダメだ、お化け、お化けの正体が龍君、アハハハハ」

「春美ぃ、結局お前も笑ってんじゃんか!」

「元気っすねぇ、がき共」

「そうだな……」

「隊長元気ねえな」

「どうも龍牙の野郎のお化け騒ぎの発端、隊長らしいぞ」

「それで隊長昨日土下座してたのか?!」

「おう」


 ここは十階層毎に設置されているボス部屋に入る前に簡易的にだが、装備を整える為に作られた休憩室。ここはモンスターが湧かない為、そして、かなりのスペースが有り、休憩場として使うには最適なのである。

 そんな場所で龍牙は、


「はい、火と風の魔短剣それぞれ三本完成。後、雪姉の杖と春美のレイピアも魔改……改良しといたから」

「サンキュー、龍牙」

「お~、何この短剣、色ついててかっけぇ! 」

「待って龍君、今、魔改造って言わなかった? 」

「……」

「ちょっと、目をそらさないでよ!大丈夫だよね、これ! 」

「ありがとうね、龍ちゃん」

「どうしてお姉ちゃんはそんなに自然体なの?! 」

「それは私が貴方達のお姉ちゃんだからよ。それにほら、綺麗なアクセサリー」

「俺の自信作ぅ~♪」

「答えになってない?!」


 鍛冶をしていた。それも、耐火性の手袋をせず、素手で、熱くないのかと兵士や皆が聞くが、その答えは、


「全属性と状態異常耐性の中に炎熱耐性と火傷耐性があるから大丈夫」


 これであった。

 着々(ちゃくちゃく)と鍛治で使った鎚や、金床をアイテムボックスにしまう龍牙に、「答えなさいぃ~」と春美が龍牙の頬をにょ~んと伸ばしている最中、アイザーは手の中にある魔短剣に視線を落とした。

 一見、ただ赤みを帯びた短剣。普通ならそれが正常、しかしそれが魔剣なら異常だ。魔剣、それは本来鞘から抜くとその刀身に火なら炎を、風なら風を纏うのである。だがこの短剣はどうだ、普通の短剣にしか見えない。

 どうすれば魔剣として機能するのかと、首を傾げるアイザーに見かねた龍牙は頬に伸ばされた手を顔を振って振りほいたが、そのまま胸ぐらを掴まれ前後にガクガクと揺らされたまま、助言をした。


「おっさん、魔力、魔力込めないと」

「魔力? しかしどこに? 」


「ちょっと貸して」と言う龍牙にアイザーは短剣を手渡した。

 クルリと鍔に指を引っ掛け回すと、持ち手と鍔の間を撫でる。カチリと音が鳴り、鍔がスライド、中からレモンの様に端が緩かに尖った細かい線の入った水晶の様な物が、内蔵されたバネで飛び出る。


「何それ?」

「加工した魔石」


「「「「ハアッ?!」」」」と一斉にアイザー達が叫ぶ。

 加工された魔石を内蔵された魔剣、それは、今の時代、天職で鍛治職を持っていたとしても作れる者は一握りしかいない。そして作ったとしても、作った者は魔力枯渇を起こす為、あまり量産出来無いため、献上品にしか使われない。そんな高価な代物を、


「何であんな物で作れるんだよ……」


 金床と鎚、そしてスキルで作られた炎だけで作る。彼等の常識ではあり得ない事だ。

 しかし彼等は知らない、その鎚はミスリルなどの合金を使い、付与魔法をかけやすくされて、柄の木材は世界樹の中でも特にいい部分を使われた鎚で、スキルで作られた炎は炎で、魔力を大量に含まれた龍のブレスと同じ物。そんな物と完ストした鍛治スキル。

 それだけあれば、


「魔剣の一本や二本、簡単なのになぁ」

「だからお前の魔剣は国宝級なんだよ!」

「アイザーさん……」

「どうした正義!」

「扉開いてます」


 竜神の魔銀迷宮第10階層、ボス部屋の主は、


「ピギィー!」

「ゴキャケャ!」

「コゴキャゾ!」

「ブヒィ、ブホッブブ! 」

「豚肉と小鬼か」

「豚と小鬼ですね」

「いやあれオークとゴブリン!」

「豚肉と小鬼だろ? 豚肉は加工前だけど」

「確かに豚肉と小鬼でしたね」


 オーク数体とゴブリン数体なのだが、二人にとってはただの豚肉と小鬼にしか見えていなかった。それ故に、


「黒牙、焼き加減は何にする?」

「そうですねぇ……半生でしょうか?」

「倒す前から食べる算段をつけるのか!?」

「「うるさい(ですよ)、勇者」」

「あれ、これ俺が悪い、俺が悪いのか……?」

「前見ろ、前」

「ブヒャァ!」

「へ? ぬおっ!」


 腰の長剣を急いで抜きオークの石斧を受け止めるが更にゴブリンが横から棍棒を振るう。


「くそっ、聖剣召喚!」


 召喚した聖剣で棍棒を受け止めるが、その隙にオークは自身のスキル、筋力増加を発動。

 ギリギリと、音を立て長剣が押され始める。


(もうダメだ!)


 乙木がそう思った瞬間、オークとゴブリンが宙を舞い、落ちた。


「へっ?」

「貸し一つな、勇者」


 突然の事に呆然とする正義。その視線の先には、


「壁?」

「壁じゃない、盾だ!」


 体を隠す程に馬鹿でかい壁もとい、盾を両手に二つ持った龍牙が立っていた。


「おい、何ボケッとしてんだ?死ぬぞ」

「ハッ!」


 あまりのデカさに唖然としていた乙木だが、投げつけられたバックラーが顔に当たる寸前に受け止め、いそいそと装備すると、龍牙の隣に立った。


「オークが1にゴブリンが3か……」

「いや、オークは2に増えたがな、どうした? 今更怖じ気ついたか? 」

「まさか、君と言うチートがいるんだ、むしろハイってヤツだよ」

「上等上等。さて、こいつら殺して先行こうか」


Sideクラスメイト、兵士達


 襲って来るゴブリンの群れを転移者達と全て全て倒した護衛兵達は今だ戦闘をわざと手を抜き、終わらせない龍牙とそれに気付いていない乙木を見て驚愕していた。


「オイオイ、マジかよ」

「勇者と侍が共闘とか……」

「帝国騙してそれ知られたら終わるな」

「でもその方が俺達も姫様もありがたい気がする……」


 勇者と侍、片や護国の戦士、片や国滅ぼしの狂戦士、それは反対に位置し、その性質故に反りが合わず、反発し合うそんな天職だった。それが今、


「スゲェコンビネーションかけてやがる」

「てかさ、謎なんだが盾二つでどうすんだ龍牙のヤツ?」

(はじ)いて潰すんじゃね?」

「いや盾から杭が飛び出て貫くんだよ、きっと!」

「ハハハ、んな訳ねぇだろ!」

「ハハ、夢見るのも大概にしろよ、ロマンだけどよぉ」

「オラァ!!」

「「「「マジでパイルバンカーでしたか、それ…………」」」」


 倒し方に疑問を持っていた一人がふと呟き、それにロマンで返したもう一人が笑われる中、龍牙は最後のゴブリンの棍棒を弾くと盾の底をゴブリンの腹に当て、持ち手のグリップを勢い良く握った。ガシャンと金属の擦り合う音を立て飛び出した巨大な杭がゴブリンの腹を突き背中から頭を出し、止まった。

 それを見て、思わず敬語になっている同級生を尻目に、腹を破られ虫の息になったゴブリンの頭を踏み潰した。グシャッと脳髄などの液を飛び散らしたと同時に、


「最後の、一匹!」

「ピギャァアァア!」


 勇者も終わった。


どうも皆様、お久し振りです。

30話お楽しみください。


装備説明


牛鬼の大盾

龍牙の体がすっかり隠れる程、とても巨大な盾。

神珍鉄やヒヒイロカネの合金製。

盾の上部には魔石を加工した覗き窓があり、持ち手のグリップを握ると底部から杭が飛び出す。 

杭は地面に打ち込み固定することも、相手の攻撃を弾きその隙に打ち込み致命傷を負わせることも可能。

一度放つと再装填に十秒程タイムラグがある

杭は三つついている

イメージ ダークソウルのハベルの騎士の盾を四角くし、鎖を無くした感じ


魔物簡易図鑑


オーク 妖人族

豚の頭に人の体がついている魔物。

体は厚い脂肪と筋肉の二段構えの為、頭を狙うと倒しやすい。

ゴブリンとほぼ同じ性質(文明レベル、繁殖方法など)を持ち、共生している物もいる。

肉は魔力が少ない割にはとても美味。

亜人とは異なる先祖を持つ。

(亜人種 人が環境や魔物の体液を誤って摂取してしまったなど外的要因により進化した者)

(オーク ボア系統の魔物の突然変異)

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