28、道中
今回は少し長いです。
28話お楽しみください。
ガタガタと音を立て何台もの幌馬車が街道を走る。幌にはアルバス王国の紋章。その中の一つに龍牙と黒牙は乗っていた。ただし、
「ふくぁぁ」
「眠そうですね、殿」
「当たり前だろ、やることねーし」
「まあ、確かに」
貰った懐中時計の蓋を無意味にパカパカと開けたり閉めたりする程、かなり暇でだが。
時折出てくるスライムなんかは兵士達が狩ってしまい、また馬車の中は狭い為録に体を動かす事も出来ない。
時計を確認すると馬車で揺られて三十分、そろそろ我慢も出来なくなる。
「黒牙、俺達だけで先に行くか?」
「場所わかるんですか?」
「…………わからん」
「じゃあだめじゃないですか」
「いやわかっていても勝手に行かないでくれよ!」
バッと御者台から振り返ったのは、引率と護衛の為、乗り込んでいたアイザーだ。すぐさま止めようとするのは引率の責任者として正しいことだろう。
ただし、
「いやそれはこいつで」
「ッ! それはまさか!」
「そう! 昨日渡した旨い酒だ!」
「く、クソッ卑怯だろ!」
「クハハハハ、何を言っている?なあ、黒牙?」
「フハハハハ、そう、そうですよ。良く言うでしょう? 勝てば良かろう、と。さあ、この香ばしい匂いに夏の虫の如く堕ちるがよい!」
「何だ、何なんだその匂いは!?」
「フ、スルメだ」
酒でつられて揺るがなければの話しだが。
黒牙が悪役の様な笑いを上げ、七輪でスルメを炙りながら団扇で匂いをアイザーに飛ばしている中、龍牙は瓢箪の中身を徳利に移し変え、アイテムボックスから鉄のインゴットを取り出すと土魔法の"形状変化"で鍋に作り替え、水魔法の"水球"で鍋の中に水をため、火魔法の"焔纒"で鍋底を直接温めていた。そして完成したのは、
「さあ、さらにこの熱燗を着けてどうだ?!」
熱燗だ。
「グッ、悔しい、悔しいがしょうがない、それを俺にく…………」
「何やってんすか隊長。もうつきますよ?」
「……」
「……」
「……」
「あ、あれ?」
沈黙とジト目が声をかけた兵士に襲い掛かり、
「黒牙、すべてしまうぞ」
「はい」
「俺の酒ェェェ!?」
「るっさい、もうつくならこの酒とつまみの交渉は無しだ」
「オデノサケ"ガァ゛ァ"ァ"ァ"」
「す、すみません隊長」
皆が「そろそろかぁ」と降りる準備をする中、何処かのトランプがモチーフでウェイ!! な仮面戦士特有の言語の様な物を使いアイザーは血涙を流していたがほっとかれていた。
[竜神の魔銀迷宮]
過去の英雄として知られている竜明とその部下達が過去に見つけた迷宮の一つで、竜明曰く、全階級百階と伝えてられているが、迷宮の性質上、いまだに増えている。
また、以前は、国有数のミスリル鉱山だったが、今はミスリルも取られ尽くし、ただの魔物の沸く迷宮となっている。
このように危険なのにそのままにされているのには訳がある。
まず、階によって魔物の強さが分かれており、挑戦者の強さが分かりやすく、例えば三流なら三十五階、二流なら四十階、一流なら五十階まで楽に突破出来ると言う一種の強さのパラメーターである。
また、この迷宮から出てくる魔物の素材や魔石は、草原などの野生の魔物の物と比べ、ワンランク上の質を持っているからである。ワンランク上だと何が変わると問われると、魔石なら貯蔵出来る魔力量が同じ種の物であっても多くなり、素材だと強靭度が高まるのである。
そして、迷宮に潜るハンターなどの挑戦者が落とす金を求め、商人達が集まり、その商人達が泊まるための宿が増え、更に挑戦者達が増える、とループし、結果的に国に大きな得をもたらすため、国も最深部の核を破壊しないのである。
「まっさかじいちゃんがここ見つけたとはなぁ。あ、このでかいのミスリル鉱石だって」
「感慨深い物ですねぇ。あ、こっちはサファイア原石らしいです」
「いやちょっと待てお前ら」
「ん、どったの?」
「どうしました?」
「どうしたもこうしたも無いだろ! 何で廃鉱になった迷宮で普通にミスリルだのサファイアだの見つけられるんだよ」
「いやそれは、ねぇ」
「まあ、俺達だからとしか言えんな」
一端宿を取り、荷物を置いた後、迷宮に兵士達と共に二グループに別れ潜った一行だが、当然の如く、二人がやらかした。
龍牙はツルハシを使って迷宮の壁を削ると、あまり掘ってないのに関わらず、大きなミスリル原石を掘り出し、黒牙は黒牙で何の気なしに蹴り上げた石を取ったかと思うと、その石が実はサファイアの原石だったりと、高額、また高性能な魔法補助アイテムになる素材ばかりなのである。
ただ、問題はそれだけでは無い、
「お前ら、それでいくつ目だ」
「えーとっ、俺はさっきのを含めて4回目で取ったのはでかいミスリルと中ぐらいのが二つづつ」
「私も4回で殿と同じです」
「そうだよ! おかしいだろお前ら! 何でそんなにポンポン希少アイテムが掘れんだよ!」
周りもウンウンと頷く。
しかし、ここは迷宮、そんな大声を出していれば、
「ギャギャ、ギゲゴュガ!」
「グギャギャ、グュギャ!」
「ゲギャ! ギジャベュ」
「ゴキャキャキャキャ!」
曲がり角から何体ものゴブリンが現れた。
「おーおー、かなり出てくるなぁ」
「ひぃふぅみぃ………大体十体ですか」
「いや黒牙、惜しいがまだいる」
龍牙は、訝しげに見る黒牙をスルーし、おもむろにアイテムボックスから投げナイフを取り出すと一気に投げた。投げられたナイフは天井に飛んでいき、
「!!」
「スライムが後一匹っと。あ、後アイザーのおっさん、あれ俺で始末するから」
「わ、わかっ──」
龍牙は自分から聞いたにも拘らず「わかった」の「た」が発音される前にゴブリンの群れに突っ込んだ。顔に獣の嗤いを張り付け、
「「「「恐いわ!」」」」
と言うクラスメイトどころか周りの護衛や偶々(たまたま)通り掛かった冒険者のツッコミを無視して。
どうも皆様、大日です。
やっと迷宮に入りました。
次回はテストの関係で三週間後になります。
感想、誤字脱字の報告、待ってます。
11月6日、魔物の情報を追加しました。
簡易魔物図鑑
スライム
比較的何処にでもいる魔物。
体の九割が粘りの強い水分、残りが核で体を構成している。
粘り強い外皮、体粘液、核の順番に出来ている。
一部のスライムの水分は飲み水としても使えるが、中にはその水分が遅効性の毒や、可燃性の液体で出来ている物もいるため、注意が必要。
飲料として使う場合、刺突武器か打撃武器の一撃で核に衝撃を与えなければいけない、また、飲む方法は先にめの細かい布地を着けた管で奥の水分を飲む。
なにげに適応能力は高い。
けど弱い。




