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鬼狼の刃  作者: 大日小進
一章、異世界編
25/42

23、再会

 勇者達が転移した城の使用人達の風呂場、そこでは風呂場らしからぬ緊張感が醸し出されていた。緊張感の出所は女風呂、そこでは、


(と、殿、どうします?)

(いや、俺に聞くなよ、こんな状況逃げる以外の方法があるか?)

(…………無いですね)

(だろ?)

「……」


 龍牙と黒牙はコソコソと相談していた。その目線の先には、体をタオルで覆い隠し、赤い顔になりながらも、こちらを涙目で見ながら唸る金髪の女性。


(いやしかし殿、本当にどうします?)

(俺に聞くな、知らん。てかさっき言った逃げる以外の方法があるか?)

(いえ、やはり無いですね)

(そうだろ?)

「ぅう~…………」


 龍牙と黒牙はコソコソと相談していた。転移させられ、かれこれ10分、彼らはその場から動けないでいた。

 しかし、更に10分経った時、突如事態は動いた。突如天井から一滴、ポタリとしずくが垂れ、湯の中で波紋を広げた。それと同時に女性が口を開いた。


「だ」

「『だ』?」

「『だ』?」

「誰かぁぁ、助けてぇぇ、覗き魔よぉぉ!」

「おわッ!」

「み、耳が、耳がァァア!」


 女性の口から発せられた悲鳴、それは風呂場の壁を反響し、龍牙と黒牙の耳を襲った。龍牙と黒牙は慌てて耳を抑える。

 しかしその抑えた手さえも生ぬるいと言わんばかりに音は手をすり抜け、二人の耳の鼓膜にダメージを与える。特に辛いのは黒牙だ。龍牙の耳は人間の耳なため、比較的簡単に耳を抑える事が出来るが、黒牙の耳は狼の耳のまま、つまり、耳を倒してからではないと耳を抑える事が出来ない。

 故に耳を抑える事に時間がかかり、その分龍牙より長く悲鳴を聞いてしまった。

 しかしこれはピンチであると共にチャンスでもある。この隙に龍牙は、


「黒牙、今だ、今のうちに逃げるぞ!」

「え? 何て言いました、殿?」


 逃げ出そうとするが、黒牙が耳をやられていた。龍牙は彼らしからぬ短い舌打ちをすると黒牙の腕を掴み、風呂場の扉を蹴破り、逃げた。

 しかし彼らは知らない。この悲鳴を聞きつけ、駆けつけてくる見回り兵達や、近距離、中距離特化の武闘メイド、隣の男風呂に入っていた衛兵達が集まっていることを。


龍牙side 終了


とある少女達side


 龍牙達が逃げ、そのままメイドや、衛兵達に見つかり、恐らくスキルであろう飛ぶ斬撃や、投げナイフ、風魔法で作られた鎌鼬などを避け、いなし、時々被弾しながらも走って逃げている同時刻、そこから遠すぎず近過ぎず、つまり中途半端な距離にある召喚者に割り振られた部屋の一室で召喚者二名、王族二名と言う極々小規模な女子会が起こっていた。


「――――ってなことがあってね」

「すごいね~、その龍牙ってお兄ちゃん」

「あはは、龍君は野山を駆け巡ると必ず動物狩ってくるからね」

「いえ、雪江様、私にはなぜその龍牙様がスキルも無しに腕力だけで猪を引き()れるかが謎なのですが」


 女子会に参加していたのは、召喚者の北原雪江、北原春美、そして第二王女のアリア・アルバス、その妹、第三王女のマリー・アルバスだった。

 彼女らが出会ったのはまったくの偶然だった。召喚され、二日に自身の魔法を知ろうと、二人で図書室に行くと、マリーが高い所の本を取ろうと跳ねていたのだ。そして高い所の本を読むくらいならと、雪江が桃太郎などの昔話を語り、そこにアリアがマリーを迎えに現れ、どうせ話をするならと、雪江達に割り振られた部屋に茶道具などを持ち込み、昔話を聞かせていたのだが、いつの間にか龍牙の話に変わっていた。


「ねえねえ、雪江お姉様、もっと他の話も聞かせて?」

「ん~、じゃあなんの話をしようかなぁ?」


 雪江が思いだそうとした時、ガチャリと音を立て、メイドが顔を覗かせた。


「ああ、王女様、ここに居られましたか」

「メイドさん、どうしましたか?」


 春美の疑問にメイドは「実は、」と前置きして言った。


「使用人達の風呂場に覗き魔が現れ、ここに接近して『どこだァ、ここはァァァ! 』『殿、あちらから、あちらから懐かしい匂いがします! 』クッ、来ました!」

「「オオオォオオ!!」」

「って龍ちゃん?!」

「え?あ、雪姉ってァァアアァ!」

「と、殿ォォ?!」

「「龍ちゃん(君)!?」」


 扉の向こうから現れたのは、想像していた変態ではなく、可愛い弟分。

 思わず出した声にその弟分、龍牙が反応して振り返り、直後、下駄の歯を床の石に引っ掻け、ゴロゴロと転がったが、四回程回転した時、下駄の歯をブレーキの代わりにし、止めると、


「雪姉ぇぇぇ! 春美ぃぃぃ!」

「キャッ、どうしたの?龍ちゃん」

「りゅ、龍君、なんとなく嬉しいのはわかったけどちょっと、ちょっとだけでもいいから力緩めて」


 ガシッと音が鳴る勢いで二人に抱きついた。春美が腕をタップするが、龍牙は「シシッ」とうれしそうに、しかし少し恥ずかしそうに笑って二人の首筋に顔を擦り当てた。一見犬みたいな少年と女性達の心暖まる光景、違うのは、


「覗き魔、確保ォォ!」

「覗き魔確保確認、確認完了!」

「覗き魔確保完了しました、メイド長(サー)!」

「良くやりました、貴方達」

「「「光栄です、メイド長(サー)! 」」」


 龍牙と黒牙、二人の腕に見るからに無骨で頑丈な手錠がかけられた事、龍牙がふと雪江と春美の方を向くとそこには、


「「リュウチャン(クン)、チョットハナソウカ?」」


 ハイライトの消えた目で見つめていた。


「………はい」


 後に二人の王女は語る、人はあれほど恐ろしい気配を出せるのかと。

どうも、大日です。

来週はもうひとつの方で人物紹介する予定なので多分書けません。

コメント、感想、誤字脱字の報告でも待ってます。

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