8、異世界
どこか神聖な雰囲気のある石造りの薄暗い部屋、しかし、今はそんな雰囲気は完璧に壊されている。
「な、何なのです。今の御仁は」
呆然とした様子で呟くのは、異世界の中にある国、アルバス王国の第二王女、アリス・アルバスだ。民のことを第一に考え、民からの信頼が多い王族。しかし、今彼女の前に広がっている光景は、いつも民のことを考え、周りが自然と笑顔になる彼女には似合わない光景だ。一面血の海、上を見ても、横を向いても、あるのは、赤、紅、緋、時々赤黒い何かの固まり、その正体は隣国、人族最大の軍事力を持つドルザイド帝国の前衛部隊だ。そして、隊の全てにかなり上位の魔剣を装備させていたのだが、龍牙の妖刀に切り落とされ、持ち主全員は首を切り飛ばされるか、刺し殺され、すでに死んでいる。
「な、何はともあれ、これで彼らの人生は変わらずに進むはず、それは良かったです」
「しかし、姫様、それでは、あなた様が……」
「いいのです、これで、いいのです」
この民を考え、笑顔が溢れる国、そんな平和な国がほとんど戦いの役にしかならない勇者召喚に手を出した訳、それは、彼女の手に握られた一枚の手紙にある。手紙の差出人、それは、ドルザイド帝国、帝王、ザルザ・ドルザイドの出した物で、魔族の領地を奪うために勇者を召喚し、寄越せ、それが出来ないなら息子の嫁に第二王女、または、第三王女を寄越せと書いてあった。しかし第三王女はまだ九歳、いくら婚期が早いといっても、早すぎる、そのため、第二王女の彼女が行くのだ。
「とりあえず、この部屋をどうにかしなければいけません。あなたは帝国兵の遺体を…………」
そこまで言った所だ、突然魔方陣が輝きを放った。
「ッ!」
「ひ、姫様を守れぇ」
「「「「おおっ」」」」
皆より早く素に戻った近衛兵の1人が声をかけ、その声で我に返った兵が王女の前に立つ。そして、だんだんと光が収まり、
「ここは?」
「目がぁ、目がぁ、あ、だんだん見えてきた」
「み、皆居る?」
異世界からの勇者がいた。
「皆様、私どもの勝手な行いで呼んでしまい、申し訳ありません」
一斉に視線が集まり、言葉がつまりそうになるが、我慢し、改めて用意していた言葉を言う。せめて、戦争に行かされるまでは最上位のもてなしをする、それが彼女のできる罪滅ぼし、そして、帰ることが出来ない、元の世界より命が軽いなどを伝わる。
「ふざけるな、元の世界で俺はやりたい事があるんだ!」
「そうよ! 私達を帰してよ!」
思った通り、文句が出る。どうやったら収まるか考えると、1つ、女性の声が挙がった。
「ねぇ、皆、龍ちゃんってどこに居る?」
「「「「「「「………………………ああっ!」」」」」」」
どうやら、召喚のインパクトで忘れたらしい。
その頃の龍牙
「へ、へ、ヘクション!」
『殿?風邪ですか? 』
「わからん、寒くはないんだよなぁ」
謎の白い空間で1人と一匹は歩いていたのであった。
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異世界に行きました!(クラスメイトだけ)
龍牙と黒は後で合流します。
あと、王女は悪女じゃ無いです。
誤字脱字があったら教えてください。