第6話 公共事業!
盗賊のクーメ一派を一網打尽にした相沢と横峰。
クーリエは主人からの宿題の答えを持ってくる。
相沢は一石二鳥の公共事業に着手する。
俺の布告によりクーメ一味は代官所の牢屋にて預かりとなった。死刑を覚悟していた一味からは口々に俺への感謝の言葉が寄せられたが、俺の決定に対して一部の兵士が不満を持っているらしいこともわかった。苦労の割に捕まえた罪人の刑罰が軽すぎるというのだ。
捕り物から数日後、兵士を全て中庭に集めた。
「諸君、先日のクーメ一味の捕縛、まことにご苦労だった! 一味は盗賊であるが殺人、放火、婦女暴行は一切行っていないことが調査の結果わかった。よって今後の治安維持のためにも早急な極刑は行わないこととした!」
俺は部下たちに状況を説明する。こういう方向性はきちんと部下に示さないと彼らも戸惑うからな。というのもサラリーマンをやってて学んだ教訓だ。
「で、では彼らをどういう風に使うのでありますか?」
後列の兵士から質問が飛んだ。これも前任までの代官ではありえなかったそうだが、俺は兵士の質疑応答を許可している。
「密偵だよ、みんなが盗賊の情報を探ってくれているのは知っている。でも、代官所の兵士に教えたくない者もいるし、みんなも情報をかいくぐって街に潜入する盗賊の顔はわからんだろ? そういった探索の漏れを彼らにカバーしてもらうんだ」
俺の説明に兵士たちがどよめいた。きっとそういった苦労があったんだろうな。
「相沢さん、すいませんでした。先日は浅はかな意見を言ってしまいました」
傍らにいた横峰が謝ってきた。彼女も時代劇マニア、俺の意図をすばやく理解したようだ。
「ま、気にすんな!」
俺にはもうひとつ腹案があるのだ。
昼食の時間、俺はあえて横峰に同席するように頼んでおいた。執事さんから宿題の答えが見つかったと報告があったためだ。
「旦那様、本日の昼食はノルドから届きました魚料理でございます」
海が遠いミートナ郡で魚は貴重品だ。と言っても、塩鮭みたいな保存食に加工されたものを調理したにすぎないのだが。
「それと旦那様、先日わたくしにお命じになった件ですが……」
執事が内ポケットから布に包んだものを俺に手渡す。それを見て俺は思わず彼を抱きしめた。
「すっげえ! すげえ! さすがクーリエだ! サンキュー!!」
彼に渡された布に包まれていたのは農業に疎い俺でもわかる、稲の種籾だった。
まさか本当に見つけ出してくるなんて、さすが我が代官屋敷筆頭執事だぜ!
「これ、おコメ? どこにあったの?」
横峰も驚いてクーリエに尋ねる。
「東大陸の南方、ディアーナ地方の人々が主食としているものとわかりました。ディアーナ国とわが国は通商がありますので、貿易船でノルドまで運ばせ早馬でミートナまで取り寄せてみました。旦那様のお探しだったものがこんなに早く見つかるとはわたくしも思ってもみませんでしたが……」
俺がクーメ一味を温存したい理由その2! コメを作ってミートナ郡に新産業を興したいと考えていたからだ。この地方は自給する食糧はある。交易品もあるが冒険者の大森林での戦利品頼みだ。また隣国との交易もあるが所詮中間流通業にすぎない。つまり外的要因でいくらでも左右されてしまう産業で成り立っているに過ぎないのだ。
「でも日本だってそうだったじゃないですか」
横峰の突っ込み。その通り、だから日本は過去にオイルショックや円高ショックを経験し、果ては資源国から締め出しを食らって戦争まで始める羽目になった。
「だからだよ、最悪売る相手がいなくても自家消費できる産業があると強いのさ」
コメ造りに盗賊あがりの連中を使う。彼らの更正にもなるし、言い方は悪いが人件費を削減できる。まあ、発端の動機が自分が米食に飢えているってのはアレだけどな。
さらに数日後、俺と横峰は大森林に赴いた。例の大げさな馬車でだが。
「あちらです」
サイラスが指し示す方向を見て俺は正直驚いた。いや、驚いたのは横峰の方だろうか。
うっそうとした森林の中に走るあぜ道から少し下った大木の横。濃緑色の巨大な物体が横たわっている。
「マジ……?」
女性自衛官がつぶやく。同じ馬車に乗るクーリエは初めて見る物体に驚きを隠せないようだ。
近くまで馬車を寄せ、俺たちは下車して物体に近づいた。正体をわかっている俺と横峰は何の警戒心もないが兵士たちはおずおずと続く格好になる。
「九六式装輪装甲車ですね、間違いなく」
物体は八つの大きなタイヤ、細長い車体だ。車体の右後方に文字が書かれている。
「四戦二中? 何だこれ?」
俺の言葉に横峰が所属部隊を示す符号と教えてくれた。この場合、第四戦車大隊第二中隊所属の車両ということらしい。
「付近に安置されていた遺体は横峰様と同じような服装をした男でございました。頭部を強く打って数週間前に絶命したと思われます」
サイラスの解説が入る。数週間前、つまり俺たちがこちらに飛ばされたのと同じくらいのタイミングだ。恐らく俺たちと同じように事故って車両を放棄したのだろう。車内にはめぼしい武器弾薬、食料や医薬品は残されていない。
「木に衝突して動けなくなっただけで動きそうですね。燃料もほとんど満タンだわ」
車両をチェックした横峰がうれしい報告をしてくれる。こいつはいいものが手に入った。しかも、キューポラに装備されている機関銃はそのままだったとのことだ。
代官所の兵士と馬を総動員して屋敷まで牽引しよう。
「それと旦那様、こちらを……」
サイラスがあぜ道に戻って俺に見せてくれたものは、轍だった。
「この先は隣国エストライド公国との国境です。エストライド公国はわが国とは決して良好な関係とは言えません。何事もなければよいのですが……」
帰り道、俺たちは冒険者地区にある冒険者ギルドを訪れた。
冒険者ギルドには冒険者向けのさまざまな依頼が集まってくる。冒険者向けのハローワークみたいなもんだな。
「クーリエ、代官所から継続依頼として風体の変わった者、見たことない乗り物を見かけたら代官所に申し出る依頼を出してくれ。報酬は公費から出す」
「かしこまりました。旦那様」
酒場を兼ねたギルドの掲示板に張り出された代官所からの依頼に冒険者たちが人垣を作っているのを確認して、俺たちはギルドを後にした。
これまでの俺の動きを整理してみよう。そろそろ横峰にもクーリエにも真意を話しておいた方がいいだろうしね。
つまり俺は、元盗賊たちによる米作の試験栽培。食いあぶれた冒険者に日本人探索という公共事業を提供したわけだ。
「旦那様、お見事でございます」
屋敷に帰ってディナーの席で、クーリエが俺にワインを注ぎながら言ってくれた。
「犯罪に走る層に公共事業で生活費を稼ぐチャンスを与えて犯罪抑止。犯罪をしても公共事業に従事させて更正を促す。さすがですね!」
横峰も感心してくれた。これは大岡越前流だ。石川島人足寄せ場にヒントをもらったのと、公共事業の有効的な使い方の応用だ。やっててよかった歴史学ってヤツだね!
ホントはニューディール政策みたいな大規模公共事業もやってみたいが、いかんせん俺の知識が不足している。
ともあれ、この世界に流れ着いた日本人捜索も進むだろう。しかし、気にかかることもある。
「車列の行き先ですね」
横峰も同じことを考えていたようだ。轍の行く先はエストライド公国。決してノルドライド神聖王国とは関係が良好ではない隣国とのことだ。いろいろ考えておいた方がいいだろう。
「クーリエ、頼みがある」
俺はワインを飲み干して頼れる執事を呼んだ。
地の文が多くなりがちになってます
読みにくい箇所が多くて申し訳ないです・・・