第25話
「いらっしゃいませ」
店に一人の老人が来た。
杖をついて歩いていて、多分75歳位。
あごの下から白くて長いひげが生えていた。
「貸切りじやー貸切りー 女の子全員呼んでこいー」
その老人が店を貸切りしたいとボーイに言ってきた。
貸切り?! 今店の女の子15人もいるのに。
不景気のこの時代にキャバクラを貸切りしようと思う人がいるんだ。
その老人の言葉に対し、ボーイが答えた。
「お客様、当店では貸切を承っておりません。申し訳ございません」
ボーイがそう言うと、その客は持っていたボストンバックから
札束を出してこう言った。
「この金全部出してもダメか〜! わかった。じゃあ違うキャバクラに行く事にするか」
老人が帰ろうとしたその時、店長が老人の前に来た。
「お客様、当店では通常貸切を承っておりません、ですがお客様がせっかく
こられたのにお引取り願うのも申し訳ないので、一時間でよろしかったら
貸切りを承りますが。どうなさいますか」
老人は店長の言葉に
「一時間だけか、まあここのキャバクラは評判いいし遊んでいくかな」
と言って客席についた。
「失礼しま〜すっ ジュリでーす」
「初めまして〜 ユリナです」
「アンコです こんばんは」
「クリムです 失礼します」
皆が次々と挨拶をしていって席についた。
一人の老人を15人で囲んで、何だか変な感じだった。
「皆かわいいのー。何でも好きなの頼みなさい」
何でこの人がこんなにお金を持っているのか分からない。
店の女の子達はそんな事気にする様子もなく、どんどん注文していた。
「わー! 羽振りいいですねぇ〜 頂きまぁす!」
「やったぁ!」
「ありがとうございます」
「皆で乾杯じゃー」
「はーい」
お酒がきて皆で乾杯すると老人が話をしだした。
「わしは不動産会社の社長じゃ。今日は転がしで儲けての。
ぱーっとお金を使おうって思ってここに来たんじゃ。
わしはキャバクラが好きじゃ。若くて可愛い子がいて、わしみたいな
老人でも優しく接してくれるからのう」
「えー社長さんなんだっ すごーい お金持ちー!」
女の子達は驚いていた。
やっぱりお金の力はすごい。このおじいさんも。
私は改めてお金の威力を実感した。
キャバクラで一時間の時間が過ぎるのはあっという間だった。
老人は帰りたくなさそうにしていたが、ボーイが時間をつげると、しぶしぶ帰っていった。
「さっきのお客様すごいよねー、超お金持ちー! VIPのおじいちゃんっ」
ジュリがそう言うと、他の女子達も同じような事を言っていた。
貸切り接客を終えた後、私は又接客をした。
仕事を終えた私は、送りを断って店を出た。
「さっき山田君から迎えに来てくれるって電話があったのー嬉しいー!!」
この言葉を傷心中のジュリの前では言えなかった。
それに、店にバレても困るし。
店の付近で待ち合わせをするのはまずかったので、
少し離れたコンビニの前で私達は会った。
「山田君 お待たせ!」
「え、サナ今何て?」
慌てていたせいか、うっかり私は彼の名字を言ってしまった。
動揺しても、もう遅い。ごまかしようが無かった。
彼の表情は強張っていた。
「・・・・・・」
続く