雨降る街で
どうも、山石悠です。連載を更新しないのに、短編を出す? 連載が書けないけど、何かを書きたくなったので。
……初めに言っておきます。僕、何が書きたかったか、自分でも分かんないです。ですから、『悪い点』に「何書きたかったのか、分からない」とか、書かないでください。……分かってるので。
「はぁ、はぁ……」
外は土砂降り。幸い今日の仕事はさっき終わったからここで雨宿りしよう。僕はたまたま立ち寄った書店の前で雨が止むのを待つ。念のため、タクシーが来たらそれに乗って帰ることも候補に入れておく。
「……止まないな」
「本当にすごい雨ですよね」
「えっ!?」
僕は独り言のつもりだったのに、返事が返ってきたことに慌ててしまった。しばらくあたふたしてから、声をした方を見る。そこにはくすくす笑いながらこっちを見ている女性がいた。姿はスーツなので仕事の途中なのかなと想像する。
「あ、そうですよね。ホントに困っちゃいますね」
「そうですか?」
「え!?」
また驚く。何だ?この人は雨が降っているのが嫌じゃないのか? 僕はよく分からなくなったので、彼女に尋ねてみる。
「雨、嫌いじゃないんですか?」
「ええ。雨は好きですよ」
「なんでですか? 濡れるし、冷たいし」
僕は雨が好きじゃない。傘という手荷物を増やすし、服を濡らす。あ、いや、女性の服は少し透けてくれたら喜ぶかもしれない。そんな、雨に対していいことを考えられない僕に、彼女は話しかける。
「雨って、すごいんですよ。自然の芸術家だと思っています」
「芸術家?」
ますます分からない。一体、この人は何を想っているのだろうか?
「雨は見て楽しい、聞いて楽しい。そんな物です」
「そうですか? よく分からないです」
「なら、教えてあげます。雨を、よぉ~~く、みたらわかるんですが、粒が少しずつ違っています」
「まあ、いつも同じなんてことはないでしょうね」
当り前だ。全部の雨が同じ粒だなんて、不思議すぎる。そんな僕の返事に彼女はむっとしながら返す。さっきのおしとやかな感じとは違い、子供っぽさがあってドキッとしてしまった。
「そんなこと言うなら、教えてあげませんよ」
「なら、教えていただくなくても結構です」
これは完全に嘘だ。本当はもう少し話を聞こうと思っていたが、彼女の子供っぽい表情が見たかったから、ついつい言ってしまった。そして、彼女は僕の思惑通り子供っぽい表情で慌てる。
「そ、そんなこと言わないでくださいよ。聞いてくださいよ」
「はいはい。仕方ないですね」
なぜだろうか? いつもの自分では言わないことや、やらないことをしてしまう。もっと彼女の表情を見てみたくなる。
「そんな言い方じゃ駄目です」
彼女はそんなことを言う。僕は今までに感じたことのない気持ちを抱きながらも、丁寧にお願いする。
「……教えてください」
「はい。じゃあ、教えてあげます」
「お願いします」
僕は彼女の言うとおりにした。すると、彼女はなんとか機嫌を戻し、始めのようなおしとやかな感じで話しだす。
「次は聞くでしたね。雨の音、知ってます?」
「ザーザーとかポツポツ、とかですか?」
「そうですね。他にもいっぱいあります。その音の違いがいいんですよ」
……分からない。申し訳ないけど、彼女の言う雨のいい所がよく分からない。
「あの、何がいいんですか? よく分からないんですけど」
「ええ!?」
彼女の驚きようは僕の方が驚きそうになるくらいだ。なんでわからないの!? って感じだ。
「いや、粒の形や音なんて別にどうでもよくないですか?」
「何言ってるんですか!? とっても大切ですよ!!」
僕が思った通りのことを言うと、彼女は口を風船みたいに膨らませてそう言った。私、怒ってます、という雰囲気が出てはいるが、全く怖くない。むしろ可愛い。
「……可愛い」
「ふぇっ!?」
「あ……」
しまった。つい、口から本音が出てしまった。僕の何げない一言のせいで、彼女の顔は真っ赤になっていた。彼女は手をブンブンと振って、早口でしゃべりだす。
「な、何言っているんですか!! か、からかわないでください!!」
「す、すいません……」
彼女の勢いに押されて、謝ってしまった。実際の僕は、何も悪くは無いというのに。僕は、本当にからかってやろうと思って、口を開いた。
「粒や音については分かりませんが…………良いことはありました」
「え? それってなんですか?」
僕がそんなこと言うとは思っていなかったのだろう。彼女はひどく驚いた顔で僕を見た。僕は、彼女の目の前に立って、こう言った。
「いいことは…………あなたと出逢えたことです」
「○#%×@%△*」
もはや言葉にもなっていない、ただの音を発して、彼女はオーバーヒートした。僕はやってやったぞ、という笑みを浮かべて空を見上げた。
「……虹だ」
雨は、いつの間にか止んでいた。僕は彼女の方を見た。彼女は未だに真っ赤になっているが、虹を見て嬉しそうに笑っていた。僕は彼女に尋ねた。
「あの……」
「なんですか?」
「あなたの名前、教えてくれませんか?」
彼女はきょとんとした顔をしてから、更にその顔を赤くした。そして、しどろもどろになりながら小さな声でしゃべりだした。
「私の名前は――――」
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「……ねえ、父さん」
「なんだ?」
「それ、嘘でしょう?」
「え?」
我が息子は、いきなりそれを嘘だと言い切った。全く……何を言い出すのか。
「僕はさ、母さんのことは知らないけど……それは、嘘だと言い切れるよ?」
「どうして?」
「普通に考えてよ。そんな、ベタな恋愛ものみたいな出会い、考えられない」
……それは、否定できない。確かに、普通では考えにくいかもしれない。
「……でも、本当なんだ」
僕は、目を見てそう言った。お互いに見詰め合う。……どれほどの時間がたったかは分からないが、我が息子がいきなり目をそらした。
「……そう。それが、父さんと母さんの出会いなんだね?」
「ああ。そうだよ」
僕はあの時のことを思い出しながら答える。彼女は、この子が生まれて二か月で交通事故にあった。そして、そのまま…………
「……なあ、父さん」
「なんだ? 我が息子よ」
「ふざけてないで答えてよ? ……今でも、母さんのこと、好き?」
「いいや」
「はあっ!?」
好き? もちろん、否に決まっている。僕は、彼女のことを……
「……大好きで、愛しているんだよ」
「……好き、程度じゃないってこと?」
「もちろん。今でも愛してる。僕が死んだら、向こうでまた結婚するんだよ」
「そっか」
「うん」
親子二人。これまでの十五年間、二人で生きてきた。そして、その生活も、もう、そろそろ終わるのだろう。
「……父さん」
「何?」
「これ」
「……婚姻届?」
なんで、こんなものを持っているのだろうか? 我が息子よ、なぜこれを僕に?
「……母さんと、向こうで結婚するんでしょ? これ無いと、ダメじゃない」
ああ、そうだった……忘れていた。
「ありがとう、我が息子よ」
「……ふざけないでよ。まだ、一度も名前を呼ばれたことないよ」
そうだったな。これまで、ずっと『我が息子』だったな。たまに、『倅』とか『うちの』とか、そういう変化はあったけど。
「そうだな……もう、眠くなってきたから。また、今度でいい?」
「今度、なんて時はないんだよ。そう言ったのは自分だろう?」
「……確かに、そうだった」
瞼が落ちてくる。どうやら、眠気には勝てないらしい。僕は最後の力を振り絞った。
「もう、寝るのか?」
「ああ。お休み…………剛二」
「……お休み」
目を閉じた。もう、何も感じない。……いや、遠くに主治医の声が聞こえる。そう言えば、どこかで聞いたことがある。死んだとき、ほんの短い間だけは意識がある、と。
「午前十一時二十三分。…………松田剛さんの、死亡確認」
「僕……いや、俺、強く、なるから」
そうか。形から入るなんて、僕そっくりじゃないか。遺伝かな? ……まあ、いい。最後に、現世で頼んでおこう。
「……我が息子の、剛二の夢が、教師になるという夢が、叶いますように」
……言い切った。僕は、前を向く。あの時の街だ。雨も降っている。自然の芸術家が、僕の旅路を彩ってくれている。今なら、魅力が分かるよ。僕は、傘も差さずに街へと飛び出した。今度は、たまたまではない。なぜなら……
「すごい雨ですね」
……彼女に、会うためだから。
……はい。終わりです。
僕、『起承転結』の、『結』が欠しているようです。で、今回も例にもれず最後に困る。結果は、あれです。
まあ、個人的には、嫌いではないです。……良い、悪いは別として。
それでは、これが皆さんの時間を使うに値するものであることを願って。
See you next time!