表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

長谷川辰巳の日常

雨降る街で

作者: 山石 悠

どうも、山石悠です。連載を更新しないのに、短編を出す? 連載が書けないけど、何かを書きたくなったので。


……初めに言っておきます。僕、何が書きたかったか、自分でも分かんないです。ですから、『悪い点』に「何書きたかったのか、分からない」とか、書かないでください。……分かってるので。

「はぁ、はぁ……」


 外は土砂降り。幸い今日の仕事はさっき終わったからここで雨宿りしよう。僕はたまたま立ち寄った書店の前で雨が止むのを待つ。念のため、タクシーが来たらそれに乗って帰ることも候補に入れておく。


「……止まないな」

「本当にすごい雨ですよね」

「えっ!?」


 僕は独り言のつもりだったのに、返事が返ってきたことに慌ててしまった。しばらくあたふたしてから、声をした方を見る。そこにはくすくす笑いながらこっちを見ている女性がいた。姿はスーツなので仕事の途中なのかなと想像する。


「あ、そうですよね。ホントに困っちゃいますね」

「そうですか?」

「え!?」


 また驚く。何だ?この人は雨が降っているのが嫌じゃないのか? 僕はよく分からなくなったので、彼女に尋ねてみる。


「雨、嫌いじゃないんですか?」

「ええ。雨は好きですよ」

「なんでですか? 濡れるし、冷たいし」


 僕は雨が好きじゃない。傘という手荷物を増やすし、服を濡らす。あ、いや、女性の服は少し透けてくれたら喜ぶかもしれない。そんな、雨に対していいことを考えられない僕に、彼女は話しかける。


「雨って、すごいんですよ。自然の芸術家だと思っています」

「芸術家?」


 ますます分からない。一体、この人は何を想っているのだろうか?


「雨は見て楽しい、聞いて楽しい。そんな物です」

「そうですか? よく分からないです」

「なら、教えてあげます。雨を、よぉ~~く、みたらわかるんですが、粒が少しずつ違っています」

「まあ、いつも同じなんてことはないでしょうね」


 当り前だ。全部の雨が同じ粒だなんて、不思議すぎる。そんな僕の返事に彼女はむっとしながら返す。さっきのおしとやかな感じとは違い、子供っぽさがあってドキッとしてしまった。


「そんなこと言うなら、教えてあげませんよ」

「なら、教えていただくなくても結構です」


 これは完全に嘘だ。本当はもう少し話を聞こうと思っていたが、彼女の子供っぽい表情が見たかったから、ついつい言ってしまった。そして、彼女は僕の思惑通り子供っぽい表情で慌てる。


「そ、そんなこと言わないでくださいよ。聞いてくださいよ」

「はいはい。仕方ないですね」


 なぜだろうか? いつもの自分では言わないことや、やらないことをしてしまう。もっと彼女の表情を見てみたくなる。


「そんな言い方じゃ駄目です」


 彼女はそんなことを言う。僕は今までに感じたことのない気持ちを抱きながらも、丁寧にお願いする。


「……教えてください」

「はい。じゃあ、教えてあげます」

「お願いします」


 僕は彼女の言うとおりにした。すると、彼女はなんとか機嫌を戻し、始めのようなおしとやかな感じで話しだす。


「次は聞くでしたね。雨の音、知ってます?」

「ザーザーとかポツポツ、とかですか?」

「そうですね。他にもいっぱいあります。その音の違いがいいんですよ」


 ……分からない。申し訳ないけど、彼女の言う雨のいい所がよく分からない。


「あの、何がいいんですか? よく分からないんですけど」

「ええ!?」


 彼女の驚きようは僕の方が驚きそうになるくらいだ。なんでわからないの!? って感じだ。


「いや、粒の形や音なんて別にどうでもよくないですか?」

「何言ってるんですか!? とっても大切ですよ!!」


 僕が思った通りのことを言うと、彼女は口を風船みたいに膨らませてそう言った。私、怒ってます、という雰囲気が出てはいるが、全く怖くない。むしろ可愛い。


「……可愛い」

「ふぇっ!?」

「あ……」


 しまった。つい、口から本音が出てしまった。僕の何げない一言のせいで、彼女の顔は真っ赤になっていた。彼女は手をブンブンと振って、早口でしゃべりだす。


「な、何言っているんですか!! か、からかわないでください!!」

「す、すいません……」


 彼女の勢いに押されて、謝ってしまった。実際の僕は、何も悪くは無いというのに。僕は、本当にからかってやろうと思って、口を開いた。


「粒や音については分かりませんが…………良いことはありました」

「え? それってなんですか?」


 僕がそんなこと言うとは思っていなかったのだろう。彼女はひどく驚いた顔で僕を見た。僕は、彼女の目の前に立って、こう言った。


「いいことは…………あなたと出逢えたことです」

「○#%×@%△*」


 もはや言葉にもなっていない、ただの音を発して、彼女はオーバーヒートした。僕はやってやったぞ、という笑みを浮かべて空を見上げた。


「……虹だ」


 雨は、いつの間にか止んでいた。僕は彼女の方を見た。彼女は未だに真っ赤になっているが、虹を見て嬉しそうに笑っていた。僕は彼女に尋ねた。


「あの……」

「なんですか?」

「あなたの名前、教えてくれませんか?」


 彼女はきょとんとした顔をしてから、更にその顔を赤くした。そして、しどろもどろになりながら小さな声でしゃべりだした。


「私の名前は――――」



____________________________________



「……ねえ、父さん」

「なんだ?」

「それ、嘘でしょう?」

「え?」


 我が息子は、いきなりそれを嘘だと言い切った。全く……何を言い出すのか。


「僕はさ、母さんのことは知らないけど……それは、嘘だと言い切れるよ?」

「どうして?」

「普通に考えてよ。そんな、ベタな恋愛ものみたいな出会い、考えられない」


 ……それは、否定できない。確かに、普通では考えにくいかもしれない。


「……でも、本当なんだ」


 僕は、目を見てそう言った。お互いに見詰め合う。……どれほどの時間がたったかは分からないが、我が息子がいきなり目をそらした。


「……そう。それが、父さんと母さんの出会いなんだね?」

「ああ。そうだよ」


 僕はあの時のことを思い出しながら答える。彼女は、この子が生まれて二か月で交通事故にあった。そして、そのまま…………


「……なあ、父さん」

「なんだ? 我が息子よ」

「ふざけてないで答えてよ? ……今でも、母さんのこと、好き?」

「いいや」

「はあっ!?」


 好き? もちろん、否に決まっている。僕は、彼女のことを……


「……大好きで、愛しているんだよ」

「……好き、程度じゃないってこと?」

「もちろん。今でも愛してる。僕が死んだら、向こうでまた結婚するんだよ」

「そっか」

「うん」


 親子二人。これまでの十五年間、二人で生きてきた。そして、その生活も、もう、そろそろ終わるのだろう。


「……父さん」

「何?」

「これ」

「……婚姻届?」


 なんで、こんなものを持っているのだろうか? 我が息子よ、なぜこれを僕に?


「……母さんと、向こうで結婚するんでしょ? これ無いと、ダメじゃない」


 ああ、そうだった……忘れていた。


「ありがとう、我が息子よ」

「……ふざけないでよ。まだ、一度も名前を呼ばれたことないよ」


 そうだったな。これまで、ずっと『我が息子』だったな。たまに、『倅』とか『うちの』とか、そういう変化はあったけど。


「そうだな……もう、眠くなってきたから。また、今度でいい?」

「今度、なんて時はないんだよ。そう言ったのは自分だろう?」

「……確かに、そうだった」


 瞼が落ちてくる。どうやら、眠気には勝てないらしい。僕は最後の力を振り絞った。


「もう、寝るのか?」

「ああ。お休み…………剛二(こうじ)

「……お休み」


 目を閉じた。もう、何も感じない。……いや、遠くに主治医の声が聞こえる。そう言えば、どこかで聞いたことがある。死んだとき、ほんの短い間だけは意識がある、と。


「午前十一時二十三分。…………松田剛さんの、死亡確認」

「僕……いや、俺、強く、なるから」


 そうか。形から入るなんて、僕そっくりじゃないか。遺伝かな? ……まあ、いい。最後に、現世で頼んでおこう。


「……我が息子の、剛二の夢が、教師になるという夢が、叶いますように」


 ……言い切った。僕は、前を向く。あの時の街だ。雨も降っている。自然の芸術家が、僕の旅路を彩ってくれている。今なら、魅力が分かるよ。僕は、傘も差さずに街へと飛び出した。今度は、たまたまではない。なぜなら……




「すごい雨ですね」


 ……彼女に、会うためだから。

……はい。終わりです。


僕、『起承転結』の、『結』が欠しているようです。で、今回も例にもれず最後に困る。結果は、あれです。

まあ、個人的には、嫌いではないです。……良い、悪いは別として。


それでは、これが皆さんの時間を使うに値するものであることを願って。


See you next time!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ