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MEMORYS

五線譜

 誰にでも優しい人は、本当は誰にでも優しくないんだと思う。

 だから……私はそんな人が嫌いだ。



「それ、絶対、おかしいって」

 カフェオレのパックをパコパコとやりながら、友達が言う。

「え、何で!?」

「何でって……だってどう考えたって、それはひねくれた考えでしょ」

「そうかなぁ?」

 私はそうは思わないんだけど。

 だってそうじゃない? 人間ってやっぱり好き嫌いがあるし、人によって態度が変わっちゃうのって仕方のないことだと思う。

 誰に対しても同じでいられるなんて……そんなの神や仏くらいだろう。

 当然のことだけど、私達はそんな存在じゃない。だから、大切な人がいたらその人をより大切にしようとする。

 それなのに誰に対しても同じでいるってことは、誰も大切に思っていないから。

 そう考えるのは、おかしい?

 本当は冷たい人なんだって思うのは、変?


「そうだって。……あ、そろそろ練習室空くかも。じゃあ行くね」

 壁に掛かった時計を見て、友達が立ち上がる。

 彼女はピアノ、私はヴァイオリンを専攻している。

「うん、頑張ってね」

 ストローをくわえたまま、手を振って見送る。

 さて、どうしよう? 練習室が空く時間までまだあるし…このまま教室で、譜読みでもしてようかな。

 鞄から楽譜を取り出し、机に置く。

「♪~♪~~ッ!?」

 ガラッ!!

 勢いよく教室の扉が開き、驚いて譜読みが中断する。

「あれ、まだいたんだ」

 そう言って入ってきた男子は、私と同じヴァイオリン専攻で……小学生の頃から同じヴァイオリン教室に通っていた。

 まさか、同じ高校に入ってクラスまで一緒になるとは想像もしなかったけど。

「練習室、五時からの予約だから」

 それだけ応え、譜面に戻る。こっちを見ている視線を感じるけど、無視。

 考えてみれば私の優しい人嫌いは、こいつが原因なのかもしれない。

 ヴァイオリンを始めたばっかりの頃、どうしても上手く弾けなくて毎日泣きそうになっていた。

 そんな時いつも優しく励ましてくれたこいつに……私はいつからか恋をしていた。

 だけど、気付いてしまったんだ。こいつが優しいのは、私だけにじゃないって。

 いつも見ていたから、分かってしまった。

 そして感じた。


 優しいのって、残酷だと。


 それから私は、誰にも優しい人が嫌いになった。

「そっか。なあ、お前最近俺を避けてないか?」

「……気のせいでしょ。あ、私先生に質問あったんだ」

 本当はそんなものないけど、このまま教室にいたら何を言うか分からないから、理由をつけて教室を出ようとした。

「ッ!?」

「気のせいじゃない。逃げるなよ!」

 掴まれた腕が熱い。

 お願いだから、放して。




 私は、誰にでも優しい人が嫌いだ。

 だから、こいつのことも嫌い。



 だけど……






 どうしようもないくらい、好き、なんだ…。




ヴァイオリンは弾けませんが、聴くのは好きです。

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