私の可愛い旦那様
後3分で結婚して5回目の誕生日。
知り合ってからなら16回目になるのか。
旦那さんは今か今かとうずうずして時計と睨めっこしている。
「さん、にー、いち・・・誕生日ーーー!!!」
「一志くん、誕生日おめでとう」
「ありがとう!!!さあメイちゃん明日のためにすぐ寝よう!早く寝よう!!」
ベッドまでつれて来られ、布団の中に押し込まれる。
「明日は六時に起きて朝ごはん食べたらすぐ行こうね!いっぱい考えてるんだよ」
「そんな早くからお店は開いてないわよ」
テンションの高い旦那さんに苦笑をしながら伝える。
旦那さんの一志くんと知り合ったのはそこらへんにある公立中学校。
一志くんのお家はとっても資産家で、小学校は私立へ通っていたのに「歩いていける学校に行きたい!」と家族の反対を押し切って公立中学へ入ったらしい。
同じクラスらしい入学式からやたらと目立つ子、小学校六年間クラス委員長や児童会会長などをやっていたエセ優等生の私は「面倒な子が来たな~」と考えていた。
顔も頭も運動神経も良く、親、親戚共に資産家系の一人っ子。
私はサラリーマンの父とパートで働く母、5人兄弟の長女。周りの評価はしっかり者、家族には吝嗇家。失礼な。
案の定私はクラス委員長になり彼はクラスの人気者である意味問題児となった。
なんせ、金銭感覚が違うのだ。
ブランドなどほとんど知らない私ですら知っているブランドのペンケースや、ボールペン。
お財布も何万円もするようなお財布にお財布以上の金額が入っている。
放課後に喫茶店や、ファミレスで仲の良い子たちに奢ってあげているらしい。
思春期の多感な時期にそんな子がいたら周りの子達に影響が出てしまう。
そう思っていた矢先に彼と同じ派手目のグループの子が母親の財布からお金を盗む(しかも万札)事件が起きた。
当然すぐに母親に見つかり愛の鉄拳を受けたらしいのだが、担任は私に相談してきた。
「田中(私の旧姓)よ。伊集院(一志くんの苗字)の面倒見てくれんか」
あの時は丸投げでしたよね、担任。
それでもエセ優等生の私に断ることは出来ず、しぶしぶトオヤの豆大福(美味い)で手を打ちました。
苗字に貴賎?なんか無いと思うけど、田中に比べれば伊集院なんてご大層なお名前だわね。なんて思いながら熱い玄米茶にメガネを曇らせながら豆大福食べてた。
まさか自分の苗字になるなんて思ってもみなかったし。
「田中さんて可愛い上にお勉強までできるんだねー」「田中さんて髪の毛綺麗だねー」「田中さんの手もちっちゃくてかわいいねー」
・・・・一体どんな嫌がらせなのか。そんなに私と話すのが嫌なのか。
男の子にそんなこと言われたことのなかった地味な私にはそれは嫌味か嫌がらせとしか思えず、いつも適当に相槌していた。
担任に言われて一志くんに(私の)常識を教えたり、叱ったりしていたから仕方が無いと思っていたら、あれは求愛表現だったんだよ!何でそれ以外に思えるの!?とお付き合い始めた時言われた。
なんだかんだと懐いた一志くんが私にしだした事は「貢ぐこと」。
私に似合う服があると買ってきたり、美味しいケーキがあると買ってきたり。とりあえず賞味期限のあるものだけは返せないけどそれ以外は全部返却させました。
そう、私は家族から吝嗇家などといわれているくらいお金には厳しい。父も母もどちらかと言えば大らか(能天気?)で、サラリーマン家系に5人兄弟なんてケチるとこはケチらないと食べていけないのです。
担任が私を指名したのもそれが理由かもしれません。
ここまでのお話で分かるかもしれませんが、一志くんは人に与えることが大好きなんです。
愛情も言葉もお金も。私は中学生の頃から溺れてしまうくらい愛されました。
そして私はしっかり者の皮を被った吝嗇家。
他人が使うお金でも意味のないものならもったいないと思ってしまう所帯じみた性格。だから上手く言ってるのかな?
お付き合いをしだした学生時代は「親の稼いだ金で奢られたくない」と言っていたので大きな問題はなかったのですが、社会人になり稼ぎ出したら時の「僕の稼いだお金だからいいよね」と可愛くねだられ(?)ましたので、とりあえず私に使うお金のルールを話し合いました。
1、月に一回、そんなに高くないものを買ってください。
2、デートは二回に一回は割り勘で。
3、一志くんのお誕生日には無制限。(ただし現地に行って直接買うこと。予約などはなし)
他にも細かいことはたくさん有るけど大まかにこれくらいです。
(3)の無制限は一緒に居て高すぎるものに私が顔をしかめるから正確には無制限ではないけど。
・・・自分(私)にお金を使って欲しくなくて話し合うとか何だかおかしいけど、ほっておくと着もしない(現代社会でとっても需要がない)ドレスとか(普段ではつけれないような高い)アクセサリーとかが溢れてしまうし。
と言うわけで冒頭に戻ることが出来ました。
そう今日は一志くんのお誕生日。私にお買い物が出来る一年に一度の日。
「メイちゃん、これとこれ着てみて」「メイちゃんこれ似合うよ!」「ここの懐石ランチが美味しいんだよ」・・・・
二人で話し合って買った車(日本製のセレブなエコカー)で朝の早くから連れ回されています。
今日一日の我慢だ私。
一志くんが自分の為に使うお金にはあまり文句のない。
だって一志くんが稼いでるんだし、良いものは長持ちするし、成金みたいに下品に見えないし、持っていても私みたいに浮かないもの(べ、別に被害妄想ではありませんよ?)
「これ、一志くんに似合いそうだね。試着してみない?」
「試着の時間がもったいない。今日はメイちゃんに全てを賭けてるの!!」
朝からもう10時間以上私の買い物などにいそしむ旦那様。
毎年思うんだけど、この日には一志くんになにやら良くない脳内物質がで出るとしか思えない。
そして私は一志くんの買いっぷりにどっぷり疲れています。
半年くらい前からリサーチして
約束なかったらこの人、島とか買っちゃうかもしれないし。
社会人2年目で結婚して新婚旅行にフランスに行って、私の「素敵」の一言で観光していたお城を買おうとしたんですもん。
しかしそろそろお腹がすいてきました。
試着って体力使いますよね。
「一志くんそろそろお腹すきました」
晩御飯で本日ラストと行きたい。
「ホテルのフレンチ予約してるからこれ買ったら行こうか」
ようやくそこそこ満足してくれたようで、店員にカードを渡してお買い物終了。
疲れてフレンチの気分じゃないけど、今日は一志くんの接待。最後まで喜ばなきゃね。
なんて思っていたら、一志くんは私の体調もきっちりわかってくれていたようで、フレンチのシェフに胃に優しいモノをオーダーしてくれました。
量もかなり減らしてくれたみたいで、ラストのデザートまで美味しくいただけました。
紅茶を飲みながら、一志くんに誕生日プレゼントを渡す。
今年は手作りのネクタイ。
私はセンスにあまり自信がないので、生地屋さんで色々相談して買いました。
深い青紫の生地に白のドット。もちろんシルクですよ。イニシャルの刺繍を下のほうに入れて完成。
5人兄弟、共働き家族の長女ですからね。針仕事には自信があります。(主に繕い物や、雑巾ですが笑)
「うわぁ、メイちゃんありがとう。明日から毎日これ着けていくね!!」
「一志くんの好きな時につければいいと思うけど、毎日は止めましょうか」
私の兄弟も私の事が大好きだけど、4人合わせても一志くんの愛には勝てない気がする。
私も一志君のことが大好きだけど一志くんに少しでも気持ちを返せているだろうか?
「一志くんお誕生日おめでとう。来年のお誕生日も一緒にいてね」
一志くんはカッコいい顔をくしゃっとだらしなくして私に返事をくれる。
私の可愛い旦那様。大好きですの気持ちを込めて、毎年あなたと未来の約束。
伊集院一志(28)
奥様以外には人間味のないチートな方
奥様が「世界が欲しい」と言えば世界征服しちゃうかもしれないチートだが駄目な方
奥様にはウザイ自覚はあるが「許してくれてるしまぁいいか」と思っている割合腹黒な方
奥様を「メイちゃん」と読んでいる唯一の方
伊集院皐月(28)
自分は小心者の小ズルイエセ優等生だと思っている、綺麗でしっかり者のちょっと吝嗇家なお姉さん
大学卒業1年後には結婚が決まっていたので就職せず英会話教室の雑用バイトを趣味と実益を兼ねてやっていた
将来の夢は翻訳家。児童書が翻訳したいらしい
お疲れ様でした