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カップ麺にお湯を注いだら、女の子が出来上がった件

作者: テツみン
掲載日:2026/04/01

「カップ麺、出来ましたよ」


 そんな声が聞こえた。

 確かにオレは三分前、カップ麺にお湯を入れフタを閉じている。

 だから、そろそろ出来上がっていてもおかしくない。


 しかし、おかしいところがひとつだけあった。

 オレは、このアパートにひとりで住んでいる。つまり、誰かに声をかけられるはずはないのだ。


 オレはカップ麺を置いてあったテーブルを見た。そして、こう言った。


「おい、オマエは誰だ?」


 テーブルの上に胡坐をかいている女の子がいる。それだけでもお行儀が悪いのに、チャーシュー色のタンクトップにネギ色のショートパンツという、なんとも奇妙な格好をしていた。 白濁した豚骨スープを思わせる肌が、その具材カラーの服と妙に調和している。


 いや、そんなことはどうでもいい。コイツは誰なんだ?


「私は、カップ麺の精霊ですよ。アナタは私の入ったカップ麺を幸運にも引き当て、そして、お湯を注ぎました。そのおかげで、私はこのカラダを得られたのです!」


 なんか、わけのわからないことを言っている。中二病?

 だから、そんなことはどうでもいい。オレはカップ麺の器を覗き込んだ。なぜか空っぽだ。


「おい、どういうことだ? 麺がないぞ」

「だから、このカップ麺には私が入っていたんです。アナタがお湯を注いだことで、私が出来上がったんですって。呑み込みの悪い人ですね? もしかして認知症ですか?」


 失礼なことを言いやがる。オレは二十歳だ。認知症を発症するにはまだ早い。

 いや、だから、そんなことはどうでもいい。


「……つまり、オレが食べようとしたカップ麺の中身はオマエだった……と、いうことなのか?」

「うわっ! なにそれ。初対面の女子を食べよう――だなんて、アナタは鬼畜ですか? 鬼畜なんですね?」


 ……初対面の男に対して、下ネタをぶちかましてくる女に言われたくない。


「カップ麺の精霊と言ったか? オレはカップ麺が食いたいんだ。さっさと麺に戻れ!」

「いや、それはムリですよ」


 ――はあ?


「どういうことだ?」

「どうもこうも、私は精霊です。食べ物ではないのですよ。そりゃまあ……どうしても食べたいというなら、仕方ないですけど……初めてだから、やさしくしてくださいね」


 自称、カップ麺の精霊は頬を赤く染めて、タンクトップの肩の布をずらし始めた。


「だから、下ネタはやめろ、痴女め――それでなんだ? カップ麺の精霊とやらは、麺に戻れないんだな?」

「そうですよ。それはそうと、人間風情が精霊に対して痴女呼ばわりするなんて、思い上がりもいいところですね」


 今度はずいぶんと上から目線になりやがった。

 だがそうとわかれば、もうコイツの相手をする必要はない。押し入れから新しいカップ麺を取って来る。


「どうするのですか?」

「カップ麺を作り直すんだよ」


 くそ……一食分、無駄にしてしまった。学生のオレにとって、大きな痛手だ。


「私は?」

「……」

「もしかして、放置プレイですか? その若さで、そんな高度なプレイをどこで覚えたのですか?」

「いいから、テーブルから下りろ! 邪魔だ!」


 オレが命令すると、素直に下りた。そもそも、テーブルは乗るモノではない。下りて当然だ。


 テーブルが空いたので、カップ麺のフタを開け、ポットのお湯を注ごうとする。

 それを、カップ麺の精霊はじーっと見ていた。いつの間にか椅子に座り、頬杖をついてくつろいでいる。


「おい、いつまでそこにいるつもりだ?」

「いつまでって、私は精霊ですよ?」


 ――?

 どういう意味だ?


「精霊を呼び出したら、願いをひとつだけ叶えてもらうのは常識でしょ?」


 それはどこの世界の常識だ?


「魔法のランプの話だろ? オマエはこのカップから出てきたんだろうが?」

「それって、アナタの感想ですよね?」


 なんかムカつく。

 だが、そう言うならそれでいい。


「つまり、オレが何か願い事をすれば、オマエはここからいなくなるんだな?」

「そうですよ。アナタが一番欲していることを願えば、私が叶えてあげましょう!」


 それなら話は簡単だ。


「今すぐ、腹いっぱいになるだけの食べ物を出せ」


 これで、オレは食い物に在りつけて、コイツもいなくなる。一石二鳥だ。

 だが、精霊は「チッ、チッ、チッ」と人差し指を立て、左右に振った。


「私は言いましたよね? 一番欲していることを願いなさいと」


 また、わけのわからないことを言い出した。


「オレはハラがへっているんだ。一番欲しいのは食い物に決まっているだろ?」

「もう、自分にウソをついちゃいけませんね」


 精霊はイヤらしい目でオレを見る。


「ウソをついている? じゃあ、なんだと言うんだ?」

「年ごろの男の子が考えることはひとつでしょ?『私のようなカワイイ彼女が欲しい』。さあ、そう願いなさい」


 ――はあ?


「オマエ、何を言って――」


 さらっと、自分をカワイイと言っているし……


「ひとりで、エア彼女と毎日イチャイチャしている――そんな妄想ばかりしているんでしょ? さっさと本心を出しなさい。もう、だから童貞は面倒くさいのよ」

「うるせい! 童貞で悪かったな! オレは別に彼女なんて欲しくないんだ」

「ダメですよ。自分に素直にならないと。そんなんじゃ、いつまで経っても女の子に……うっ……」


 ――えっ?

 精霊は胸を押さえると、急に苦しそうな顔をする。


「……もう、時間が――」

「お、おい、どうした? 何が『時間が――』なんだ?」

「私はカップ麺の精霊なんです」


 いや、それはさっきから言っているのでわかった。


「カップ麺だから、時間が経つと麺が伸びて食べごろを過ぎてしまうんです」


 ――はい?


「麺なんて、どこにあるんだよ」

「あなたには、自分好みのカワイイ女の子に見えているのでしょうけど、私はカップ麺であることには変わりないのです。だから、麺が伸び切ってしまうと、私の命も尽きてしまうのです」


 ――なんだって?


「冗談だろ?」

「冗談ではありません。ほら……」


 彼女は自分の手をオレに見せる。彼女の腕が透き通り始めた。


「ちょ、ちょっと! いったい、どうすれば……」

「願ってください。『私を彼女にしたい』と――そうすれば、私のカラダはこの世界に定着し、消えることはありません」


 ――えっ?


 願う?

 コイツを彼女にしたいって??


「そ、そんなこと……急に言われても……」


 オレは困惑した。


「お願いです。私を彼女にと……」

「いや、だけど……」


 これは人助け――いや、精霊助けだ。

『キミを彼女にしたい……』

 ただ、そう言えばいい。


 なのに、なぜかそれが口に出てこない。

 どうして? 恥ずかしい? いや、違う。


 オレは認めたくなかったんだ。自分はひとりがさみしい――ということを――

 だからって、こんな出会い、ありえないだろ?

 こんな、こんな……ラブコメみたいな出会いなんて……


 そんなことをうだうだと考えている間にも、彼女のカラダはみるみる薄くなっていく。


「ああ、そこまで私のことが嫌いだったのですね?」


 嫌い?

 コイツのことが?


 たしかに、テーブルの上に乗っかるし、下ネタを言うし、人を見下すような言い方もするが――

 オレはコイツのことが嫌いだったのか?


 ――いや、違う。そうじゃない!


「オ、オレは……」


 そうだ。オレはどこかでこんなシチュエーションを待っていたのかもしれない。

 ラブコメアニメを「あんなことが現実に起きるはずはない――」なんて、冷めた目で観ながら、ああいう出会いを夢見ていた自分がいたんだ。


 そして今、それが現実に起きている。

 どうすればいい?


 簡単だ、自分の本心を伝えればいい。

 ただそれだけのことだ。


 それとも、今までのように屁理屈を並べ立て、せっかくのチャンスを水に流すつもりなのか?


 ――イヤだ。


 そうだ、今こそ勇気を出す時じゃないか!

 簡単だ。素直になればいい。

 だから――


「オレは、キミを彼女にしたい! それがオレの願いだ!」


 やっと、言えた――

 だが、彼女のカラダは段々と消えていく。


「おい、どういうことだ?」

「どうやら、遅かったみたいです」


 ――遅かった?


「ウ、ウソだろ?」


 しかし、精霊は頭を横に振る。


「だけど、アナタの気持ちは聞こえました。それだけで満足……です」

「ダメだ! しっかりしろ!」

「ほんの一瞬だけでしたけど……アナタの彼女に……なれた……気が……しまし……た……」


 次の瞬間、オレの腕の中にいたはずの精霊が、すーっと消えた。


 そ、そんな……


 ――――――――オレはバカだ。


 思えば、オレは女の子とこういうバカみたいな会話をしたかったんだ。

 カワイイ彼女が欲しい……彼女とくだらない会話を楽しみたい――ずっと、思っていたことだったんじゃないのか?


 そう、ラブコメみたいな出会いと恋をしたい――

 心のどこかで、それを望んでいた。


 オレはそのチャンスを自分でみすみす逃してしまったのだ。


 今さら、涙が出てくる。アイツの顔が頭の中から離れない。


 声を出して泣いた。こんなに泣いたのはいつ以来だろう。

 しかし、いくら泣いてもアイツはもう帰ってこない……


 しばらくして、ハラが『ぐうぅ』と鳴った。どんなに悲しくても、ハラは空く。


 オレはカップ麺にお湯を注ぎ、フタを閉めた。


「カップ麺の精霊――か」


 オレはこの先、カップ麺にお湯を注ぐ度、アイツのことを思い出すことになるのだろう。

 

「なんか……つらいな」


 そんなことをうだうだ考えている間に、三分が過ぎた。


「カップ麺、出来ましたよ」


 女の子の声が聞こえる。

 ――えっ?


 顔を上げると、豚骨スープを思い浮かべる白い肌、チャーシュー色のタンクトップという奇妙な姿の女の子がテーブルの上で胡坐をかいていた。


「なんか、願いをかなえるまで、カップ麺は私になっちゃうみたい……」


 ハ、ハ、ハ……とチカラなく笑っているのは、間違いなく、先ほど消えたはずの「カップ麺の精霊」だった。


「……おい」

「はい?」

「オレの純情を返せ」

「――ムリ」

「オレのカップ麺を返せ」

「――それもムリ」


<終わり>

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